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49章

元魔王様と王都ジャミール 7

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 暫く痛みに悶絶していたトゥーリだったが、奴隷商人も戻ってきたのでジルの言っていた件について尋ねてみる。

「店主、どうやらまだ私の条件に合う人物がいるらしいがこれで終わりなのかい?」

 痛みの残る額を抑えながらトゥーリが尋ねる。

「え?それはどう言う事でしょうか?」

「隠していると言う訳では無さそうだね。実は彼が地下にまだ実力のありそうな者がいそうだと言っているんだ。」

「地下ですか?確かに奴隷は地下にもいますが。」

 奴隷商人がジルの事を見て首を傾げている。
実際に見た訳でも無いのに何故分かるのかと思っているのだろう。

「その中でも特に殺気だっている奴だ。我はずっとそれを感じている。」

「成る程、お客様が仰っている奴隷が誰か分かりました。ですが分かった上でもセダン伯爵様の条件には合いませんね。」

 ジルの言葉に納得した様子を見せるが、それでも紹介するつもりは無さそうだ。

「何故だ?それなりに実力がありそうだと感じているのだが?」

「確かに元Bランク冒険者なので実力はありますよ。万全の状態であればですが。宜しければご覧になりますか?少々刺激が強いかもしれませんが。」

 何やら含みのある言い方をしてくる。
その表情からもお勧めはしないと言う感情が伝わってくる。

「そうだね、せっかくだし見せてもらおうか。」

「畏まりました、こちらへどうぞ。」

 子供達を待機させて二人は地下に連れられていく。
地下には多くの奴隷達がいて、奥に進むと自分では出られない様に檻の中に入れられている奴隷もいた。
そしてジルが感じていた殺気の主もその中にいた。

「おそらくお連れ様が言っているのはこちらの奴隷の事ではないでしょうか?」

「その様だ。」

 檻の中からジル達を睨む女性の奴隷。
隠そうともしない殺気がビシビシと伝わってくる。

「随分と酷い状態だね。」

 その奴隷は身体中に傷があり、片目が失われて両足は酷い火傷を負っていた。
市販のポーションでは治せないレベルだろう。

「私の商館に売られた時は既にこの状態でしたからね。何かしらのトラブルがあったのでしょう。」

「何があったか聞いていないのかい?」

「この状態ですからね。会話もまともに出来ていないのです。」

 奴隷商人は困った様に息を吐く。

「ジル君どう思う?」

「我は買いだと思うぞ。治す当てがあるならな。」

 万能鑑定で見てみたが戦闘系のスキルは持っているので戦力としては期待出来る。
Bランク冒険者としての実力は充分にありそうだ。
だがそれも元の状態に戻せればの話しである。
今の状態ではゴブリンにも負けるかもしれない。

「うーん、教会の司祭様ならいけるかな?つい先日他国に出掛けていた司祭様が王都に帰ってきたらしいから。」

 教会のトップクラスの地位となる司祭ならばこの怪我も治せるのではないかとトゥーリは考えた。
司祭は光魔法だけでは無く神聖魔法の高い適性も持ち合わせているので、部位欠損すらも治せる魔法を使える。

 ちなみに神聖魔法の適性であればジルの従魔であるホッコも持ってはいる。
しかし残念ながら高位の神聖魔法まで使えるレベルには至っていないのでこの治療は難しいだろう。

「宜しいのですか?かなり根が張ると思われますが。」

 おそらく奴隷としての値段よりも遥かに高い金額を要求される事になる。

「護衛の彼がお勧めしてくれているしね。買わせてもらうよ。」

「ありがとうございます。早速手続きをしましょう。」

 奴隷商人としては売れ残る奴隷を引き取ってもらえるのであれば感謝しかない。

「今日から主人になるトゥーリ…。」

「お前貴族だろ!私は貴族なんて信用しない!御せると思わない事だ!」

トゥーリが話し掛けると奴隷が声を張り上げて言う。

「貴族と何かあったみたいだね。」

「見た目の割に元気だな。」

 奴隷にそんな事を言われてもトゥーリは特に気にした素振りを見せない。
それくらいで不敬罪だと騒ぎ立てる様な貴族では無いのだ。

「こちらは伯爵様だぞ。奴隷としてこれから主人になる方への言葉遣いを改めろ。」

「うるさい!私に指図するな!入ってきたら噛み殺すぞ!」

 奴隷商人が注意するも奴隷は言葉を改めるどころか更に怒りを露わにする。

「随分と凶暴だね。」

「相当誰かを恨んでいるのでしょう。ここに入れるのにも屈強な男二人がかりでしたから。今連れてきましょう。」

「いや、ジル君がいるから大丈夫だよ。」

 奴隷商人を手で制してジルに視線を向ける。
この奴隷をなんとかして大人しくさせてほしいのだろう。

「雇い主がお前を買うから大人しく…。」

「うるさい!それ以上近付くなら殺すぞ!」

「…黙れ。」

「っ!?」

 一瞬にして膨れ上がったジルの殺気に奴隷が気押される。
ある程度の実力を持つ者であればジルの殺気を感じただけで実力の違いを理解出来るだろう。

「そのまま大人しく奴隷の手続きに応じろ。死にたくはないだろう?」

「…。」

 奴隷は冷や汗をかいて口を紡ぐ。
逆らえば本当に殺されると恐怖を抱いている様だ。
ここまで明確な実力差を感じる相手に会った事が無いのかもしれない。

「おおお、ここまで大人しくさせるとは。いやはやお見事ですね。」

「一体何をしたんだい?」

「少し殺気を向けてやっただけだ。実力差を理解出来るならこれが手っ取り早いからな。」

「少しなのかな?」

 トゥーリが奴隷の女の子を見て首を傾げている。
ジルと話してから大人しくなっただけで無く、怯える様にプルプルと小刻みに震えて大量の冷や汗を流していたからだ。
それでもジルおかげで大人しく檻の中から出てきてくれた。
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