上 下
549 / 600
64章

元魔王様と世界最強の従魔使い 5

しおりを挟む
 昔話しはホッコが退屈そうにしていたので終わった。
レギオンハートの拠点が分かったので、また話したければ直接会いに来ればいいだけの事だ。

「それで影丸の成長だがどうするつもりだ?」

「二度説明するのは面倒だ。あの戦いが終わってから話すとするが、任せておいてくれ王よ。」

「別に疑う気持ちは無い。お前が従魔の育成に長けているのは誰もが知っている事だからな。」

 数多くの従魔を訓練して強靭な軍隊を築き上げたレギオンハートの実力は本物だ。
従魔育成において昔から右に出る者はいない。

「それで王よ、ここに来たのは影丸の件だけか?」 
「ん?何が言いたい?」

「俺はここに住んではいるが頼れる従魔達による諜報活動は怠っていない。そこの引き篭り共と違ってな。」

 そう言ってレギオンハートが視線を向けるのはレイアとテスラの二人だ。

「誰が引きこもりですか。斬りますよ?」

「相変わらず失礼な奴ね。殴るわよ?」

 二人が心外だと言わんばかりにレギオンハートを睨む。
ジルの前で心象の悪くなる様な事を言われるのが許せないのだろう。

「おー怖え、仮にもクイーンやプリンセスと呼ばれていたんだから、もう少しそれらしく出来無いのかねえ。」

「クイーン?プリンセス?」

 ホッコが聞き馴染みの無い言葉に首を傾げている。

「二人の昔の呼び名の一つだ。クイーンオブバァンパイア、サキュバスプリンセスってな。」

「おー!かっこいいの!」

「そ、そうでしょうか。」

「照れるな~。」

 ホッコの純粋な称賛に二人は照れくさそうにしている。
自分でその二つ名を名乗っていた訳では無いが、褒められると自分の様に嬉しくはなる。

「歳を考えろってな。」

「ジル様、この無礼者を殺す許可を。」

「ジル様、こんな奴生かしておく価値は無いですよね?」

 レギオンハートの言葉にまたもや態度が急変して二人が殺気を放っている。
本当に怒っているのがよく分かる。

「お、落ち着けって目がマジ過ぎるぞ?」

「二人共、こいつの言葉選びが下手なのは昔からだ。後で半殺し程度で許してやれ。」

 昔からよくこの二人を怒らせていたのでこの性格は直らないのだろう。
いつも半殺しにされていたのが懐かしい。

「止めてくれないのか王よ?」

「自業自得だ。」

 殺気を向けられて少し怯えているレギオンハートだが、そもそも怒らせたの自分の責任だ。
変に庇えば飛び火する可能性があるので犠牲になってもらうとする。

「それより話しを戻せ。」

「はぁ~、まあ、いいか。諜報活動はしてるから様々な情報が手に入る。だから何か聞きたい事があれば教えてやろうかと思ってな。」

「ふむ、教えてほしい情報か。」

 言われてみれば魔王時代もレギオンハートの従魔による諜報活動は有益な情報を齎してくれた。
それが今も続いているとなるとかなりの情報通だろう。

「ならばせっかくだし教えてもらおうか。」

「いいぞ。何でも聞いてみてくれ。」

「最近天使の行動が活発になっているのは知っているか?」

 浮島の戦力強化をする要因の一つともなった天使族の事を聞いてみる。
ジルの事を探しているのも知っているが、それにしては数が多過ぎるので別の目的もある筈だ。

「当然知っている。理由も含めてな。」

「理由も?」

「ああ。ジルと言う人族、つまり王を探している天使族もいるにはいるが殆どは別の目的で動いている。現魔王軍が近々大きく動きを見せそうでな、その警戒をしているんだろう。」

