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23章

元魔王様と風の姫騎士との再会 10

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 ジルは盗賊を倒して奴隷達を助けた中の一人だが、男が現れると怯えさせてしまうかもしれないのでそちらはナキナに任せる事にした。

「それで何か衣服を持っていれば借りたいのじゃが。」

 ナキナがきた理由はまともに衣服を身に付けていない女性達の為に何かないかと探しにきたのだ。
無限倉庫のスキルを持つジルならばそう言った物を持っているかもしれないと思った。

「布であれば幾らか持っているぞ。」

 服があれば一番良かったのだがそんなものは無い。
いつ手に入れたのかも分からないが中々に上等な布なので無いよりはマシだろう。

「助かるのじゃ。」

 ナキナは受け取って部屋を出ていく。
その後もお宝の回収作業を暫くして、やっと部屋の中にあった物を全て収納し終えた。

「回収完了だな。先に出ているか。」

 作業を終えたので洞窟の外に出る。
盗賊達は猿ぐつわをされて手足を縛られ纏められていた。

「洞窟内の方はどうでしたか?」

「色々回収しておいたから後で話そう。こいつも加えておいてくれ。」

 ジルは宝物庫で倒した盗賊を引きずって連れてきていた。
それを渡すと奴隷達が素早く縛ってくれる。
そして口々に助けてくれたお礼を言われた。
盗賊退治のついでだったので気にしなくてもいいのだが、強制的に盗賊をやらされていた事を考えると助けられてよかったと思う。

「待たせたのう。」

 少しするとナキナが洞窟から出てきた。
自分達では歩けないのか影丸の大きな背中に女性四人が座っている。

「そちらの方々は捕らえられていたのですか?」

「うむ、少し心身にきているが四人共無事じゃ。」

 縛られている盗賊達を見て四人全員が怯えている。
そう簡単には拭えないトラウマを植え付けられたのだろう。

「皆さん、私はトレンフルの貴族であるブリジット・トレンフルと申します。」

 ブリジットが奴隷達や捕まっていた者達に名乗ると、皆が驚きながら跪こうとする。
貴族の騎士だとは思わなかったのだろう。

「そのままの姿勢で大丈夫ですよ。皆さんの身の安全は私が保証しますので、こちらの指示に従って付いてきて頂けますか?」

 身分の差はあってもブリジットは気にせず丁寧に接する。
それが功を奏したのか大人しくブリジットの指示に全員が従ってくれた。

「それでは先ず皆さんと合流しましょうか。」

 ジルとナキナはその言葉に頷き、奴隷達と共に盗賊を引き連れながらシキ達の下へと向かう。
到着するとその人数の多さに皆驚いていたが、騎士団は盗賊退治が終わった事を知って安堵していた。

「さすがはジルさんやな。無事に帰ってくると思ってたで。」

 ジルの強さを知っているので全く心配していなかった様だ。

「シュミット、早速で悪いが少し頼みがある。」

「なんや?」

「盗賊達の拠点にあったお宝の買い取りだ。」

「お!珍しい物でもあったんか?」

 シュミットが興味津々に尋ねてくる。
盗品なのは分かっているが、今は盗賊を倒したジルに所有権が移っているので、商人として正規に扱える品となったのだ。

「装飾品や魔法道具を買い取ってくれ。我には必要無いのでな。」

 装飾品はどれもこれもが綺麗な宝石が使用されていて高価だと思われるが逆に言えばそれだけだ。
ジルが持っていてもあまり意味は無い。

 魔法道具の方は水を少量生み出す物や少しだけ光って辺りを照らしたりする物と効果が微妙な物が多かった。
魔法道具は価値があるが持っていても使わないなら売ってしまった方がいい。

「中々の量やな、早速取り掛かるわ。トレンフルに向かう道中には査定も終わるやろ。」

 そう言ってシュミットは査定の為に馬車の中に戻る。
騎士団にも分け前は必要なので換金出来そうな物はしておきたい。

 ブリジットと盗賊のお宝の分配をどうするかと言う話しは既にしている。
要求としては少しばかりの金貨を譲ってもらえると助かると言っており、大半はジル達に譲ってくれた。

 そもそもジル達の助けが無ければ盗賊達を簡単には倒せず、騎士団だけでは引き返していた可能性が高かった。
なので報酬を多く貰う権利はジル達にあると言ってくれた。

 それでも騎士団員を引き連れて盗賊討伐に赴いたので報酬を払う必要はあるし、奴隷達にも盗賊達による迷惑料として幾らか渡したいとブリジットは考えていたので、分け前を一部でも貰えると有り難かった。

 盗賊拠点のお宝の量は予想外に多かったので、金貨を50枚程手持ちから渡してやった。
散らばっていた小金貨や銀貨を合わせると金貨100枚にギリギリ届かないくらいにはなりそうなので中々の額だろう。
渡した額にブリジットも驚いていたので文句は無い筈だ。

「ジル殿、盗賊達は全てこちらで運ばせてもらいますね。」

 ブリジット達の騎士団は元々盗賊を捕らえて連れ帰ろうと思っていたので、運搬用として檻付きの馬車を用意していた。
その中に生きている盗賊達を詰め込んでいる。

「それならあの中の盗賊も引き取ってくれるか?多分同じ盗賊団だと思う。」

 最初に接敵した盗賊の一味を指差して言う。
邪魔なので一緒に連れて帰ってもらえると助かる。

「分かりました、移動をお願いします。」

 ブリジットが指示を出すと騎士団員達が速やかに盗賊達を連れ出してくれる。

「それと一つお願いがあるのですが、奴隷の方々をそちらの馬車で運んでいただく事は可能ですか?」

 盗賊達が連れ出された事により丸々空きが出来た。
逆に騎士団の用意した檻はかなり詰め詰めである。
想像よりも盗賊が多かったのだろう。

「ああ、構わないぞ。盗賊達と一緒に乗りたくは無いだろうしな。」

「助かります。それでは準備が出来次第出発しましょう。」

 目的地は同じなので一緒に進む事にした。
トレンフル目指して一行の馬車が走り出した。
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