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54章

元魔王様と聖女の魔法訓練 6

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 日が傾き始めた頃、グランキエーゼはついに超級神聖魔法のパーフェクトヒールを習得した。

「やってやったわ!」

 念願の魔法を習得出来た喜びでその場に立ち上がって喜ぶ。
その際にぽっこりと膨れたお腹がポヨンと揺れていた。
地面には空になったポーションの容器が何十本も落ちているのでそうなるのも当然だ。

「聖女グランキエーゼ、超級神聖魔法の習得おめでとう。」

「ありがとうございますトゥーリ伯爵!」

 辛い思いもしたが習得出来た事で晴れやかな笑顔を浮かべている。

「これであの司祭に頼らなくても済むわね。」

「もうあんな行いはさせないわ!暫く王都に滞在する予定だし、本国の大司祭様にも連絡を取ってやるんだから!」

 ユテラの行いを罰する計画を早速練っている。
同じ教会に所属する者として許せないのだろう。

「王都の民も喜ぶと思うよ。値段で手が出せなかった者もいると思うからね。」

 あの価格では簡単に治療を受ける事は出来無い。
しかし市販のポーションで治せる範囲にも限度があるので、神聖魔法に頼らざるをえない者も少なからずいる。
今までは背に腹は変えられないと高い金額を支払っていた筈だが、これで今後は改善されるかもしれない。

「それでグランキエーゼちゃんの提示する正規の治療代は幾らくらいなのかしら?」

 普段からあまり怪我をせず、光魔法を使えるラブリートは教会とあまり縁が無かったので分からない様だ。

「金貨3枚なのだけれどどうかしら?」

 少し不安そうに尋ねるグランキエーゼ。
自分の提示する額も高いと文句を言われるのを恐れているのだろう。

「安いわね、充分大金ではあるけれど。」

「ユテラ司祭とは随分と違うね。ジル君が暴利って騒ぐのも納得だよ。」

「魔法を使用するだけで金貨が数枚貰えるのも中々の収入だ。それなのに大金貨とは欲張り過ぎなのだ。」

 三人の反応を聞いてグランキエーゼがホッとしている。
高い事は高いがそれだけの額を取るに値する魔法でもあるのだ。

「神聖魔法の高い適性持ちは少なくて高位の魔法は魔力も多く使用するから少し高い献金をしてもらわなくてはいけないのは仕方が無いわ。だからと言って私服を肥やす為に教会が存在している訳では無いの。」

 あまり安い額で治療してしまうと神聖魔法の使い手が引っ張りだこになってしまって手が回らなくなってしまう。
なのである程度の金額は仕方が無いが、教会に所属している以上はルールがある。

「あの司祭はどうなるんだ?」

「王都の教会からは退いてもらう事になるでしょうね。最悪の場合は教会から追放かしら。」

「中々に容赦の無い対応だけど、治療よりも金稼ぎが目的になっていたのなら当然かな。」

 誰もその判断に否を唱える者はいない。
当然の対処としてグランキエーゼには頑張ってもらいたい。

「司祭の話しはこれくらいにしておきましょう。超級神聖魔法が使える様になったんだもの、早く綺麗な状態に戻してあげたいわ。」

 エレノラを見てグランキエーゼが言う。
年頃の若い娘がいつまでも酷い外見で過ごしているのは可哀想だ。

「そうだね、早速頼めるかい?」

「任せてちょうだい!」

 グランキエーゼが自信満々に頷いてエレノラに近寄る。

「それじゃあいくわよ?」

「は、はい。お願い致します。」

 少し緊張した様子でエレノラが頷く。

「魔力を糧とし、大いなる再生の光りよ、この者の凡ゆる怪我や欠損を癒し、正常な状態に戻したまえ、パーフェクトヒール!」

 グランキエーゼの両手から光りがエレノラに降り注ぐ。
エレノラの身体を包み込んだ光りが収まると怪我は全く治っていなかった。

「失敗みたいね。」

「あらら。」

「自信満々の割に締まらない奴だ。」

「し、しょうがないじゃない!ついさっき使える様になったばかりで安定して使うにはまだまだ訓練が必要なんだから!」

 三人の視線を受けて恥ずかしそうにグランキエーゼが言う。
使える様になったばかりの魔法だとこう言った事はよくある。

「分かった分かった。今度は成功させてくれよ。」

「くっ、これ以上無様は見せられないわ。」

 既に手遅れ感はあるが言わないでおく。

「すぅーはぁー。魔力を糧とし、大いなる再生の光りよ、この者の凡ゆる怪我や欠損を癒し、正常な状態に戻したまえ、パーフェクトヒール!」

 エレノラに向けているグランキエーゼの両手から、先程よりも神聖な光りが降り注いでいく。
それが徐々にエレノラの身体に移動して、失われた片目や火傷跡のある両足に纏っていく。

 そして一瞬目を覆いたくなるくらいに強く発光して直ぐに光りは収まった。
目を開けてエレノラを見ると、失われた片目は元に戻り両足の火傷跡も綺麗に無くなっていた。
エレノラは元の姿を完璧に取り戻せていた。
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