68 / 651
8章
元魔王様と鬼人族の巫女 4
しおりを挟む
ジル達は鬼人族の姫に招かれて集落の中を進む。
「先ずは自己紹介からじゃな。妾はナキナ・デリモーン。此度の事は本当に助かったのじゃ。」
そう言って鬼人族の姫であるナキナが頭を下げる。
「ジルだ、こっちはシキでこっちがライム。成り行きだったからな。発見したのも我じゃ無くシキだ。」
「おお!精霊様のお導きと言うやつかもしれんのう。なんにせよ子供達に大事が無くて良かったのじゃ。」
ナキナはシキにも礼を言っている。
姫と呼ばれていたわりには随分とフレンドリーである。
「それにしても、分かっていたが居心地が悪いな。」
集落にいるのは当然鬼人族ばかりなので、ジルに対する視線は厳しい。
たまに殺気染みた視線すら感じるので、周囲の警戒に気を抜けない。
「すまんのう。しかし妾も気持ちは分かる故、我慢してもらえぬか?」
ナキナは申し訳無さそうにジルに言う。
鬼人族が人族に受けた扱いを考えると、そんな態度をしていても咎める事は出来無いのだ。
「そうするしか無いのだろうな。人族がやらかした結果だと聞いた。」
転生中の出来事なので全く知らなかった事だが、先程シキに聞いて納得している。
「妾も人族全てが悪だとは思っておらぬ。村の者達にもそう思う者は少なからずいるはずじゃ。それでもまだ記憶に新しいのでな。」
そう言うナキナは色々な感情がごちゃ混ぜになった様な複雑そうな表情をしていた。
「数年前の人族の件なのです?」
「うむ、今思い出しても辛いのじゃ。泣き叫ぶ子供達、次々と倒れていく同胞、連れ去られる者達を黙って見る事しか出来無い己の弱さ。正にこの世の地獄が来たと思った程じゃ。」
数年前を思い出しながら口から起きた事を呟くたびに、悲しみ、怒り、悔しさと様々な感情が押し寄せてくる。
そして感情が昂った影響で魔力が大きく乱れて荒ぶる。
可視化出来る程の濃密な魔力がナキナの周りで渦巻いている。
その荒ぶる魔力を見てシキやライム、鬼人族達さえもが怯えている。
「怒りで魔力が荒ぶっているぞ。」
平然とした様子でジルがナキナに教えてやる。
魔力に悩まされた前世の自分に比べれば随分と可愛いレベルなので、この程度で気圧される事は無い。
「おっと、すまんすまん。ふぅ、妾もまだまだ修行が足りんようじゃな。」
そう言ってナキナが魔力を抑え、カラカラと笑っている。
魔王の頃のジルとは違い、感情の昂りによって溢れただけなので、魔力の暴走を抑える事は容易だ。
「修行が足りないと言うわりには、随分と強そうだがな。」
判断材料は魔力だけだが鬼人族だけでは無く、転生してから出会ってきた中でもトップクラスと言える程ナキナは強そうだと感じた。
「まだまだこんなものでは足りんのじゃ。数年で随分と強くなった自覚はあるが、皆を守る為には足らぬ。二度とあんな思いはしたく無いのじゃ。」
ナキナは人族の奴隷狩りから仲間達を守れなかった事を気にして、ひたすらに強さを求めて今の実力を手にしていた。
再び奴隷狩りがきても誰も失わない様にする為に。
「お姫様は凄いのです!綺麗なだけじゃ無くて、皆を守る為に頑張って強くなろうとするなんて、誰にでも出来る事じゃないのです!」
シキがそう言ってナキナを褒める。
たった数年でこれ程の域に達するのは並大抵の努力では足りない。
ナキナの覚悟がどれだけのものかよく分かる。
「シキ殿にそう言ってもらえるとは光栄じゃな。」
「シキのご主人様に良く似ているのです!」
ここで言うご主人様とは、昔の魔王時代の頃の事だ。
魔族の滅亡を阻止する為に強さばかりを求めていた魔王と似ていると言いたいのだろう。
「ご主人様とはジル殿の事かのう?」
「そうなのです!仲間想いで皆を守る為にどこまでも強くなろうと必死に頑張っていたのです!」
それが神に与えられた使命であり、自分の生きる意味でもあったからだ。
だがその結果残ったのは孤独な余生だったので、少し後悔もしたものだ。
「シキよ、恥ずかしいからあまりそう言う話しはするな。それに人族と一緒にされたくは無いと思うぞ。」
