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17章

元魔王様とオークションでの再会 6

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 ダナンと接客担当の執事は、まさかジルが貴族相手にそんな事を言うとは予想出来ずにただただ驚いていた。

「我もこの宿屋に目星を付けていたのだ。早い者勝ちだな。」

 美味い食事や風呂があれば他の宿屋でも構わないのだが、そう言った宿屋はここだけの様だ。
せっかくの遠出なのだから、ジルもたまには良い宿屋に泊まりたいのである。

「貴様!この僕が下手に出て譲ってくれと頼んでいるのだぞ!金も払うと言っている!」

ジルの反応がお気に召さなかった若様は声を荒げる。

「それが頼んでいる態度か?我には命令している様にしか聞こえんな。」

 本人は下手に出ていると言っているが誰がどう見てもそうは感じられないだろう。
貴族は平民を身分の違いから見下す事も多いので、頼む事ですら下手に出ていると感じているのだろう。

「もういい!不敬罪で捕らえて牢屋にぶち込め!そうすれば部屋が開く!」

 若様は後ろの護衛達にそう言って命令を出す。
先程のジルの発言を貴族として不敬罪にでもするつもりらしい。
こう言った事を平然と行えるのも身分の違いがあってこそなので平民に恐れられるのも当然である。

「て、店内で揉め事は困ります!」

 執事は突然争い事が始まりそうになって焦っている。
貴族向けの高級宿屋と言う事もあり、内装にも金が掛かっているのだ。
暴れて壊されては店側としてはたまったものではない。

「黙れ!貴族の僕に命令するな!やれ!」

 若様の命令に従ってジルを捕らえようと護衛達が向かってくる。
その手には武器を持つ者すらいる。

『動くな!』

 ジルは揉め事で店に迷惑を掛けない様に言霊のスキルを使って動きを止める。
これにより若様と護衛達の動きが言葉通りに止まる。

「な、なんだ!?身体が動かない!?」

 突然身体の自由が無くなり若様も護衛達も困惑している。
顔だけは動かせて声も出せるが、首から下は微動だにしない。

「さて、このままでは我と店の邪魔となるな。」

 そう呟いたジルは護衛に近付いて首根っこを掴む。
何やら騒いでいるが気にせずに片手に一人ずつ掴んだまま、店の入り口の開いている扉から放り投げた。
残りの護衛も同じ様に放り投げて店の中から全員追い出す。

「き、貴様!平民の分際で僕に触るな!」

 最後に掴まれた若様が声を荒げて言うが動くのは顔だけなので無視する。
一応貴族みたいなのでジルなりに気を遣って護衛達をクッション代わりに最後に上に投げてやった。

 これなら投げ捨てた事によって怪我を負う事も無いだろう。
しかしその気遣いにより若様には大したダメージは無いが、若様に潰される形となった護衛達は、その重さから苦悶の表情を浮かべている。

「よくも貴族の僕にこんな仕打ちをしたな!ただで済むと思うなよ!」

 顔だけジルの方を向いて睨んで言う。
貴族である自分が平民にこんな仕打ちを受けたのだ。
若様としては黙っていられる筈も無い。

「文句があるなら聞いてやるが、お前達は今動けない。発言には気を付けるんだな。」

 腰に下げている銀月の柄に手を添えながらジルが笑みを浮かべて脅す様に言う。
若様はそれを見て顔が少し引き攣っている。
この男ならやりかねないと思っているのかもしれない。
そしてここで言霊のスキルの効果が切れて身体に自由が戻る。

「お、覚えていろよ!」

 若様は捨て台詞を吐いた後、余程怖かったのか体格に見合わない速さでその場を走り去ってしまった。
その後ろを護衛達も慌てて追い掛けていく。

「全く貴族とは面倒なものだ。」

 むしろ貴族と言えばこの様な者達の方が多く、魔王時代からそこら辺は変わっていない。
人族の権力者達は自分の保身に必死であり、他者や身分の低い者達を平然と使い潰す様な者ばかりだった。

 魔王の元に庇護を求めてきた異世界の勇者達もそう言った事が嫌で逃げてきた者が多かった。
無理矢理召喚されただけで無く、次元の違う存在である魔王と戦う為の道具にされて不満に思わない者はいないだろう。

 身分の高い者達は昔から何百年と経っても変わる事は無く、その事実にジルは呆れるしかなかった。
だがトゥーリやブリジットの様な変わった貴族がいる事も知れたので、一括りに悪だとは言い切れないのも理解した。

「終わったか。手続きは済ませておいたぞ。」

 そう言ってダナンが鍵を渡してくる。
執事にも助かりましたと頭を下げられ、快く歓迎してくれた。

「さて、早速高級宿を満喫するとしよう。」

 街にきていきなり面倒事に巻き込まれて嫌な気持ちになったが、気持ちを切り替えて高級宿屋を堪能する事にした。
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