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16章

元魔王様とシキの契約者 11

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 ジルは逃がさぬとばかりにブリジットを追う様に火矢を放ち続ける。
避けられた火矢は地面に着弾と同時に爆炎と砂煙を上げている。

 初級魔法とは思えない火矢の量に試験官達はトラウマを思い出して震えているが、ブリジットはスキルや魔装のおかげか難無く回避出来ている。

「初級魔法とは思えないですね。」

 回避出来てはいるが想像以上の威力に驚いていると言った様子だ。

「軽々と回避しておいてよく言うものだ。」

 当てるつもりで放っているのだが、ブリジットがとにかく速くて捉えられない。

「しかし回避ばかりでは勝てませんからね。再び攻めに転じましょう。」

 ブリジットは大きく飛び退いて距離を開けた。
ジルは変わらず遠距離攻撃として火矢を放ち続ける。
自分に向かって無数の火矢が飛んできているが、慌てる事無く前屈みの姿勢をとって細剣を引き絞る。
そして足に魔力を集中させて魔装した。

「疾風迅!」

 爆音を轟かせてブリジットの足元が爆ぜる。
迫り来る火矢を置き去りにする速度でジルとの距離を一瞬で詰める。

 そして引き絞った細剣をその爆速のままにジルに向けて突き出す。
次いで辺りに再び爆音が轟いた。

「…魔装とスキルによって極限まで高められた、私の最速の攻撃だったのですけどね。」

 目の前の現状を見て信じられないと言った様子でブリジットが呟く。

「さすがに驚かされたけどな。」

 ジルは言葉通り実際に驚かされていた。
転生してからこんなに速い攻撃を見たのは初めてだった。
弱体化した自分が反応出来るのか分からないくらいだったのだ。

 それでもジルは魔装した銀月の刀身で細剣の刺突を受け止めていた。
あれだけの速度から放たれた刺突だったので、普通のミスリル製の武器ならば折れていたかもしれない。

 魔国フュデス産の高純度ミスリルから作られたエルダードワーフの逸品である銀月であったからこそ防げたのかもしれない。

「ふふふ、ですがまだ終わりませんよ。ウインドケージ!」

 上級風魔法によって二人を取り囲む様に風の檻が形成される。
外から見ると球体状の風が吹き荒れている感じだ。

 上級魔法だと言うのにブリジットは詠唱をしていなかった。
これはジルの様に詠唱破棄のスキルを持っている訳では無い。

 上級魔法を無詠唱で扱える程に確固たるイメージがブリジットの中では出来ているのだ。
この若さでその域に達しているとは、さすがは風の姫騎士と呼ばれるだけはある。

「一緒に閉じこもってどうするんだ?」

「至近距離ならば当ててみせます!暴風迅!」

 先程とは違って腕と細剣を多くの魔力で魔装する。
そして逃げ場の無い風の檻の中で至近距離から放たれる連続の刺突攻撃。

 細剣が残像で何十本もある様に見える程、刺突の一撃一撃が速くて重い。
正に荒れ狂う風の様である。
ジルも銀月で攻撃を弾くが、魔装しなければ威力負けしそうな程に激しい。

「手加減しなくてもいいのは良いものだ。」

 ジルはブリジットとの攻防を繰り広げながら思わず笑みが溢れる。
食後の運動のつもりであったがブリジットの攻撃に触発されて途中からそれなりに力が入っていた。

 魔王時代から戦闘の時は手加減しても大惨事となり得た事がジルには沢山あった。
なのでいつも手加減ばかりで戦闘と呼べるレベルの行いをした経験は少ない。

 転生後はちょくちょく本気を出す機会に恵まれているが、対人戦となるといつ以来か覚えてすらいない。
少なくともブリジットとの模擬戦は、手を抜いて戦っていれば負けてしまうと思わせられる。
それくらいに個としての力が強かった。

「軽々と防ぎながら言われるのは釈然としませんね。」

「これでもそれなりに本気を出しているんだがな。」

 二人は高速の攻防を繰り広げながら軽口を叩く。
と言ってもジルにはまだまだ多くの手札が残っている。
手を抜かずに戦ってはいるが、使っていないスキルや魔法はまだまだ数多く存在するのだ。

「…これでもジルさんには届かない様ですね。」

「その様だ、な!」

 細剣を大きく弾いてブリジットを後退させる。
しかし二人共風の檻の中なのでそれ程離れてはいない。

「さて、次は我の番だな。防いでみろ。」

 ジルはにやりと笑みを浮かべながらブリジットに手を向ける。
まだ何もしていないのに手からは熱気が伝わってくる様だ。

「超級火魔法…。」

「っ!?」

 ブリジットは一瞬でジルの攻撃が危険だと判断して、対抗する為に同じく両手を向ける。

「インシネレート!」

 ジルの手から噴火を連想させる程に火が溢れ出してくる。
赤々と燃える火は全てを燃やし尽くす業火の如く、凄まじい熱気を撒き散らしている。

 その業火が勢いよくブリジットに向けて放たれる。
全身魔装で防御に徹しても受けてしまえば最低でも全身大火傷は避けられないだろう。

「ストームブラスト!」

 ブリジットはジルの魔法に合わせて上級風魔法を発動させ、荒れ狂う暴風を生み出す。
さすがに超級魔法の無詠唱の域には到っていないのか、放たれたのは上級風魔法だがその威力は凄まじい。

 お互いの魔法によって生み出された業火と暴風がぶつかり合う。
しかし超級魔法と上級魔法では威力が違う。
荒れ狂う暴風も業火の威力に負けて徐々に押し戻される。

「くっ!」

 ブリジットは早々に相殺を諦めて、風魔法を上手く利用して業火の方向を変える事にした。
巧みな魔法のセンスによってブリジットの暴風がジルの生み出した業火を少し上方向に逸らす。

 そして業火はブリジットの代わりに二人を囲んでいた風の檻に激突する。
その威力は凄まじいの一言に尽き、一瞬で風の檻を消し飛ばす程の威力を発揮した。
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