上 下
264 / 600
30章

元魔王様とダンジョンのボス部屋 5

しおりを挟む
 ゴブリンニンジャを倒したジルは氷壁の向こうで戦闘をしているルルネット達の下に駆け付ける。
近い場所で戦っていたのでピンチになれば何かしらアクションがあったと思われるし、そもそもタイプCがいるのでそれ程心配はしていない。

 今も戦闘音が鳴り響いているのでまだ決着は付いていない様だ。
氷壁の横を抜けると戦闘中の一行が見えてくる。

「全員無事だがそれなりに苦戦もしたか。」

 こちら側の戦力であるルルネット、ホッコ、タイプCは全員無事だ。
向こう側の戦力はゴブリンジェネラルがたった今タイプCの連動外装の右足に踏み潰されてドロップアイテムに変わり、ゴブリンキングのみとなったところだ。

 他には見当たらないのでゴブリンファイターとゴブリンアーチャーは既に討伐済みの様だ。
これだけ見れば随分と余裕そうに見えるがそうでもない。

 ゴブリンキングと戦っているルルネットは服の所々が破けて少し肌が見えている。
外傷は無いのでホッコに治療してもらったのだろう。
ホッコも目立った外傷は無く、こちらも怪我をしていたとしても自分で回復出来る。

 問題はタイプCだ。
連動外装の四肢全てを取り出したフル装備で戦いに臨んでいたが、今は右足とボロボロの左足のみとなっていた。
両手は既に破壊されてしまった様である。

 連動外装には自己修復機能があるので、仕舞っておけば時間経過で直る。
それでもそこまでボロボロにされたのは敵も中々強かったと言う事だ。

「だがゴブリンキングだけとなれば終わったも同然だな。」

 統率個体としてはゴブリン種で一番優秀だ。
仲間の強化具合が高く、群れになれば脅威度は凄まじい事となる。

 だが単体の強さはそこまで高くない。
武器も無く王冠を被っているだけなので大した攻撃手段も持っていないのだ。
今もルルネットのファイアアローやホッコのアイスアローに成す術無く逃げ回っている。

「これでお終いよ!」

 ルルネットが慌てふためくゴブリンキングの隙を見て、一気に近付き首を刎ねた。
身体が消えてドロップアイテムに変わる。

「ルルネット様お見事です。」

「クォオ!」

「いえーい!あれ?ジルも終わったの?」

 共に戦った二人に振り向いてVサインを作った時に後方にいるジルに気付いた様だ。

「ああ、そっちも苦戦はしたが無事勝てた様だな。」

「ゴブリンアーチャーの矢が何回か掠っちゃったんだけどホッコが治してくれたのよ。ホッコ、ありがとう!」

「クォン!」

 両手を広げてルルネットが駆け寄っていく。
しかしホッコは気にせず、ジルの肩に飛び乗るとすりすりと頬擦りをして甘えてくる。

「ルルネットを守ってくれてありがとな。」

「クォン!」

「がーん、私の癒しが…。」

 ホッコに抱き付きたかったのにジルに取られてしまい、ルルネットは肩を落としている。
抱く機会なんて幾らでもあるので、今はホッコのしたい様にさせてやる事にした。

「マスター、全ての敵の殲滅を完了しました。しかし連動外装を三つも壊されてしまい申し訳ありません。」

 タイプCが深く頭を下げて謝罪してくる。
マスターであるジルから貰った武具を破壊されてしまい、自責の念でもあるのだろう。

「気にするな。ルルネットとホッコを守ってくれて助かったぞ。」

「勿体無きお言葉です。」

 ジルに礼を言われると一変して幸せそうな表情をしている。
タイプCはよくやってくれたと思っているので、元気付けられたのならばよかった。

「あんなに頑丈な連動外装を壊すなんてゴブリンファイターって強いのね。」

 ルルネットはタイプCとも模擬戦をした事はある。
その際に連動外装も使ってくれた事があり、火魔法で強化した短剣でぶつかり合ったが、まるで岩を殴っているかの様な硬さだったと記憶している。

