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56章

元魔王様と魅了で敵対 9

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 武器を鞘に仕舞ったジルを見てキュールネが驚愕の表情を浮かべている。

「武器を仕舞って大丈夫なのですか!?」

「武器に頼らなければ戦えない様な軟弱な鍛え方はしていない。それに操られているとはいえ、従魔であるホッコをあまり傷付けたくはないからな。」

 銀月で戦えばその身を刃で傷付けてしまう。
操られているとしてもやりたくはない。

「…分かりました、それでは私はインプや他の魔物を相手します。」

 ホッコはジルに任せる事にして、それに集中出来る様にキュールネは他の魔物を担当する事にした。

「キュールネまで操られないでくれよ?」

「魅了に簡単に掛かっていてはトゥーリ様の護衛は務まりません。」

「頼もしいな。」

 魅了の対策は何かしら用意している様だ。
さすがはAランク冒険者である。

「さてホッコよ、我に歯向かって勝てると思っているのか?」

「クォオ。」

 ホッコの持つ剣がピキピキと音を立てて氷を纏っていく。
アイシクルエンチャントで強化した様だ。

「魅了魔法で危機感知能力が失われたか。我に挑むのが無謀だと言う事を思い出させてやろう。」

「キキー!」

「クオオオン!」

 ホッコがインプの指示で突っ込んでくる。
氷を纏った剣を横薙ぎに振るってくる。

「少し痛いかもしれないが我慢しろよ。」

 ジルが少し身を屈んで剣を回避してホッコの懐に潜り込み、服を掴み背負う様にして投げる。

「クオッ!?」

 地面に叩き付けられてホッコが苦悶の表情を浮かべている。

「背負い投げだったか?異世界の技だ。」

 怪我はさせていないがダメージはある程度与えられた。
しかしホッコが自身の尻尾を身体の上に乗せて光りを浴び始める。

「神聖魔法による回復か。これは長引きそうだな。」

「クオオオン!」

 回復したホッコが勢い良く立ち上がり、周囲に生み出した複数の氷の塊をジルに向けて放ってくる。

「おっと、中級のヘイルショットか。使うのは初めて見るが、こっそり練習でもしていたか?」

 飛んでくる氷を回避したり拳で砕きながら対処していく。

「キュールネは他の魔物の相手でまだきつそうだからもう少し痛い思いをしてもらうぞ。」

 魅了魔法は術者を倒すか、対象者を気絶させるかしないと解けない。
どちらかを行うタイミングを見極める必要がある。

「クォオ!」

「っ!?」

 ジルが近付いたタイミングでホッコが魔法を発動する。
眩い光りが視界一杯を覆ってジルの視力を一時的に奪う。

「厄介な戦い方をしてくれる。誰だ、こんな風に育てたのは。」

 ホッコを毎日鍛えていたのはジルなので少なからず自分にも責任はあるが、今はインプに操られているので自分のせいではない。

「クオオオン!」

「キキー!」

 ジルが視界を奪われている隙にホッコとインプが同時攻撃を仕掛ける。

「チャンスとでも思われていそうだな。」

 二人の攻撃は目を閉じたジルに楽々回避された。
視界を奪ったのに攻撃が当たらず驚いている。

「残念だが視界を奪った程度で我は倒せんぞ。」

 ジルには心眼のスキルがあって、目に頼らなくても周囲の情報を得る事が出来る。
これを使っている間は近くにいるホッコやインプの動きが手に取る様に分かる。

「一先ずその剣は邪魔だ!」

「クォン!?」

 瞬時に近付いたジルがホッコの持つ剣を魔装した拳で思い切り殴り付けて吹き飛ばす。

「隙ありだ。」

「クオッ!?」

 そして再び背負い投げをしてホッコを地面に叩き付ける。
すると先程と同じく神聖魔法で回復を行っている。

「また神聖魔法か。だがホッコ、狙いはお前では無い。離れたのは失敗だったな。」

 ジルはホッコを放置してインプに向き直る。

「イグニスピラー!」

「キキー!?」

 ジルの魔法によりインプを覆い尽くす様に火柱が噴き上がる。
強烈な熱気を放つ火柱にインプが捉えられている。

「目に頼らずともスキルのおかげで正確な位置は補足出来ている。ホッコが近くにいなければ身を守れないだろう?」

「キ…キー。」

 インプが身体を燃やし尽くされて、徐々に身体の形を保てなくなっていく。

「クオオオン!…はれっ?」

 インプを助けようとホッコがジルに攻撃を仕掛けようとするが、その途中で魅了状態が解ける。

「おっと。」

 正面から走ってきたホッコを優しく受け止めてやる。
するとホッコは不思議そうな表情で首を傾げている。

「主様…おかしいの。今主様に攻撃しようとしていたの。」

 自分がしようとしていたあり得ない行動に困惑している。

「やっと正気に戻ったか。ホッコは魅了魔法で操られていたのだ。」

「操られてたの!?御免なさいなの!」

「気にするな。今後は掛けられない様に気を付ければいい。」

 その為にも精神面を鍛える訓練をしてやるつもりだ。

「分かったの。夢を見ているみたいで変な感覚だったの。」

「魅了魔法は意識が薄らと残っているからな。それが原因だろう。」

 その状態が変だと感じて途中で魅了状態を抜け出す者もいるのだが、ホッコにはまだ難しかった様だ。

「ふぅ、なんとかなりましたね。インプを倒せず申し訳ありませんでした。」

 キュールネが魔物達の相手を終えて戻ってくる。

「数が多かったからな。仕方無いだろう。」

「魔物達はインプが倒されて魅了魔法が切れたので散っていきました。追い掛けますか?」

 見ると方々に生き残った魔物が散っていくところだった。
インプを倒した事でホッコと同じく魅了状態が解除され、格上のジルに恐れをなして逃げていったのだ。

「目的は達したし魔物も大量に倒せたから大丈夫だ。回収して戻るとしよう。」

「畏まりました。それとホッコ様、こちらが落ちていましたよ。」

「ホッコの剣なの。そう言えば主様に吹き飛ばされた気がするの。」

 ホッコがキュールネが拾ってくれた剣を受け取る。
するとその瞬間にバキンと言う音と共に刀身から真っ二つになって片方が地面に落ちる。

「折れたのー!?」

 受け取った剣が半ばから折れてしまい、ホッコが悲鳴を上げていた。
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