鬼人族と人族の関係を考えれば、同列に語られたく無いと思う者も多い筈だ。
「あ、ごめんなさいなのです。」
「いやいや、気にしなくていいのじゃ。疎ましく思っておるなら、こんなに楽しげに会話してはおらぬ。」
しかしナキナは気にしていない様で笑って許してくれた。
ナキナ自身の話しを聞いていると、本人も随分と辛い目に遭ってきた筈だ。
それなのに人族に対してこんな対応を取れるのは、ナキナの人柄故だろう。
「よ、よかったのです。」
シキはホッとしたと言わんばかりに溜め息を吐いている。
当然悪気は無く善意のみで語った事だが、相手にとっては不快だと受け取られる可能性もあるので、言動には注意が必要だ。
「おっと、話しも終わりじゃな。目的地に到着したのじゃ。」
ナキナが残念そうに言って建物の前で止まる。
連れてこられたのは集落で最も大きな立派な建物の前だった。
「先ずは自己紹介からじゃな。妾はナキナ・デリモーン。此度の事は本当に助かったのじゃ。」
そう言って鬼人族の姫であるナキナが頭を下げる。
「ジルだ、こっちはシキでこっちがライム。成り行きだったからな。発見したのも我じゃ無くシキだ。」
「おお!精霊様のお導きと言うやつかもしれんのう。なんにせよ子供達に大事が無くて良かったのじゃ。」
ナキナはシキにも礼を言っている。
姫と呼ばれていたわりには随分とフレンドリーである。
「それにしても、分かっていたが居心地が悪いな。」
集落にいるのは当然鬼人族ばかりなので、ジルに対する視線は厳しい。
たまに殺気染みた視線すら感じるので、周囲の警戒に気を抜けない。
「すまんのう。しかし妾も気持ちは分かる故、我慢してもらえぬか?」
ナキナは申し訳無さそうにジルに言う。
鬼人族が人族に受けた扱いを考えると、そんな態度をしていても咎める事は出来無いのだ。
「そうするしか無いのだろうな。人族がやらかした結果だと聞いた。」
転生中の出来事なので全く知らなかった事だが、先程シキに聞いて納得している。
「妾も人族全てが悪だとは思っておらぬ。村の者達にもそう思う者は少なからずいるはずじゃ。それでもまだ記憶に新しいのでな。」
そう言うナキナは色々な感情がごちゃ混ぜになった様な複雑そうな表情をしていた。
「数年前の人族の件なのです?」
「うむ、今思い出しても辛いのじゃ。泣き叫ぶ子供達、次々と倒れていく同胞、連れ去られる者達を黙って見る事しか出来無い己の弱さ。正にこの世の地獄が来たと思った程じゃ。」
数年前を思い出しながら口から起きた事を呟くたびに、悲しみ、怒り、悔しさと様々な感情が押し寄せてくる。
そして感情が昂った影響で魔力が大きく乱れて荒ぶる。
可視化出来る程の濃密な魔力がナキナの周りで渦巻いている。
その荒ぶる魔力を見てシキやライム、鬼人族達さえもが怯えている。
「怒りで魔力が荒ぶっているぞ。」
平然とした様子でジルがナキナに教えてやる。
魔力に悩まされた前世の自分に比べれば随分と可愛いレベルなので、この程度で気圧される事は無い。
「おっと、すまんすまん。ふぅ、妾もまだまだ修行が足りんようじゃな。」
そう言ってナキナが魔力を抑え、カラカラと笑っている。
魔王の頃のジルとは違い、感情の昂りによって溢れただけなので、魔力の暴走を抑える事は容易だ。
「修行が足りないと言うわりには、随分と強そうだがな。」
判断材料は魔力だけだが鬼人族だけでは無く、転生してから出会ってきた中でもトップクラスと言える程ナキナは強そうだと感じた。
「まだまだこんなものでは足りんのじゃ。数年で随分と強くなった自覚はあるが、皆を守る為には足らぬ。二度とあんな思いはしたく無いのじゃ。」
ナキナは人族の奴隷狩りから仲間達を守れなかった事を気にして、ひたすらに強さを求めて今の実力を手にしていた。
再び奴隷狩りがきても誰も失わない様にする為に。
「お姫様は凄いのです!綺麗なだけじゃ無くて、皆を守る為に頑張って強くなろうとするなんて、誰にでも出来る事じゃないのです!」
シキがそう言ってナキナを褒める。
たった数年でこれ程の域に達するのは並大抵の努力では足りない。
ナキナの覚悟がどれだけのものかよく分かる。
