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65章

元魔王様とシャルルメルトの街 2

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 翌日、ダナンと合流したジルが向かったのは領主の屋敷だ。

「トゥーリに何か用があるのか?」

「昨日話していた件だ。王族の後ろ盾はそう簡単に使えん。代わりに貴族の紹介を貰おうと面会の予定を入れておいた。」

「そこでセダンの領主であるトゥーリと言う訳か。」

 シャルルメルトの鉱山を利用する為に貴族の紹介が得られれば順調に事が運ぶかもしれない。

「交渉で得られるかは分からないがやってみる価値はある。」

「成る程な。」

 トゥーリとは立場を超えてそれなりに親しい関係だが、今回はダナンの目的の為の交渉なのでジルが何かをする必要は無い。
口を出して自分に代わりの要求でもされては面倒だ。

「トゥーリ様への面会を希望したい。」

「昨日面会の申し出があったダナン殿ですね?お待ちしてました。」

 予約を入れていたので門番の兵士に直ぐに中に通される。
ジルの様に気まぐれで訪れる様な者の方が少ないのだ。

「急な面会ですまんな。」

「今日はトゥーリ様への面会予約が無かったので運が良かったですね。」

 トゥーリは伯爵と言うそれなりに爵位が高い貴族だ。
話しがしたいと面会を希望する者は多い。

「トゥーリ様、面会希望者が来られています。」

「通していいよ。」

 いつもトゥーリが仕事をしている部屋の中に兵士が尋ねると中から返事が返ってくる。
中に通されるとトゥーリが書類に向かって仕事をしている最中だった。

「久しぶりだな、領主よ。」

「うん、そうだね。ってあれ?ジル君も来たの?」

「まあな。」

 ダナンが面会を希望していたのは知っていた様だがジルの事は聞いていなかった。

「面会としか聞いていないけど、この二人が揃って私に会いに来るって何か企んでたりする?」

 珍しい組み合わせに少し警戒している様子だ。

「そう疑ってくれるな。わしは交渉に来ただけだ。」

「我はその付き添いだな。」

「付き添い?その交渉の内容に関わっているのかい?」

「多少はな。今はダナンに雇われているのだ。」

「ジル君を雇うだって?一体何をするつもりなの?」

 トゥーリもジルが普通の冒険者とは言えない高い実力を持っている事は知っている。
あのSランク冒険者のラブリートも認める超実力者なのだ。
故にジルを雇って何かを行うと聞けば、何か大きな事をやらかすのではないかと不安になる。

「それに関しても話そう。」

 ダナンはトゥーリと面会を希望した理由を語っていく。
内容を聞くに連れてトゥーリの警戒も解けていく。
危険な事をする為にジルを雇う訳では無いと理解したのだ。

「成る程成る程、理解したよ。結晶石を求めてシャルルメルトにね。」

「その護衛にジルを雇った。後は貴族の紹介があれば事がスムーズに運びそうでな。」

「だから貴族である私を頼ってきたって訳だね。」

 自分は頼りになる領主だからよく分かるぞとでも言っているかの様にうんうんと頷いている。

「領主に紹介状を書いてほしいと思っている。代わりにわしが出来る事があれば聞こう。」

 エルダードワーフのダナンに頼み事を出来る権利とは破格の条件だ。
武具製作を依頼されても相手が気に食わなければダナンは引き受けないので、それだけを考えても魅力的である。

「ふむふむ。どうしようかな。」

「何故こちらを見る?言っておくがこれはダナンとトゥーリの交渉だ。雇われの我を巻き込むなよ?」

 悩みながらこちらを見てきたトゥーリに釘をさしておく。
紹介状の代わりに自分に頼み事がくるなんて冗談では無い。
シャルルメルトを訪れたいのはダナンであってジルでは無いのだ。

「領主はわしよりもジルに頼みたい事があるのか?」

「うん、あるね。一応ジル君には前に貸しもあったりするよ。」

 トゥーリには借りがあるので何か言われれば引き受けなければならない。

「それを今返せと?」

「いや、これはいざって時の為に残しておきたいんだよね。シャルルメルトを訪れるなら尚更ね。」

「どう言う事だ?」

「こっちの話しだから気にしなくていいよ。さて、どうしようかな?」

 ジルへの頼みは貸しを使ってまでする程でも無さそうだ。
使う予定はあるみたいで、口振りからするとシャルルメルトが少なからず関係しているらしい。

「領主は結晶石に興味はないのか?」

「あれば欲しいけど現状はそこまでかな。どちらかと言うと何か問題を起こして、公爵家に迷惑を掛けてほしくないってのが一番かも。リュシエル姉様のスキルが発動しちゃうかもしれないからさ。」

 トゥーリも公爵令嬢であるリュシエルが危険なスキルを持っている事は知っている。
ジル達がシャルルメルトへ行って、そのスキルを発動させてしまうのがトゥーリにとっての最悪だ。
何かとトラブルに遭遇するジルなので多少は不安であった。

「姉様?姉妹なのか?」

「姉様って呼んでるだけで血の繋がりは無いよ。家柄で親しくしていて、幼い頃は世話になった事もあるんだ。」

 まだ幼いだろうと言う突っ込みは話しが逸れるのでしないでおく。

「リュシエル嬢への負担にならない事が領主の望みか。」

「それもあるけどもう一つ頼みたい事が出来たよ。私からの個人的な手紙を公爵家に届けてもらえないかい?紹介状を届けるついでにさ。」

 そう言ってトゥーリが羽ペンを持つ。
紹介状を書く条件は手紙の運搬依頼らしい。

「それは構わない。だがそれだけでいいのか?」

「うん、私の目的は達せられるからね。手紙を書くから別室で待機していてもらえるかな?」

「分かった。」

 ジルとダナンを退出させて一人になったトゥーリは紹介状と公爵家に向けた手紙を書いていく。
手紙の内容はジルに関する事が多い。
貴族への礼儀なんて無い事は伝えておくとして、現状打破の手助けになるかもしれない事も書いておく。

「リュシエル姉様、運命を変えられる出会いになるかは分からないけど、ジル君なら何とかしてくれるかもしれない。リュシエル姉様にとって今よりも良い状況に事が運ぶのを遠い街から祈っておくよ。」

 他に誰もいない執務室でトゥーリが小さな声で呟いた。
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