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14章

元魔王様と孤児院の貧困事情 11

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「ジルが孤児院に気付いてくれてよかったぜ。」

「本当ですね。あのままでは少なからず餓死者を出していたかもしれません。」

 ジルが孤児院にやってきた翌日の今日にアレンもやってきた訳だが、ジルが訪れた日でさえ空腹で危険な者はいた。
ジルが孤児院を訪れておらず、一日遅れでアレンがきていたとしても、餓死者を出していた可能性は少なからずあったのだ。

「神の導きに感謝しなければいけませんね。」

 そう言って神父やシスター達が祈っている。
正直に言えば偶然泥棒の瞬間に居合わせた事がきっかけなので、神に導かれた訳では無いと思う。

「あ、あの…。」

 大人達の様子を見て居た堪れなくなったのか、一人の子供が遠慮がちに近付いてきた。

「ベル、どうかしたのですか?」

 その子は街でフライドポテトを盗んだ男の子である。

「えっと…あの、お、俺…。」

「ベル、言いたい事があるならはっきり言え。」

 中々はっきりとしないベルを見てアレンが言う。

「う、うん。ご、ごめんなさい。実は俺、街でこの兄ちゃんに助けてもらったんだ。」

 ベルはそう言って大人達に頭を下げる。

「助けてもらった?」

「うん、皆が腹を空かしてたから、屋台で食べ物を盗んじまったんだ。」

 ジルが黙っていてやろうと思っていた盗みの件を、ベルは自分から正直に話した。
それを聞いた神父やシスターは驚いている。
そしてアレンは黙ってベルを見ていた。

「それをこの兄ちゃんが助けてくれて…。」

「ジル、今の話しは本当なのか?」

 アレンがベルの話した事の真意をジルに尋ねる。

「ああ、だがもう気にする必要は無いぞ。店には迷惑料を払って、沢山買って詫びておいたからな。」

「そうか…。」

 そう呟いたアレンからは感謝の気持ちが伝わってきた感じがした。
ベルもアレンにとっては家族だ。
助けてくれたジルに感謝しているのだろう。

「ベル。」

 アレンが名前を呼んだ事によりベルが顔を上げてアレンを見る。

「この馬鹿が!」

 アレンはそう言ってベルの頭に拳骨を落とす。
魔装している訳では無いが、それなりに強く叩かれたのでベルはその痛みで声も出せない様だ。
痛そうに頭を押さえながら蹲っている。

「勝手な事しやがって!下手すれば奴隷落ちだぞ!」

 アレンはそう言って怒鳴りながら叱っている。
盗みとは立派な犯罪行為である。
罰金が発生する事もあるし、孤児ならば払えず奴隷落ちとなる可能性もある。
危険な行為をしたベルをアレンが怒るのも当然なのだ。

「神父やシスターが街にいくのは却下だ。ベルの様な事をする奴が今後も出る可能性がある。」

 30人以上もいる子供達を大人一人だけで見るのは難しい。
神父やシスター達が街に出稼ぎに行ってしまえば、また同じ様な行為をする子供を出しても気付かないかもしれない。

「まさかベルがそんな事をしていたなんて…。ジル様、本当にすみませんでした。」

 ベルの話しを聞いたアキネスが頭を下げ、他の神父やシスターもそれに続く。

「気にするな、ただの偶然だ。それに結果的にはそれで孤児院が助かったんだから良かったではないか。」

 結果的に見ればベルが盗みをしなければ、ジルが孤児院にくる事も無く、当初の予定通りに屋台の食べ比べに没頭していただろう。
偶然ではあったがそのおかげで孤児院の者達は餓死を免れたのだ。

「まあそうなるかもな。ベル、一発で許してやる。今後またくだらねえ事をしたら覚悟しておけよ。」

「…う、うん。ごめんなさい。」

 ベルも悪い事をした自覚はあるのだろう。
アレンに文句を言ったりする事は無く素直に反省している様だ。

「また借りが出来ちまったな。」

 アレンが申し訳無さそうな雰囲気で呟く。

「依頼の主な戦闘を任せる事で、一つ無くしてやろう。」

「なら気合い入れねえとな。」

 借りを作らせたつもりは無いのだが、アレンが気にする事の無い様に適当な要求をして相殺しておく事にした。
アレンの強さは充分高いので、大抵の魔物であれば問題無いだろう。

「アレン、くれぐれも気を付けて下さいね。」

「分かってるって、相変わらず心配性だな。」

 心配しているアキネスに向けてアレンが言う。

「ジル殿、アレンを頼みます。」

 アキネスだけで無く神父や他のシスターも心配して言う。
家族が危険かもしれない依頼を受けようとしていれば、過剰に心配するのも仕方が無い。

「ああ、任せておけ。」

 大人達を安心させる様にジルが告げる。
子供達と一緒に食べたり遊んだりしているシキとライムをそのまま預け、ジルとアレンはギルドに向かった。
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