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17章

元魔王様とオークションでの再会 7

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 ダナンが紹介してくれた高級宿屋は、事前情報通りに満足のいくものであった。
街の観光も特にせずに、ずっと宿で過ごしているくらいだ。

「入るぞ。」

 扉がノックされてダナンが入ってくる。

「お前達ずっと部屋にいたのか。」

 部屋の中にいるジル達を見て呆れた様に言う。
せっかく遠出してきた街なのだからオークションが目当てと言っても、普通なら観光や散歩で出掛けるものだろう。

「随分と居心地がいいからな。」

「ずっと住んでいたいくらいなのです。」

 そんな気分にならないくらいにこの宿屋は快適であった。
さすがは貴族向けとされている宿屋である。
ジルもシキもすっかり気に入ってしまった。

「わしは仕事をしてきたと言うのにまったく。」

「何かしてきたのか?」

「バイセルの鍛治師仲間にちょいと用事があったんだ。それよりも時間だからいくぞ。」

 オークションの開始時間が迫ってきているので知らせにきてくれたらしい。

「お、いよいよか。」

 ここのところ楽しみにしていたオークションがついに始まろうとしているのだ。
快適な高級宿屋は名残惜しいが立ち上がらない訳にはいかない。

「ライム、悪いが留守番は任せたぞ。」

「いい子にしてるのですよ?」

 ライムはプルプルと揺れて了承の意思が伝わってくる。
オークションには魔物を連れていく事が出来無いらしく、ライムは置いていくしかない。

「何か面白い物に出会えるといいな。」

「楽しみなのです。」

 初めてのオークションに未経験の二人は期待が膨らむ。

「目的の物とかは無いのか?」

「出品された物を見て気になったら入札するつもりだ。」

 元々異世界通販のスキルを持っているので金さえあれば欲しい物は手に入る。
なので今回オークションに参加したのは特に欲しい物があったからでは無い。
何か気になる物があればくらいの気軽な気持ちなのだ。

「オークションに出品される物は多種多様だ。何かしら気にいる物はあるだろう。」

 経験者のダナンが言うのなら間違い無い。
特に欲しいと思っていなかった物でも実際オークションで出品されているところに遭遇すると突然欲しくなったりもする。
それもオークションの楽しみ方の一つだろう。

「ダナンも何か狙っているのです?」

「わしは珍しい鉱石類か酒があれば欲しいくらいだな。」

 さすがはエルダードワーフである。
鍛治と酒が好きな種族らしい選択だ。

「打った物を出品したりはしないのか?」

「基本的にオークションに流したりはしない。わしは売り手を選ぶからな。」

 国家間で依頼する様なエルダードワーフ作の武具がオークションに出品なんてされたら、とんでもない値段が付くのは間違い無いだろう。
だがダナンは金儲けの為に武器を作っている訳では無い。

 ジルと初めて会った時にも言っていたが、美術品として飾る剣では無く戦いに使われる剣を打ちたいと言っていた。
それにダナンのお眼鏡に叶う実力者でないといけない。
それ程の条件が付けられるくらいに貴重な武具なのである。

「そう言えばそうだったな。」

「だがこいつは持ってきているぞ。」

 ダナンは背負っているリュックを開けて中身を取り出す。

「ミスリルか。」

 ジルが渡したミスリル鉱石をインゴットに加工した物だ。
随分と大荷物だとは思っていたがこれだったらしい。

「オークションくらいでないと、さばくのがむずかしいからな。」

 魔王時代の魔力が関係して出来た高純度のミスリルらしいので、気軽に取引出来ずこう言った場所でしか換金が難しいのだ。

「高く売れるといいけどな。」

「前回の入札は凄まじかったからな。間違い無く入札は荒れるだろう。」

 前回ミスリルのインゴットを出品した時の事を思い出しながら言う。
予想はしていたが入札の多さにはダナンも驚かされたものだ。
前回同様に今回も間違い無く入札が飛び交ってくれる筈だ。

「ようこそ、バイセルオークション会場へ。貴族章又は関係者である事を示す物をご提示下さい。」

 オークション会場に到着すると警備をしている者が話し掛けてくる。
ここで参加資格があるかチェックしているのだ。

「あまり騒がんでくれよ。」

 ダナンは一言そう告げてからジャミール王国の王族の紋章が施されたペンダントを渡す。
この国でのトップの権力となれば騒ぎになってもおかしくない。

「っ!?失礼致しました。どうぞお入り下さい、中で係の者が案内します。」

 ペンダントの紋章を見た警備員は一瞬驚愕の表情を浮かべるが直ぐに平静を取り戻した。
さすがはオークションの警備、お偉いさんの紋章はしっかりと把握しており、周囲に人もいるので騒がないでくれた。
オークション前にいらない騒動が起きなくてよかった。

「いらっしゃいませ、本日はご入札ですか?ご出品ですか?」

 中に通されると直ぐに待機していた係員が近付いてきて確認してくる。

「両方頼む。」

「畏まりました。では先に商品をお預かりします。」

 係員が出品物を預かる為に案内してくれた部屋は、大事な商品を守る為か入り口を屈強な男達がボディーガードの様に立って堅めていた。
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