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10章

元魔王様と最強のメイド達 4

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 タイプCに陣形魔法を解除してもらい、洞窟から抜け出す事が出来た。
一人であればまだ陣形魔法に囚われたままだったので助かった。

 そして目の前には逃亡を図ろうとしていたハガン、オーガキングを含むオーガ達、タイプBに守られているシキやライム、ポーションで回復中の鬼人族と言った者達が見える。

「ジル様なのです!」

 ジルを見たシキの顔がパァッと明るくなる。
戦闘においては絶大な信頼を寄せているジルが近くにいれば、非常に安心出来るのである。

「遅くなって悪かったな。我の代わりにタイプBを向かわせたから心配はしていなかったが。」

 一先ず椅子から降りて仲間達の無事な様子を確認しながら言う。
タイプBの強さは作った自分が一番よく理解している。
その辺にいる者達では相手にもならないので、負けるとは考えていない。

「マスター、期待にお応え出来ず申し訳ありません。殲滅作業を終わらせる事が出来ませんでした。」

 タイプBはジルの前で頭を下げながら申し訳無さそうに言う。
仲間達を守ってくれただけでも充分なのだが、タイプBは言われた事を完璧にこなせなかったので申し訳無く思っている様だ。

「意気揚々と向かった割には、まだ終わっていなかったんですね。仕事が遅いですよタイプB。」

 そんなタイプBの様子を見て、タイプCが追撃する様に言う。
自分はジルに仕掛けられた陣形魔法を解除すると言う役目をしっかりとやり遂げたので得意げである。

「タイプC、貴方も殲滅対象に加えてもいいのですよ?」

 そう言ってバチバチと火花が散りそうな睨み合いをするメイドゴーレム達。
マスターであるジルを第一に思う者同士なのだが、昔から何かと言い合いになる事が多かった。

「お前達、こんな状況で喧嘩をするな。シキ、手っ取り早く状況説明を頼む。」

「は、はいなのです。」

 一番状況を知っていそうなシキに今までの経緯を大まかに聞く。
ハガンの裏切りや目的等もシキが知る範囲で聞く事が出来た。

「ふむ、つまりキクナの予知にあった工作員はハガンだったのか。同族を裏切る輩がいたとはな。」

 フードの男と会話しているのもシキが確認しているので、仲間であり工作員だと分かる。
ジルに陣形魔法を使ったのも、ハガンが動きやすくなる為の足止めだったらしい。

「マスター、それについては訂正があります。」

 黙って聞いていたタイプBが静かに手を挙げて言う。

「そ、そうなのじゃ!戦闘中故に聞きそびれておった!ハガンが魔族とはどう言う事なのじゃ!」

 ある程度ポーションで回復して動ける様になったナキナがタイプBに詰め寄る。
タイミングを逃して聞けていなかったがずっと気になっていたのだ。

「魔族だと?」

「正確には中身が魔族になっています。マスターも視ていただければ分かるかと。」

 タイプBが言っているのは鑑定系のスキルや魔法道具を使えと言う事だ。
ジルは雑談している内に逃亡を図ろうと頑張っているハガンに万能鑑定のスキルを使う。

「憑依状態か。何らかの方法で鬼人族の身体に精神を移している様だな。」

 万能鑑定の結果、ハガンの身体が憑依されている事が分かった。
ジルは出会う者全てに一々万能鑑定を使う訳では無いので気付かなかった。

「つまり奴はハガンでは無いと言う事か…。」

 ナキナは安心した様な悔やむ様な複雑な表情で言う。

「その通りです。そして個体名ハガンが元に戻る事もありません。」

「そうですね。既に亡くなられている様ですし。」

 感情の整理に忙しいナキナにお構い無しと言った感じで、タイプBとタイプCがさらりと告げる。
ジルも万能鑑定を使った時に気付いていたが、もう少し気を使って言えないのかといった表情でメイドゴーレム達を見る。

「なっ…。…それは真か?」

 それを聞いたナキナは不安そうな表情でジルを見ながら尋ねてくる。

「ああ、残念だが本当だ。」

 メイドゴーレム達が言ってしまったので隠しても無駄だろう。
今ハガンに憑依している魔族は、ハガンだった者を殺して空いた身体に精神を移して乗っ取っている状態である。

「いつの間に…。妾は気付く事すら…。」

 ハガンがそんな事になっていたと知り、ナキナはショックで俯いている。

「いつから鬼人族達の集落に潜入していた?」

 ナキナに代わってハガンに尋ねる。

「あ?んな事一々覚えてる訳ねえだろうが。てめえらは、雑事をした時間を正確に覚えているのか?」

 魔族は馬鹿にする様な笑いを浮かべて言う。
元ハガンだった者を殺した事については、些細な事で覚えていないと言っている。

「人を殺しておきながら雑事と同じ感覚とは、見下げた者ですね。」

 タイプBが軽蔑する様な目で見ながら言う。
同じ元魔族であっても自分が仕えるマスターとは大違いだと、その表情が物語っていた。

 だがタイプBにそんな目を向けられても魔族は何も感じていない様だ。
人を殺す事が日常となり過ぎているのかもしれない。

「色々と聞きたい事はあるが、降伏して素直に話すつもりはあるか?」

 ジルはほぼあり得ないだろうと思いつつも尋ねてみた。
それに降伏したとしてもこれだけの事をやらかしたので鬼人族達が許す事は無いだろう。

「そんな風に見えるなら、てめえの目は腐ってるんだろうぜ。」

 魔族の返しに対して、反応したのはジルでは無くタイプBとタイプCである。
突然二人の殺気が急激に高まった。
マスターであるジルを侮辱する発言は全て見逃せないのだ。

「落ち着けお前達、別に期待して聞いた訳では無い。ふむ、そろそろ効果が切れる頃合いだな。」

 洞窟から出てくる時に使った言霊のスキルの効果が間もなく終わる。
色々頑張って抜け出そうとしていた魔族がやっと自由になれた。

「っ!?やっぱ何かしてやがったか。」

 突然身体が動く様になった魔族がジルを睨む。

「だが逃げられるとは思っていないだろう?逃すつもりも無いしな。」

 そう言ってジルは広範囲の結界を張った。
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