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62章

元魔王様と街巡り 2

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 屋台通りに向かったジルだったが予想外の変わり様に驚いていた。

「こんなに規模が大きくなったのか。」

 屋台通りはシキ達とも何度か来ていたが数十件の屋台が並ぶ通りであった。
しかし今ジルの目の前には奥の方が見えない程の大量の屋台が並んでいた。

「そこの兄ちゃん、見ない顔だな。良かったらうちの自慢の麺料理を食べていきなよ。」

「おいおい、男ならガッツリ肉だ肉。毎日完売してるオークの角煮丼はどうだ?」

「屋台を回るなら新鮮な果実を使った果実水をお供にどう?精霊商店から卸してる安心安全な果実を使ってるよー。」

 屋台通りに足を踏み入れると、すかさず各屋台の店主や店員がジルに呼び込みの言葉を掛けてくる。
前に比べて料理の種類も増えていてとても目を惹かれる。
そして屋台の中にはシキの店である精霊商店から卸している店もある様だ。

「どれも美味そうだな。一つずつ貰おうか。」

「「「まいどあり!」」」

 ジルの注文を受けて嬉しそうに商品を用意してくれる。
普通なら持ち歩くのが大変な量だが、ジルには無限倉庫のスキルがあるので持ち歩く量の心配はしなくてもいい。

「見た事の無い食べ物や飲み物ばかりだな。これもシキが広めた異世界の料理と言う事か。」

 商品を受け取ってみるとまだ食べた事の無い料理ばかりであった。
ジルの他にも客の入りが良いので美味しくて人気があるのだろう。

「美味い!屋台でここまでの味を提供してくるとは!」

 早速買った料理を食べてみると思わず目を見開く。
濃厚な魚介の汁と食べ応えのある太い麺料理、とろける様な肉と味の染み込んだ卵が乗った角煮丼、口の中いっぱいに広がる新鮮な果物の果実水とどれもレベルが高くて大満足だ。

「お!久しぶりに見たな、冒険者のジルじゃねえか。」

「あらほんと、最近全然買いにこないからどうしたのかと思ってたわよ。」

 屋台通りを進んでいるとジルに二人の屋台の店主が話し掛けてきた。

「馴染みの店も残っていた様だな。」

 この二人は王都に向かう前に屋台通りで見掛けた事のある者達だ。
今でこそセダンの屋台通りは大きくなったが、それを昔から支えてきた者達もまだ残っていた。

「客足は順調か?」

「少なくはねえがもっと来てほしいとは思ってるな。屋台通りも随分と増えちまって客が分散してるからよう。」

「シキちゃんが広めている料理ってどれも美味しいから仕方無いんだけどね。」

 これだけの屋台数ともなれば客が分かれていくのも仕方が無い事だ。
ジルの様に一度に大量に食べられる者はそういないので、普通の者ならば屋台を数件回れば腹は膨れる。
そうなれば客が少ない店も出てくるだろう。

「新しい料理は教えてもらったりしないのか?」

 二人の店では前に何度か購入しているが、以前と商品は変わっていない。

「串焼き一本、それがうちの信念ってな。」

「新しくて美味しい料理が増えて料理人も客も気になるのは分かるけど、これまで続けてきた料理も続けていきたいのさ。」

「成る程な。確かにここの串焼きとスープは我も好物だからな。よし、久しぶりだし五十人前ずつ買わせてもらおうか。」

 新しい異世界の料理も美味しいが、屋台通りを支えてきた味も素晴らしいのだ。
美味しい料理を出す屋台に廃れてほしくはないので、ジルとしては少しでも貢献したい。

「おいおい、そんなに買って大丈夫か?」

「我に収納スキルがあるのは知っているだろう?駄目にして捨てるなんて事にはならないぞ。」

 料理人を侮辱する様な事はしない。
改めて無限倉庫があって良かったと思う。

「結構な金額になるけど大丈夫かい?」

「冒険者として稼いでいるからな。金の心配もいらん。」

「それなら有り難く焼かせてもらうぜ。」

「こっちも直ぐに作らせてもらうね。」

 ジルから大量注文を受けて嬉しそうに作り始める。
これからも長く続いてほしいものだ。

「おやじ、串焼きをくれ。」

 ジルの背後から注文をする男性の声。
新しい店が増えても長く続いてきた店の常連は多そうだ。

「あいよー、ちょっと待ってな。今五十人分の注文が入ったからよ。」

「五十人分!?一体誰が…ってジルじゃねえか!」

「アレンか、久しぶりだな。」

 振り向くと見知った顔があった。
串焼きを注文したのは冒険者のアレンだった。
孤児院をきっかけに知り合ったCランクの冒険者だ。
共に依頼を受けてAランクの特殊個体を倒した事もある。

「最近見ねえと思ったら急に現れやがって。どこ行ってたんだ?」

 ジルにとっては珍しい事だが、たまにアレンとは依頼を受けたり酒場で飲んだりしていた。
気を使わなくてもいい気楽な関係なのでジルとしても好ましい相手だ。

「護衛の依頼で王都までな。長旅で帰ってくるのに時間が掛かった。」

「王都に行ってたのか。そりゃあ時間が掛かる訳だ。」

 アレンが同情する様な視線を向けてくる。
護衛依頼で往復したい距離とは思えない。

「アレンも腹ごなしか?」

「まあな。ついでにチビ共の目付役だ。」

「孤児院の子供か。」

 後ろを指差すと遠くの方で美味しそうに料理を食べる子供達が見える。
アレンの出身でもある孤児院の子供達だ。

「定期的にこうやって連れ出して買い食いさせてやってんだ。あの頃に比べて孤児院も余裕が出てきたからな。」

 特殊個体の討伐やアレンの普段の頑張りで孤児院の経済状況も悪くない様子だ。
それに昨日シキが孤児院の者達を雇っている事も聞いたので、その収入も少なからず足しになっているだろう。

「ってか言うのが遅くなっちまったなジル。」

「なんだ?」

「お前のおかげで孤児院が救われた。感謝している。」

 そう言ってアレンが深々と頭を下げてきた。
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