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42章

元魔王様と浮島の第一住民 4

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 それを見たワーウルフはビクッと身体を震わせて首を振っている。

「ウワオン、ウォンウォン!」

 何を言っているのかは分からないが必死に何かを伝えようとしている。
ナキナの発言が本意では無いのかもしれない。

「何かを焦って伝えている様に見えるぞ?」

「ナキナの翻訳が間違っていたのです?」

 二人がナキナを見るとライムが新たに何かを伝えていた。

「成る程のう、どうやら言葉には続きがあった様じゃ。ライム殿の言いたい事を完全に把握出来無いとは妾もまだまだじゃな。」

「いや、充分凄いと思うのです。」

 ライムの言葉を聞き終わったと勝手に思い込んだ自分を反省している。
シキの言う通りそんな特技を持っているのはナキナくらいだと思われるので充分に凄い事だ。

「それで何だったんだ?」

「従魔にはならぬが力にはなるから殺さないでほしいと言ったところじゃろうか。」

 続きの言葉をナキナが口にするとワーウルフは何度も大きく首を縦に振っている。

「それは我々の指示に従うと言う事で間違い無いか?」

 ジルの言葉にもワーウルフは何度も大きく首を縦に振って肯定している。
従魔登録はしないが協力体制にはなってくれるらしい。

「それならば問題無いな。他のウルフ達もしっかり従えてくれ。」

「ウオオオン!」

 ワーウルフが遠吠えすると周りのウルフ種が全て頭を下げて平伏す。
どうやら全員協力関係に不満は無さそうだ。

「反抗的な者はいない様だな。」

「ジル様に敵う魔物なんてそう簡単にはいないのです。それと影丸の存在も大きそうなのです。」

 シキがちらりとナキナの従魔である影丸を見て言う。
ウルフ種の中には影丸に怯えている者も少なくない。

「影丸もウルフ種じゃからのう。」

「それもAランクの上位種なのです。同種の魔物として格上には逆らいづらいのです。」

 同種の魔物だからこそ力関係が直ぐに理解出来るのだろう。
自分達を率いているワーウルフよりも影丸の方が強いので、逆らわないのも納得だ。

「それならば影丸に指揮を任せてもいいかもな。」

「ウォン?」

 ジルの言葉に影で自分を指して首を傾げている。

「有事の際の話しだが、浮島で争い事になった時は影丸の指揮の下、防衛の戦力になってもらいたい。だが普段は浮島で自由に過ごしてくれて構わない。」

「「「ウオオオン!」」」

 ジルの言葉にワーウルフに続いてウルフ達も遠吠えしている。
異論は無いとでも言ってそうだ。

「受け入れてくれた様じゃな。」

「戦力大幅アップなのです。」

「従魔では無いがこの数は浮島の戦力として充分だろう。魔の森の魔物も定期的に間引いてくれるだろうしな。」

 三人は無事に目的を果たせて喜び合う。
魔の森があるので餌も豊富であり、放っておいても戦力は拡大していくだろう。

「これにて解決なのです。仕事に戻るのです。」

「仕事?何かしていたのか?」

「魔法道具の整理ついでに色々と試していたのです。」

 ここは人目を気にしなくても良い浮島だ。
封印指定に仕分けられた魔法道具も用途を誤らなければ使いたい放題である。

「そう言えばジル様、お金は手に入ったのです?」

「殆ど無くなったからある程度は増やしてきたぞ。」

 まだ心許ないがこれでも充分な額になった。
暫く生活する分には困る事は無い。

「早速使ってもいいのです?」

「異世界通販か?また直ぐに無くなるぞ?」

 異世界通販は金食いスキルだ。
どれだけあっても金は足りない。

「実験でどうしても必要なのです!美味しい物の為なのです!」

「そう言われては断れんな、許可する。」

「やったのです!」

 シキは両手を上げて喜びながら異世界通販のスキルを使用して画面を出す。
美味しい食べ物と聞けばジルも食べてみたいので許可せざるをえない。
それだけジルにとって食の存在は大きいのだ。

「なんだそれは?」

「異世界の果物なのです。そしてこっちはその果物のドライフルーツなのです。」

 シキが無限倉庫から取り出したテーブルの上に二つの物を並べて説明する。

「果物は分かるのじゃが、ドライフルーツとはなんじゃ?」

 こちらの世界にも存在するがあまり市場に出回らないので目にする機会が無かったのかもしれない。

「簡単に言うと果物を乾燥させた物なのです。」

「美味しいのか?」

「勿論なのです。皆で食べ比べてみるのです。」

 シキに言われてナキナが果物を剥いてくれる。
護衛としてシキの周りにいる機会が多いので、こう言った事も自然と出来る様になってきたらしい。

「同じ果物とは思えないな、どちらも美味い。」

「ドライフルーツは栄養も高くて長期保存にも向いている便利食材なのです。」

「妾はドライフルーツの方が好みじゃのう。幾らでも食べられそうじゃ。」

 三人は食べ比べてみてドライフルーツの美味しさを知った。
見た目は別物の様だが味はしっかりと残っている。

「せっかく買ったのに全部食べちゃったのです。」

 数分もすればどちらも三人の胃袋に消えてしまった。

「ドライフルーツが食べたかっただけか?」

「違うのです!ドライフルーツを実際に作れるか試したかったのです!」

 そう言ってシキは再び果物とドライフルーツを異世界通販で購入した。
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