「魔王軍か。」

 元魔王ジークルード・フィーデン、四天王、重役の魔族が抜けた新しい魔王軍の事だ。
昔に比べて遥かに弱体化したらしいが新魔王を筆頭に魔王軍は健在だ。

「実際に魔王軍の魔族が協力要請にこの島までやってきたからな。羽虫共を倒すのに協力しろってよ。」

 元四天王であるレギオンハートの戦力は魔族達からすると強力な手札となる。
天使族との戦いを考えると是非協力してほしいだろう。

「それで返答は?」

「当然断った。俺はもう軍にいない。天使にも特に恨みは無いから勝手にしろってな。」

 どうやら天使族との積極的な戦闘の意思は無いらしい。
強大な戦力を保有しているレギオンハートだが戦闘狂と言う訳では無い。

「ですが天使族はそうは思わないのでは?」

「見るからに魔族なんだし攻撃されそうだけど。」

 レギオンハートはレイアやテスラと違って見た目を一切偽っていない。
天使族の格好の的だ。

「やられたらやり返す、それだけだ。天使族も俺に攻撃をするのがどう言う意味か分からない訳じゃ無いだろうしな。」

「一人で国取り出来る様な戦力だからな。簡単に手を出してはこないだろう。」

「そう言う事だ王よ。」

 レギオンハートの二つ名は多くの種族や国に知れ渡っている。
それは天使族も分かっているだろう。
戦うとなれば相応の準備をする必要がある。

「ちなみに魔王軍は何をするつもりなんだ?」

「戦争だ。天使族を滅ぼすんだとよ。」

「種族間での全面戦争ですか。」

「うへ~、まだそんな事してるんだ。」

 レイアとテスラは呆れたり嫌そうな表情をしたりしている。
戦争と言う被害ばかり生む面倒な事はジル同様したくないのだろう。

「まあ、一回ぶつかれば暫く大人しくなるだろう。魔族側に大量の死者は出るだろうけどな。」

「何故魔族側なんだ?」

「俺達を含めた多くの魔族が抜けた今の魔王軍はあの頃よりも遥かに弱い。壊滅はしなくとも敗北は確定だろうぜ。」

 確信的な表情でレギオンハートがそう言い切った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

小説教室・ごはん学校「SМ小説です」

浅野浩二
現代文学
ある小説学校でのSМ小説です

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

出来損ない王女(5歳)が、問題児部隊の隊長に就任しました

瑠美るみ子
ファンタジー
魔法至上主義のグラスター王国にて。 レクティタは王族にも関わらず魔力が無かったため、実の父である国王から虐げられていた。 そんな中、彼女は国境の王国魔法軍第七特殊部隊の隊長に任命される。 そこは、実力はあるものの、異教徒や平民の魔法使いばかり集まった部隊で、最近巷で有名になっている集団であった。 王国魔法のみが正当な魔法と信じる国王は、国民から英雄視される第七部隊が目障りだった。そのため、褒美としてレクティタを隊長に就任させ、彼女を生贄に部隊を潰そうとした……のだが。 「隊長~勉強頑張っているか~?」 「ひひひ……差し入れのお菓子です」 「あ、クッキー!!」 「この時間にお菓子をあげると夕飯が入らなくなるからやめなさいといつも言っているでしょう! 隊長もこっそり食べない! せめて一枚だけにしないさい!」 第七部隊の面々は、国王の思惑とは反対に、レクティタと交流していきどんどん仲良くなっていく。 そして、レクティタ自身もまた、変人だが魔法使いのエリートである彼らに囲まれて、英才教育を受けていくうちに己の才能を開花していく。 ほのぼのとコメディ七割、戦闘とシリアス三割ぐらいの、第七部隊の日常物語。 *小説家になろう・カクヨム様にても掲載しています。

氷の騎士団長様に辞表を叩きつける前にメリッサにはヤらねばならぬことがある

木村
恋愛
ロロイア王国王宮魔道士メリッサ・リラドールは平民出身の女だからと、貴族出身者で構成された王宮近衛騎士団から雑務を押し付けられている。特に『氷の騎士』と呼ばれる騎士団長ヨル・ファランに至っては鉢合わせる度に「メリッサ・リラドール、私の部下に何の用だ」と難癖をつけられ、メリッサの勤怠と精神状態はブラックを極めていた。そんなときに『騎士団長の娼館通い』というスキャンダルをもみ消せ、という業務が舞い込む。 「し、し、知ったことかぁ!!!」  徹夜続きのメリッサは退職届を片手に、ブチギレた――これはもう『わからせる』しかない、と。  社畜ヒロインが暴走し、誤解されがちなヒーローをめちゃくちゃにする、女性優位、男性受けの両片思いラブコメファンタジー。プレイ内容はハードですが、作品テイストはギャグ寄りです。 メリッサ・リラドール  ヒロイン 26歳 宮廷魔道士  平民出身 努力と才能で現在の地位についた才女  他人の思考を読み過ぎて先走る 疲れると暴走しがち ヨル・ファラン  ヒーロー 28歳 宮廷付騎士団団長  大公の長男だが嫡男ではない  銀髪、水色の瞳のハンサム  無表情で威圧感がすごい 誤解されがち

処理中です...