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34章

元魔王様とルルネットの可能性 2

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 翌日、ルルネットの魔法の訓練に付き合っているが、明らかに普段と様子が違う。
訓練用の的を魔法で狙ういつもの訓練なのだが、半分近くが的から逸れてしまっている。
普段出来ている事が今日になって急に出来ていない。

「ルルネット、集中出来ていない様だな。」

「ご、御免なさい。」

 本人も自覚はあるのか申し訳無さそうに謝っている。
普段の強気な態度もすっかり無くなって大人しい。

「少し休憩だ。座って休むといい。」

「うん。」

 ルルネットが椅子に座るとサリーが冷たい飲み物を用意してくれる。
サリーも仕える主人の元気が無くて心配している。
しかしその理由が分かっているので、自分ではどうしようも出来ずジルに全てを委ねてくれている。

「昨日の話しか?」

「っ!うん。分かりやすいよね。」

「そりゃあな。」

 これだけ露骨に雰囲気が変われば誰でも分かる。
ルルネットの普段の様子を知っていれば尚更だ。

「我らが帰ると寂しいか?」

「そうみたい。だからこんな感じなのかも。」

 共に過ごしているうちに、セダンの街に帰ってしまうのが凄く寂しいと思う程にジル達の存在がルルネットの中で大きくなっていた。

「最初の印象はさ、私の友達を、お姉様の相棒を、この街の守護精霊を奪った最低な平民だって思ってたわ。」

「そこまで言われると我も凹むぞ?」

 ルルネットとの初対面の印象は悪く思われてそうだとは思ったが、予想よりも遥かに辛辣な言葉が聞こえる。
ジルのメンタルも無敵では無いので普通に傷付く。

「でも会って数日でジルがそんな人じゃ無いって直ぐに分かったの。それどころかシキとの関係を見ていると、それが自然な事なんだって気付かされた。」

 シキとブリジットの契約していた期間は知らない。
ジルが魔王時代に契約していたのが2年程だったので、転生後を含めても契約期間ではブリジットよりも少ないかもしれない。

 だがそんな契約期間なんて関係無い程にシキとは濃密な時間や壮大な出来事を共に体験してきた。
隣りにいるのが当たり前の存在だったのだ。

「そしてジルと訓練したり、ダンジョンに潜ったり、魚を獲ったり色んな事をしたわ。全部が新鮮で凄く楽しくていつまでもこんな時間が続けばいいのにって思ってた。」

 今まで過ごしてきて似た様な事をした経験は何度もあったが、それを全て上回る様な出来事ばかりで退屈する暇も無かった。
生涯忘れる事のない思い出なのは間違い無い。

「私ってそれなりに優秀だからさ、学校を直ぐに卒業しちゃったでしょ?それって中等部だけじゃ無くて初等部もなの。だから友達って言える人があんまり出来無かったんだ。」

「街にはいないのか?」

 ルルネットが平民達とも分け隔て無く接しているところは何度も見ている。
この性格なので親しい者は沢山いそうだと感じた。

「私はトレンフルの街の領主の娘だから、恐れ多いと思って近付かなかったり、話してくれても敬われてばかりで友達って感じはしないの。」

 貴族と言う言葉は思いの外平民には重たい言葉なのだ。
過激な貴族になると無礼を働けば不敬罪と言い渡され、最悪の場合死刑等もあり得る。
なので貴族との関わり方は慎重に行う必要がある。

「だからこんなに対等に接してくれたのはジルが初めてで、それが嬉しかった。それにうちは女家系だから…お兄ちゃんが出来たみたいで少し嬉しかったと言うか。」

 頰を赤らめて恥ずかしそうに呟き、後半の台詞はかなり小声であったがジルはしっかりと聞き取れている。
そこまで思っていたとは少しだけ意外であった。

「ふっ、師匠にして兄か。」

 ジルがルルネットの頭を撫でてやると恥ずかしそうにしながらもルルネットはされるがままだ。
普段とは全然違うがこう言うルルネットも可愛らしい。

「寂しいと、また会いたいと思っているのなら強くなれ。」

「強く?」

 ルルネットが不思議そうに尋ねる。

「魔装を完全に習得すれば、セダンとトレンフルの往復なんて簡単に行える。」

 実際に魔装を極められている者となるとジルやSランク冒険者のラブリートくらいだが、そこまで至れば片道でも1日2日で足りる様になるだろう。
そうでなくても片道2週間の距離を半分以上は埋めてくれるくらい、魔装での移動は便利で早い。

「それに魔法や戦闘技術をしっかりと身に付けられれば、道中の盗賊や魔物の心配も無いだろう。」

 現在のルルネットでも相当な戦闘能力はあるが、ブリジット並みにならなければ一人での外出なんて認めてくれたりはしないだろう。

「そっか、ジルが来るだけが選択肢じゃないもんね。いつか私もセダンの街にいけるかな?」

「その成長速度なら直ぐにでもいける様になるだろう。」

 今日は集中出来ていないが普段の訓練は真剣に取り組んでいるのは見ていれば分かる。
ブリジットに並ぶ実力者となるのも近いかもしれない。

「じゃあ頑張らないとね。私はジルの弟子なんだから。」

 少し元気を取り戻せた様でルルネットは明るく笑ってそう言った。
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