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67章

元魔王様とリュシエルに迫る魔の手 10

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 ジルの持ち掛けた交渉は成立した。
冥府の王が長杖を持ち上げてから軽く地面を小突くと扉の中から無数の鎖が意思を持つ様に飛び出してきた。
その鎖はブリオル達を拘束しようと三人の身体にグルグルと巻き付いていく。

「な、何だこの鎖は!?」

「ひっ!?」

 突然鎖が身体に巻き付いてきてブリオルと執事は慌てている。
鎖を引き剥がそうとするも、まるで身体の一部にでもなってしまったかの様に動かない。

「冥府の王が使う魂縛の鎖と呼ばれる特殊な鎖だ。文字通り魂すらも逃さぬ鎖故に、捕まった時点でその者の冥府行きは確定事項となる。」

「冥府だと…?」

 先程は恐怖で聞き流してしまったが、今回は冥府と言う単語を聞き漏らさなかった。
ジルによる丁寧な解説も受けてブリオルがダラダラと冷や汗を流している。

 冥府と言えば死後の世界の一つで、苦しみを永遠に与えられる地獄と言う印象だ。
冥府の使いと名乗る者達が召喚魔法によってこの世界に呼び出された事が過去に数件確認されており、冥府が実在する事もその者達によって知らされている。

 そんな冥府に連れて行かれると言われれば誰もが恐怖するだろう。
唯一抗えそうなフラムはジルの氷結魔法で氷の彫像と化しているので呆気無く捕縛されている。

「冥府はさすがに知っているな?そこのスケルトンが王の世界だ。凡ゆる苦しみが存在し、魂が消滅するまで地獄を味わう事となる。まあ、自分の愚かな行動を悔やみながら受け入れるのだな。」

 ジルの言葉が終わると同時に三人に巻き付いた鎖が扉の中へと引っ張られていく。
冥府へ誘うカウントダウンが始まる。

「は、離せ!他国の貴族にこんな事をしてただで済むと思ってるのか!戦争の火種になってもしらんぞ!」

 恐怖を押し殺してブリオルが喚き出す。
何としてもこの状況から抜け出さなければならない。
あの扉を潜ってしまえば自分の未来は真っ暗だ。

「自分から他国の貴族に喧嘩を売っておいてよく言う。既にお前の運命は決まったのだ。大人しく受け入れるがいい。」

「私は解放して下さい!この貴族に嫌々仕えていただけなのです!」

 ブリオルと共に鎖に縛られた執事が泣き叫びながら助けを求めてくる。

「き、貴様!自分だけ助かろうと言うのか!」

「黙りなさい!何故私がこんな目に合わなければいけないのですか!全て貴方の責任です。」

 扉の中へとズルズル引っ張られている状況でブリオルと執事が言い争いを始める。

「ここで仲間割れとは醜い事だ。そして今更そんな戯言を聞かされても響かんな。昨日宿屋でお前達の話しを全て我は聞いているのだからな。」

「「っ!?」」

 その言葉を聞いて二人の顔が真っ青になる。
酔っていたが記憶はあるのだろう。
昨日自分達が好き勝手にリュシエルの使い道や公爵家の末路に付いて楽しそうに語り明かしていた事を。

「諦めが付いたか?ではな。」

「い、嫌だむぐぅ!?」

 抵抗しようと身体を大きく動かして泣き叫ぶブリオルに更に追加の鎖が巻き付く。
顔は目元以外覆われていて、ボロボロと涙を流しているのが見えるが自業自得だ。
そのまま抵抗虚しく三人は扉の中に引き摺り込まれた。

「冥府の王よ、突然すまなかったな。」

「構ワナイ。報酬ヲ用意スルナラバ次モ召喚ニ応ジルトシヨウ。」

 言葉ではそう言っているが人が少ない時にまた呼び出してほしいと言う雰囲気が伝わってくる。
ジルの前世についても勘付いていそうなので、久しぶりに話したいのだろう。

「頻繁に呼び出すつもりは無いが機会があれば頼むとしよう。冥府に連れて行ってもらえれば証拠が残らないからな。」

「私ノ世界ヲ便利ナ道具扱イシテイナイカ?」

 魔王時代の頃から冥府を何かと利用しているジルなので疑っているのだろう。
冥府の王の暗く光る瞳がジルを見てくる。
人族であればジト目に見えているかもしれない。

「気のせいだ。これでも感謝している。」

「ナラバイイ。」

 知らない仲でも無いので冥府の王はジルに対しては寛容な方だ。
前世の関係がまだ続いてくれているのは有り難い。

「ソロソロ切リ上ゲルカ。長クイルト負担ニナリソウダ。」

「呼び出したのは我だが、そうしてもらえると助かる。」

 冥府の王を知っているジルやシキに加えて相当な実力を身に付けたライムは普段通りなのだが、圧倒的な存在感を放つ冥府の王を前に恐怖している者も少なくない。
それだけ次元の違う強さを持っているのだ。

「此度ハコレデ帰ラセテモラオウ。マタ会エル事ヲ楽シミニシテイル。」

「待った、帰る前に首に下げている鈴だけは鳴らしていってくれよ?」

 ジルが冥府の王の首に掛けられている魔法道具の鈴のアクセサリーを指差して言う。
これを期待して呼び出したと言うのもある。
魔王時代に作った魔法道具であり、冥府の王に自分が贈った物なので効果は把握している。

「ヤレヤレ、要求ノ多イ事ダ。仕方無イ、置キ土産ヲクレテヤロウ。」

 冥府の王が首に掛けられていた鈴を手に持って鳴らすと澄んだ音が辺りに響いていく。
鳴らし終えるともう用は済んだと言わんばかりに扉を潜る。

 冥府の王が帰還すると同時に扉は自動的に閉じられた。
まるで最初から何も無かったかの様にその場から扉が消えて無くなった。
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