「そんなに簡単に壊れたのか?」

「簡単じゃなかったわよ。ゴブリンファイターが何度も殴り付けていたもの。それでもあれを破壊するって相当な攻撃力よね。」

 連動外装は魔王時代にジルが作った物だ。
素材も拘っているのでそれを破壊するとは確かに凄まじい攻撃力だと言える。

「ルルネットだと一撃が致命傷だろうな。」

「…やっぱり?この後は少し後方に待機してよっかな。」

 ルルネットは戦闘が大好きで強くなりたがってはいるが死にたがりでは無い。
実力を考えてここからは少し大人しくしようと思った。

「こちらも連動外装を魔装していたとは言え、統率個体の強化に加えて魔装したゴブリンファイターの打撃は想像以上でした。」

 元魔王であるジルが作ってくれた自分や連動外装に絶対の自信を持っていたからこそ、ゴブリンファイターの力には驚かされた。

「奴は近接戦闘で真価を発揮するタイプだからな。勝てたのならそれでいいだろう。」

「そうそう、結果良ければってね。あとこっちのドロップアイテムは拾ってきたわよ。」

 ルルネットが手に乗せて差し出してきたのは王冠と大小三つの魔石だ。
特に珍しいドロップは無かった様だ。

「それでそっちは?凄く強いゴブリンだったのよね?」

 高ランクのゴブリンニンジャからのドロップアイテムが気になるのだろう。

「確かに強化されたゴブリンニンジャは強かったな。ドロップアイテムもそれなりの物だったぞ。」

 無限倉庫のスキルから取り出して見せる。
倒したゴブリンニンジャが消えた場所に落ちていたのは大きな魔石と一本の刀だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

小説教室・ごはん学校「SМ小説です」

浅野浩二
現代文学
ある小説学校でのSМ小説です

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

出来損ない王女(5歳)が、問題児部隊の隊長に就任しました

瑠美るみ子
ファンタジー
魔法至上主義のグラスター王国にて。 レクティタは王族にも関わらず魔力が無かったため、実の父である国王から虐げられていた。 そんな中、彼女は国境の王国魔法軍第七特殊部隊の隊長に任命される。 そこは、実力はあるものの、異教徒や平民の魔法使いばかり集まった部隊で、最近巷で有名になっている集団であった。 王国魔法のみが正当な魔法と信じる国王は、国民から英雄視される第七部隊が目障りだった。そのため、褒美としてレクティタを隊長に就任させ、彼女を生贄に部隊を潰そうとした……のだが。 「隊長~勉強頑張っているか~?」 「ひひひ……差し入れのお菓子です」 「あ、クッキー!!」 「この時間にお菓子をあげると夕飯が入らなくなるからやめなさいといつも言っているでしょう! 隊長もこっそり食べない! せめて一枚だけにしないさい!」 第七部隊の面々は、国王の思惑とは反対に、レクティタと交流していきどんどん仲良くなっていく。 そして、レクティタ自身もまた、変人だが魔法使いのエリートである彼らに囲まれて、英才教育を受けていくうちに己の才能を開花していく。 ほのぼのとコメディ七割、戦闘とシリアス三割ぐらいの、第七部隊の日常物語。 *小説家になろう・カクヨム様にても掲載しています。

氷の騎士団長様に辞表を叩きつける前にメリッサにはヤらねばならぬことがある

木村
恋愛
ロロイア王国王宮魔道士メリッサ・リラドールは平民出身の女だからと、貴族出身者で構成された王宮近衛騎士団から雑務を押し付けられている。特に『氷の騎士』と呼ばれる騎士団長ヨル・ファランに至っては鉢合わせる度に「メリッサ・リラドール、私の部下に何の用だ」と難癖をつけられ、メリッサの勤怠と精神状態はブラックを極めていた。そんなときに『騎士団長の娼館通い』というスキャンダルをもみ消せ、という業務が舞い込む。 「し、し、知ったことかぁ!!!」  徹夜続きのメリッサは退職届を片手に、ブチギレた――これはもう『わからせる』しかない、と。  社畜ヒロインが暴走し、誤解されがちなヒーローをめちゃくちゃにする、女性優位、男性受けの両片思いラブコメファンタジー。プレイ内容はハードですが、作品テイストはギャグ寄りです。 メリッサ・リラドール  ヒロイン 26歳 宮廷魔道士  平民出身 努力と才能で現在の地位についた才女  他人の思考を読み過ぎて先走る 疲れると暴走しがち ヨル・ファラン  ヒーロー 28歳 宮廷付騎士団団長  大公の長男だが嫡男ではない  銀髪、水色の瞳のハンサム  無表情で威圧感がすごい 誤解されがち

処理中です...