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31章

元魔王様と船上の戦い 4

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 セダンの街に帰る際にエルリアの同行を許可してもらう為にシュミットの下に向かう事になった。
トレンフルにいる間は別行動をとっており、シュミットは商売をして過ごしているので商会を訪れる。

「と言う訳だ。問題無いか?」

「構わんで。そのエルフの嬢ちゃんも乗せてったるわ。」

 シュミットに事情説明すると二つ返事で了承してくれた。
魔法道具の馬車の中はかなりの広さがあるのでエルフ一人増えたところでスペースには余裕がある。

「そうか、助かる。」

「ルルネット様がおったから何かやらかしたんかと思って焦ったわ。」

 トレンフルの領主であるミュリットの娘であるルルネットは子供ではあるが貴族だ。
一介の商人の下にわざわざ出向いてきたので何かあったのかと緊張していたらしい。

「暇だから付いていきたいと言い出してな。」

「ジルが模擬戦してくれたら暇じゃ無くなるわよ?」

「面倒だから却下だ。」

「ケチ~。」

 ルルネットが頰を膨らませて言う。
強者との模擬戦や訓練は大きな糧となる。
ルルネットの身近な者の中で最も強いのはブリジットだったが、今はジルがいるので順位が変わっている。
もう直ぐ帰るジルとはなるべく模擬戦や訓練をしたいのだ。

「随分と仲良うなっとるな。」

 二人の軽口を叩く様子を見てシュミットが驚いている。
身分の違う者同士でこんなに気楽なやり取りをしているのは珍しい光景だ。
トゥーリの時にも思ったがジルには不思議な力でもあるのかもしれない。

「一応弟子みたいなものだからな。」

「こんなに可愛くて優秀な弟子は中々いないわよ。」

 ルルネットが腕を組んで頷きながら言う。
側から見ればルルネットは美少女ではあるし、学校を飛び級で卒業しているので優秀だと思われるが、自分で言うと何とも残念な感じがある。

「自己評価が高い奴だ。」

「何か言った?」

 ジルにジト目を向けながらルルネットが言う。
事実なのだから否定的な意見は許せないと言う気持ちなのだろう。

「ほんまに仲ええな。それはそうと丁度良かったわ、ルルネット様と同じくわいも暇やねん。」

「暇?商売はどうした?」

 トレンフルにいる間は商売をして金稼ぎに勤しむ予定だった筈だ。
暇をしている時間は無さそうに思える。

「殆ど売り切ってしまったんや。滞在時間を考えると商品が圧倒的に足らんわ。」

 そう言ってシュミットが店の中を見せてくれる。
確かに棚に並べられている品物が随分と少ない。
トレンフルにくる道中に倒して入手した盗賊のお宝も含めて殆ど売れてしまっている様だ。

「確かに店にしては少ないな。」

「そうやろ?トレンフルで商売するから仕入れも難しいんや。」

 トレンフルで売る物をトレンフルで入手しても特別感が無く、他にも同じ様な物を売っている店は沢山ある。
かと言って遠出して仕入れる程長く滞在する訳でも無いので、シュミットは暇を持て余しているのだ。

「それなら我が商品を提供してやろう。」

「ほんまか!?何かええもんがあるんか!?」

 ジルの言葉を聞いてシュミットの目の色が変わる。
大好きな商売を出来ると言うのもあるが、ジルが提供する物にも興味があるのだ。

「実は数日前にダンジョンに潜っていてな。色々入手して換金したかったのだ。」

「ダンジョン産のお宝!?」

 シュミットの食い付きが凄まじい。
トレンフルにダンジョンがある事は知られているが、基本的に持ち帰ったお宝はギルドに売られる事が多い。
商人の下にはギルドから流れる事が多く、直接取り引きする事は稀なのだ。

「ギルドに流した余りだけどな。全ては一度に買い取れないと言われたんだ。」

「売れそうな物やったらわいが全部買い取ったるで!」

 ダンジョン産の素材やお宝は需要がある。
その地域では珍しい物も見つかるので高値で取り引きされる物もあるのだ。

「ルルネット、残りを全てここで売ってもいいか?」

「ジルの物なんだから好きにしたらいいわ。」

 ダンジョンで様々な素材を手に入れた際にルルネットもかなりの数の魔物を倒しているのだが、それらの殆どをジルに譲渡していた。

 それは紅色の短剣を貰えたのが大きい。
あれ程の業物を貰えたのだから他の物は特に必要無いらしく、金にも特に困っていないのでダンジョンで使用したポーション代を賄える分くらい貰えたら充分だと言っていた。
なので他の物は有り難く貰う事にしたのだ。

「全部買い取りや!これは売れるで!」

 無限倉庫から取り出された物を見てシュミットは歓喜の声を上げる。
商人から見ても売れそうな物ばかりらしく、気前良く全て買い取ってくれた。
ジルとしても全て換金出来て有り難い。

「これで残りの滞在期間も暇にならなくて済むわ。お礼に暇潰しでやろうと思って仕入れた良い情報を教えたるで。」

「良い情報?」

「マググロって知っとるか?」

 シュミットが聞いてくるがジルには聞き覚えが無い言葉だ。

「確か魚型の魔物の一種よね?」

「さすがルルネット様、博識やな。」

 シュミットに褒められて満更でも無さそうだ。

「その魔物がどうかしたのか?」

「今トレンフルの沖合で目撃されてるらしいで。捕まえるなら絶好のチャンスや。美味いから高値で取り引きされとる魔物やから、食べるも良し売る物良しやな。」

 海を回遊する魚の魔物らしく、同じ場所に留まらないので今が捕獲のチャンスらしい。

「よしルルネット、早速向かうぞ。」

「えっ?ちょ、ちょっと待ってよ!」

 美味いと聞けば一先ず食べてみたいと思ってしまう。
ジルはマググロを捕らえる為にシュミットの店を後にした。
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