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46章

元魔王様とエルフの里 3

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 エルミネルの呪いも解けて魔力も回復したので、早速ジル達はエルフの里の入り口がある場所を目指して街道を走っていた。
馬を扱うよりも魔装して走った方が速いのだ。

「もう少し静かに走れんかのう?年寄りは労わるもんじゃぞ。」

 走っているとそんな文句が背中から聞こえてくる。
その声の主はエルロッドだ。
現在ジルに背負われながらの移動となっている。

「文句があるなら自分で走れ。」

「わしはもう若くない。お前さん達の様にはいかんのじゃ。」

 エルロッドも全盛期は冒険者として活動していたらしい。
なので魔装も習得していたりするのだが、歳をとってからの魔装による走り移動はさすがに負担が大きい。
もう身体は若くないのである。

「ならば黙って背負われていろ。」

「そもそも必要?」

「酷い言われようじゃのう。」

 エルミネルが小首を傾げているのを見てエルロッドが溜め息を吐く。

「人族を自ら里に招くなど前代未聞じゃ。必ず揉め事が発生すると分かっているんじゃから仲裁役が必要じゃろう。」

 エルフ族からの要請ではあるが、人族の過去の行いから見ても心良く歓迎される事は無いだろうとジルも思っている。
命を狙うまではいかないと思いたいが、罵声や嫌がらせくらいは普通にありそうだ。

「私も出来る。」

「エルミネルには向いておらんな。」

「我もそう思う。」

 戦闘と睡眠が何よりも好きなエルミネルは他の事にあまり関心が無く、交渉事に向いているとは思えない。
ジルに敵対的なエルフを会話では無く武力で黙らせないか不安である。

「そろそろ着く。」

「ジル、そこを右に曲がった森の中じゃ。」

 言われた通りに街道を避けて森の前に移動する。
しかし草木が生い茂っており獣道すら無く、進むのに苦労しそうだ。

「一先ず街道から見えなくなるまで進むとしよう。」

「分かった。」

 エルロッドを降ろして草木を掻き分けて前に進む。
視界に映るのは自然ばかりだ。

「ここまで奥に行けば問題無いじゃろう。」

「尾行も無い。」

 エルミネルが後ろを振り返って確認している。
不思議な事に歩いてきた道が踏み荒らされる前の状態に戻っている。
エルフの里の入り口があるので痕跡を消す為の措置かもしれない。

「空間を繋ぐ道よ、ここに!」

 エルロッドが何も無い空間に手を伸ばしながらそう言うと、それに反応する様に目の前の草木が二つに分かれて道が出来る。
これは魔王時代にも見た事がある。

「ここを通ればいけるのか?」

「うむ、魔法で入り口を繋げているのじゃ。エルフにしか出来ぬがな。」

「ジルは一緒だから通れる。」

 人族だけではエルフの里に行く事は出来無い。
更に邪な考えを持つ者も通る資格は無いらしい。
エルフが同行者と認めた者であれば一緒に入り口を通ってエルフの里まで入れると言う。

 エルロッドを先頭に草木が分かれた道を進む。
先程までと特に変わらない森だったが、少し進むと別の森に来たと分かるくらい周囲の雰囲気が変わる。
後ろを振り返ると既に草木が元に戻っており、道は塞がれていた。

「もう里の中なのか?」

「近くの森じゃ。直ぐに里が見えるぞ。」

 進むに連れて大木の上に作られた見張り台やツリーハウスが見えてくる。
エルフ達が住む里が見えてきた様だ。

「ふむ、ここからでも感じられるな。」

「これ程とは、わしは力になれそうにないのう。」

「大丈夫、ジルと二人でやる。」

 三人はまだエルフの里に入っていないが既に魔物の気配を感じ取っていた。
それくらい厄介な魔物の様だ。
そして里の入り口に到着すると、木に力無く寄り掛かっている複数のエルフが目に入る。

「ははっ、本当にエルミネルが人族を連れてきたか。」

 エルフの青年がこちらを見て力無く笑っている。
呪いによる痣が複数見て取れる。

「信用出来る者じゃから安心せい。今はとにかく回復に努めるのじゃ。」

「エルロッドさんか。すまない、助かるよ。」

 光魔法による治療を試みている。
神聖魔法でなければ治せない呪いもあるので、一先ず軽度の呪いを解呪する。
これでもエルフ達はずっと楽になるだろう。

「魔物は?」

「同じだ、ずっと世界樹に止まっている。」

 そう言って力無く指差す方角には道中で見た大木なんて比較にもならない程の巨木が見える。
エルフの里の象徴とも言える世界樹だ。

「魔物は世界樹目当てか。」

「そう。豊富な魔力を食べてる。」

 世界樹は膨大な魔力を取り込み内包しており、周りの自然に力を与えている。
それにより世界樹の周りは実りが多く、エルフ達はそれにあやかって生活している。
代わりに世界樹を害そうとする者から守っているのだ。

「既に世界樹の一部は枯れてきている。一刻も早く魔物を排除しなければ。」

「無理をするでない。呪われたお主らでは足手まといじゃ。」

 エルフ達には魔封じの呪いもある。
魔力が枯渇したエルフでは何も出来ず返り討ちに合ってしまう。

「我も少しは解呪に貢献してやろう。」

 そう言ってジルが青年の近くにいる別のエルフに近付く。

「人族、私に何をするつもりだ。」

「安心しろ、危害を加えるつもりは無い。少し吐き気を催す程度だ。」

 ジルは無限倉庫から取り出した紫色の怪しい液体の入ったガラス瓶をエルフの口に付ける。
エルロッド達が信用して連れてきた人族であり抵抗する気力も無いので、されるがままに液体を流し込まれる。

「げほっげほっ、なんだこれは。」

 エルフは美しい顔を歪ませて舌を出している。
相当不味かった様だ。

「痣が消えてく。」

「えっ?」

 エルミネルに言われて自分の身体を見ると幾つかの痣が消えていくのが分かる。
つまり複数の呪いが解呪されたと言う事だ。

「効果は光魔法と変わらないが無いよりはいいだろう。我らは魔物の討伐に向かうから他の者の解呪は任せるぞ。」

「あ、ああ。」

 ジルからポーションを預かったエルフが頷いている。
解呪出来る呪いにも限りはあるが、ある程度動けるくらいにはなるだろう。
後はエルロッドに任せてジル達は魔物のいるエルフの里に足を踏み入れた。
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