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65章

元魔王様とシャルルメルトの街 5

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 大量の料理を注文して食事を楽しんでいるとダナンが戻ってきた。

「こんなに注文しているとは。相変わらず大食らいだな。」

 テーブルの上に積み上げられた皿や料理を見ながら呆れている。
シキはお腹をぽっこりと膨らませて満足そうにしているが、ジルとライムはまだまだ食べている途中だ。

「ダナンの分もあるぞ。酒はエールでいいか?」

「貰おう。」

 席に着いてダナンも食事に加わる。
ドワーフは酒好きで有名なので予め大きなジョッキで頼んでおいたエールを渡すと、ジョッキを傾けてぐびぐびと呑み始めた。

「ぷはー。久しぶりのエールが身体に染みる。」

 大きなジョッキであったが一息で飲み干してしまった。
ドワーフや酒豪で無ければ直ぐに酔ってしまいそうな飲み方だ。

「エールの感想では無く情報収集の方はどうだったんだ?」

「ばっちりだ。やはり冒険者の大半は鉱山に出向いているらしい。ギルドからの依頼も多かった。」

 受付嬢だけで無く冒険者にも話しを聞いて回ったらしい。
かなりの人数が護衛として雇われたり、自分達で採掘に向かったりと結晶石が取れる鉱山に通っているらしい。

「今のシャルルメルトは鉱山関係の依頼が多いのです?」

「ああ、結晶石を採掘する間の護衛、鉱山内の危険な魔物の討伐、荷運びに採掘の手伝いなんてのもあったな。」

「まるで便利屋だな。」

 冒険者の依頼は多岐にわたるがシャルルメルトだと結晶石に全力で取り組んでいるのがよく分かる。
それだけ結晶石は領地の財源となり得るのだろう。

「シャルルメルトの周辺は冒険者の依頼が少ないからな。冒険者からすると今は仕事があるから有り難いらしいぞ。」

 結晶石はそれ自体がかなり希少であり高値で取り引きされている。
採掘関係によって発生する報酬も相当な額となるらしい。

「シキ達はこれからどうするのです?」

「早速鉱山へ、と言いたいところだが長旅だったから今日はゆっくり休むとしよう。その前にシャルルメルト公爵家にだけは行っておきたいが構わないか?」

 鉱山を利用するにあたって先に挨拶を済ませておきたい。
そうすれば明日から心置き無く採掘に向かえる。

「我は問題無いぞ。」

「シキも大丈夫なのです。」

「基本的にわしが対応するからお前達は屋敷まで付いてくるだけでいい。公爵家の場所も聞いてきたから、食べ終えたら向かうとしよう。」

 酒場で頼んだシャルルメルトの料理を充分に楽しんだ後、ジル達は公爵家の屋敷へと向かった。

「もう直ぐ見えてくるぞ。」

「あれがそうかもなのです。」

「トゥーリの屋敷よりも随分と大きいな。」

 一目で貴族の屋敷だと分かる巨大な建物が見えてくる。
これがシャルルメルト公爵領の領主が住む屋敷だ。

「伯爵家と公爵家だからな。自らの爵位に相応しい屋敷を構える必要があるのだ。」

「貴族とは面倒なものだ。」

 与えられた爵位を貶めない格が世間的には求められる。
ジルにとっては面倒だと感じるが貴族にとっては普通の事なのだ。

「失礼、少しいいだろうか?」

 領主の屋敷の門の前に立つ門番にダナンが話し掛ける。

「シャルルメルト公爵家に何用だ?」

「本日は面会の予定は無いぞ。」

 事前に予約の無いジル達に対して厳しい視線を門番達が送ってくる。
貴族の屋敷には面倒な客も多いので、そう言った者達を追い返すのも門番の役目なのだ。

「失礼、今日この街に到着したばかりなのでな。預かり物を届けにきた。」

 そう言ってダナンが手紙を差し出す。

「手紙か。差出人は?」

「トゥーリ・セダン伯爵だ。わし達はセダンの街からやってきた。」

「セダン伯爵か。分かった、少し待っていろ。」

 貴族からの手紙と聞いては門前払いする訳にもいかず、手紙を受け取った門番の一人が屋敷の中に走っていく。
少し待っていると門番が戻ってきて、門を開けてくれた。

「待たせたな。シャルルメルト公爵様が面会を希望されている。全員中に入ってくれ。」

「我達もか?」

「そうだ。」

 ジル達は屋敷の外で待機しておいて公爵の挨拶はダナンがする予定だったのだが、全員中に通ってほしいと門番は言う。

「うーむ、わしだけにはならないか?この連れは貴族への礼儀を知らないぞ?」

「公爵様は心の広いお方だ。平民への理解もあるので多少は聞き流してくれるだろう。さあ、中へ。」

 残念ながら外で待っている事は出来ず、ジル達も中に入るしかなさそうだ。

「仕方無い。ジル、極力口を開くなよ?」

「やれやれ、面倒な事だ。」

 ダナンの心配も我ながら理解しているので素直に頷いておく。

「ジル様、暴れるのも駄目なのですよ?」

「シキよ、お前は我をなんだと思っている?」

 契約精霊の言葉にジト目を向けるがシキはキョトンとした表情で首を傾げている。
自分は何かおかしい事を言っただろうかとでも言いたげな表情だ。

「公爵様、お連れしました。」

「ああ、通してくれ。」

 シキになんと返そうか考えていると目的の部屋まで来てしまった。
部屋の中から言葉が聞こえると同時に扉が中から開かれる。
中に入ると威厳のある白髪の男性がジル達を待っていた。
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