「シキ殿にそう言ってもらえるとは光栄じゃな。」
「シキのご主人様に良く似ているのです!」
ここで言うご主人様とは、昔の魔王時代の頃の事だ。
魔族の滅亡を阻止する為に強さばかりを求めていた魔王と似ていると言いたいのだろう。
「ご主人様とはジル殿の事かのう?」
「そうなのです!仲間想いで皆を守る為にどこまでも強くなろうと必死に頑張っていたのです!」
それが神に与えられた使命であり、自分の生きる意味でもあったからだ。
だがその結果残ったのは孤独な余生だったので、少し後悔もしたものだ。
「シキよ、恥ずかしいからあまりそう言う話しはするな。それに人族と一緒にされたくは無いと思うぞ。」
鬼人族と人族の関係を考えれば、同列に語られたく無いと思う者も多い筈だ。
「あ、ごめんなさいなのです。」
「いやいや、気にしなくていいのじゃ。疎ましく思っておるなら、こんなに楽しげに会話してはおらぬ。」
しかしナキナは気にしていない様で笑って許してくれた。
ナキナ自身の話しを聞いていると、本人も随分と辛い目に遭ってきた筈だ。
それなのに人族に対してこんな対応を取れるのは、ナキナの人柄故だろう。
「よ、よかったのです。」
シキはホッとしたと言わんばかりに溜め息を吐いている。
当然悪気は無く善意のみで語った事だが、相手にとっては不快だと受け取られる可能性もあるので、言動には注意が必要だ。
「おっと、話しも終わりじゃな。目的地に到着したのじゃ。」
ナキナが残念そうに言って建物の前で止まる。
連れてこられたのは集落で最も大きな立派な建物の前だった。
1
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
ただしい異世界の歩き方!
空見 大
ファンタジー
人生の内長い時間を病床の上で過ごした男、田中翔が心から望んでいたのは自由な世界。
未踏の秘境、未だ食べたことのない食べ物、感じたことのない感覚に見たことのない景色。
未だ知らないと書いて未知の世界を全身で感じることこそが翔の夢だった。
だがその願いも虚しくついにその命の終わりを迎えた翔は、神から新たな世界へと旅立つ権利を与えられる。
翔が向かった先の世界は全てが起こりうる可能性の世界。
そこには多種多様な生物や環境が存在しており、地球ではもはや全て踏破されてしまった未知が溢れかえっていた。
何者にも縛られない自由な世界を前にして、翔は夢に見た世界を生きていくのだった。
一章終了まで毎日20時台更新予定
読み方はただしい異世界(せかい)の歩き方です
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
怠惰生活希望の第六王子~悪徳領主を目指してるのに、なぜか名君呼ばわりされているんですが~
服田 晃和
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた男──久岡達夫は、同僚の尻拭いによる三十連勤に体が耐え切れず、その短い人生を過労死という形で終えることとなった。
最悪な人生を送った彼に、神が与えてくれた二度目の人生。
今度は自由気ままな生活をしようと決意するも、彼が生まれ変わった先は一国の第六王子──アルス・ドステニアだった。当初は魔法と剣のファンタジー世界に転生した事に興奮し、何でも思い通りに出来る王子という立場も気に入っていた。
しかし年が経つにつれて、激化していく兄達の跡目争いに巻き込まれそうになる。
どうにか政戦から逃れようにも、王子という立場がそれを許さない。
また俺は辛い人生を送る羽目になるのかと頭を抱えた時、アルスの頭に一つの名案が思い浮かんだのだ。
『使えない存在になれば良いのだ。兄様達から邪魔者だと思われるようなそんな存在になろう!』
こうしてアルスは一つの存在を目指すことにした。兄達からだけではなく国民からも嫌われる存在。
『ちょい悪徳領主』になってやると。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる