上 下
76 / 600
9章

元魔王様と暗躍する謎の集団 2.5

しおりを挟む
 ジル達が鬼人族の集落を訪れた夜。
皆が寝静まった頃を見計らい、一人の者がある場所を目指して集落を抜け出した。
目的地に着くと一人の人族の男が待っており手を振っている。

「ったく何の用だ。潜入中に呼び出しやがって。」

 呼び出された男は不機嫌そうに言う。
任務の内容上あまり不自然な行動は取りたくないのである。

「申し訳ありませんね。近くに寄ったのでご報告をと思いまして。」

 人族の男は口ではそう言っているが申し訳無いとは全く思ってなさそうだ。
それが更に男の機嫌を損ねる。

「ちっ、早く言いやがれ。」

 イライラした気持ちを隠さずに言う。

「結論から言いますと権力者の駒の用意と資金稼ぎの任務は失敗に終わりましたのでやり直しです。惜しいところまでいったのですけどね。」

 人族の男はやれやれと首を振りながら言う。
悪びれた様子も無く反省していないのが丸分かりだ。

「てめえ、俺をイラつかせる為に来たのか?」

 男は呼び出した人族の男の胸ぐらを掴み上げて言う。

「イレギュラーがいたのですからご容赦願いたいですね。巻き添えで今頃死んでいたかもしれないのですから。」

 イレギュラーが全て悪いので自分には責任が無いと言いたい様だ。

「けっ、てめえが死にそうなところなんて見た事ねーよ。」

 そう言って掴んでいた手を離す。
会う度にイライラさせられるが、実力だけは認めているのである。

「本当ですって、信じて下さい。」

「んな事はどうでもいいんだよ。その為だけに呼び出したってのか?」

 他人の任務の失敗に関しては別にどうでもいい事であった。
失敗した者だけに責任がいくので特に興味が無い。

「それがもう一つイレギュラーが重なってしまいまして。」

 人族の男は溜め息を吐きながら言う。

「金が尽きたとかふざけた内容なら殺すぞ。」

「そちらも頂ければ嬉しいのですが…、冗談ですよ冗談。」

 男が殺気を放ちながら武器に手を掛けたので慌てて否定する。
これ以上冗談を言えば本当に斬り掛かってきかねない。

「今身動きが取れなくなってしまったのです。」

「は?なんでだ?」

 特に怪我をしている様にも見えない。
それに怪我をしていても平然と動き回れそうな奴と認識している。

「やはり気付いていませんでしたか。結界ですよ結界。」

 そう言って人族の男は上を指差す。
目で見える訳では無いので、伝える為に指した感じだ。

「集落に張られているのなら知ってるぜ?」

 鬼人族の集落には人族から見えない様に見た目を偽る結界が張られている。

「それとは別です。おそらく感知系の物ですね。運が良いのか悪いのか、ここに来てから結界が張られてしまいました。」

 その結界のせいで下手に動けば気付かれる可能性があると言う。

「まだ気付かれてはいないって事か?」

「どう言った種類かによりますが、ここは魔力感知されないエリアですから問題無いでしょう。ですが事が終わるまではここを動けませんね。」

 結界が解除されるまではこのまま待機するしか無いとの判断である。

「ちっ、もう直ぐ準備が終わって仕掛けるところだ。邪魔すんじゃねーぞ。」

 準備にはそれなりの時間が掛かっている。
邪魔されて同じく任務失敗とはなりたくないのである。

「しませんよ。暇ですから少しサポートでもしておきましょう。」

 ただ待機するだけなのも暇なので、そう申し出る人族の男。

「弱体化でもさせたらぶち殺すからな。」

 男はそう言い残して集落に戻る。
夜とは言え持ち場を長時間離れれば怪しまれる可能性がある。

「人族の来客といい、直前に面倒事が重なりやがるぜ。」

 離れてから呟いたので、人族の男には聞こえていない。
これが後の結果を変えたかもしれない事を男が知るよしも無かった。

「やれやれ怖い人ですね。弱体化なんてミスはしませんよ。」

 男がいなくなってからそう呟く。
そして後ろにある洞窟に入って行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...