【毎日更新】元魔王様の2度目の人生

31章

元魔王様と船上の戦い 1

　ダンジョン探索の翌日、ジルはフカフカのベットの上で目を覚ます。
昨日はダンジョンから出た後、ギルドでクラーケン討伐の報告やダンジョンの素材の売却で時間が掛かり、ゆっくり出来たのは屋敷に帰ってからだった。

　トレンフルにいる間はブリジットの屋敷で世話になっており、その一室をジルの部屋として与えられている。
一日ダンジョンに泊まったのでこの極上のベットの誘惑によって中々起き上がれない。
特に用事も無いのでこのまま二度寝しようかと目を閉じる。

「おっはよー！」

　幸せな二度寝を妨げる様に元気な声と共に扉がバァーンと開け放たれる。
こんな事をするのは一人しかいない。

「朝から喧しい奴だ。」

　ベットに横になったまま、扉を開け放ったルルネットを見て言う。
念願のダンジョンに行けたのが嬉しかったのか昨日帰ってからずっとハイテンションなのである。

　ダンジョンで起こった出来事をそれは楽しそうにブリジットに語っており、ダンジョンから持ち帰った紅色の短剣を見せびらかしていた。

「ジル、早く起きてよ！訓練しようよ！」

　ルルネットの腰には紅色の短剣がしっかりと装備されている。
新しい武器を手に入れたので使い込みたくてうずうずしているのだろう。

「ダンジョン探索の翌日だぞ？今日くらいゆっくりさせろ。」

「えー、初級魔法とか結界魔法の練習もしたいのに。」

　ルルネットは不満そうに呟く。
ダンジョン内のみと言う約束で貸したファイアアローとクイックボムを使える魔法道具の指輪は返してもらっている。

　なのでルルネットは詠唱破棄した状態で初級魔法を使えない状態に戻った。
あの感覚を知ってしまえば早く使える様になりたいと思うだろう。

「我以外に訓練相手はいくらでもいるだろう？」

　姉のブリジットや魔法生命体であるタイプBとタイプC。
ジル以外にもこの屋敷には強者が多く揃っている。

「タイプCはタイプBに遅れを取った分メイドの仕事をしてるのよ。タイプBは先輩風吹かせて楽しそうにしてるし相手してくれないの。」

　顔を合わせる度に必ずと言っていい程口喧嘩をする二人なのでその光景は容易に想像出来る。
ダンジョンに付いていけなかったタイプBが仕返しとばかりに身に付けたメイド業務でタイプCを煽っているのだろう。
そのくらいなら放置していても問題は無さそうだ。

「ブリジットに頼めばいいだろう？」

　ルルネットの姉らしく戦闘狂の一面を持っているので、新しい武器での訓練と聞けば喜んで引き受けてくれそうだ。

「お姉様は盗賊の件が一段落したから…ってそうだった、ジルを呼んでくる様にお姉様に言われてたんだったわ。訓練したくてすっかり忘れてたわね。」

　どうやら起こしにきた当初の目的はブリジットに頼み事をされていたかららしい。
自分の訓練したさに姉の頼み事はすっかり頭から抜け落ちていた様だ。

「戦闘狂め。それにしてもブリジットが我に用事か。面倒事で無ければいいが。」

「盗賊関係の話しみたいよ。詳しくは聞いて無いわ。」

　盗賊関係となるとトレンフルの街を訪れる際にブリジットと共闘して倒した盗賊達の事だろう。
奴隷商人を襲って様々な奴隷を得た盗賊団は高ランクの冒険者や騎士団を返り討ちにする程厄介であり、ジル達が介入しなければブリジット達も敗走していたかもしれない。

「仕方無い、世話になってる身だし行くとするか。」

　ベットの誘惑を振り払って身体を起こす。

「広間だから早めにきてね。」

　ルルネットはそう言い残して部屋を出ていった。
ジルは言われた通り着替えて直ぐに広間へと向かう事は無く、最初に厨房を訪れる。
起きたばかりなので空腹であり、先ずは食事が最優先なのだ。

「料理長、朝食を頼む。」

「ちょっとお待ち下さいね。」

　ジルはブリジットの屋敷で世話になってからお腹が減ると度々厨房を訪れていた。
食事代が必要無く、貴族が食べる美味しい料理が出されるのですっかり常連となっていた。
料理長もそんなジルに慣れたのか直ぐに朝食が出てくる。

「頂きます。やはり朝食を食べねば一日が始まらんな。」

　料理長が作ってくれた美味しい料理を食べながら呟く。
トレンフルは港町なので自然と魚料理が多くなるが、味付けの違いや魚料理の種類が豊富なので文句無く楽しめている。

「あー！やっぱりここにいた！」

「予想通りでしたね。」

　ジルが朝食を楽しんでいると厨房の入り口にこちらを指差すルルネットと、その隣りで微笑むブリジットがやってきた。
中々来ないので探しにきたのだろう。

「早めに来てねって言ったじゃない！」

「我の中では起きてから優先されるのは朝食なのだ。用があるなら食べ終えるまで待つか諦めるんだな。」

　ジルの発言にルルネットは頬を膨らませているがブリジットは普段と変わらず笑顔である。
既にジルとの付き合いもそれなりに長いので扱い方を分かっているのかもしれない。

「それ程急ぎませんから食べ終えてからで構いませんよ。料理長、私とルルネットには果実水を頂けますか？」

　ブリジットがジルの近くの椅子に腰を下ろしてそう言った。