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8章

元魔王様と鬼人族の巫女 1

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 遠出してきた甲斐もあり、コカトリスを倒してライムに石化のスキルを取得させる事に成功した。

「目的達成なのです!もう帰るです?」

「ふむ、どうするか。」

 片道馬車で数日の距離だったが魔法を使って爆速で移動した為、コカトリスを倒しても出発してから数時間程度しか経っていない。

 こんなに早く帰れば移動手段を怪しまれてしまう。
なので目立たない様にする為に、普通に時間を掛けて帰るしかない。

「徒歩でのんびり帰るとするか。」

「面白い物も見つかるかもしれないのです。」

 行きは移動が速過ぎたので景色を楽しむ余裕も無かった。
そういう意味では来る時に楽しめなかった道中をゆっくり見られるので、何かしら発見があるかもしれない。

「数日程時間はある訳だしな。」

「更なるライムの強化も出来るかもなのです!」

 道中強い魔物に遭遇する可能性もある。
ライムもプルプルと揺れて喜んでいる。
早く進化して強くなり、二人の役に立ちたいのだ。

「そう都合の良い魔物が現れるとは限ら無いがな。」

 スキルはどんな魔物でも持っている訳では無い。
高ランクであれば大抵の魔物が何かしら所持しているが、低ランクの魔物だと望みは薄い。

 そして有用なレアスキルを狙うとしたら、高ランクの中でも強い部類の魔物を倒す必要がある。
しかしそんな魔物が頻繁に出没したら大問題である。
少なくともブロム山脈の奥地から遠ざかっているので、出会う確率は下がるだろう。

「ん?」

 暫く帰路を歩いていると、前方から人の気配を感じる。
それもかなりの数である。

「どうかしたのです?」

「人が近くにいるみたいだな。同業者かもしれない。」

 ブロム山脈の奥地からは抜けたので、ここは新人冒険者達の狩場付近だ。
冒険者が依頼をこなしていても不思議は無い。

「いたのです…、あっ!」

 精霊眼で複数の人を見つけたシキが突然大きな声を出す。

「どうした?」

「馬車に無理矢理子供を乗せているのです!」

 シキが偶然にもとんでもない現場を目撃した様だ。

「人攫いか?こんな場所でよくやるもんだ。」

 シキの報告を聞いたジルは肩にシキとライムを乗せると走って現場に向かう。
特に隠れる気も無いので、堂々と近付いていくと一人の男がジルに気が付く。

「ちっ、冒険者か。」

「ぐずぐずしてるから見つかっちまったじゃねえか!」

「おい、兄ちゃん。今なら見逃してやるぜ?」

 悪態を吐きつつも男達は余裕そうである。
人数が十人近くいるので、冒険者一人くらいならなんとかなると思っているのだろう。

「た、助けて下さい!この人達が無理矢理僕達を!」

 額に角を生やした子供がジルに助けを求めている。
あれは子供ではあるが鬼人族と言われる種族だ。

「黙ってろ!」

 すると一人の男が子供を黙らせようと殴ろうとする。
しかしジルの張った結界により、拳が弾かれ子供に届く事は無い。

「痛ってえ!てめえ、何かしやがったな!」

「ヒーロー気取りの冒険者か。」

「こいつも奴隷にしちまうか?」

 男達は各々武器を手に取る。
そしてジルを囲む様に展開していく。

「ふむ、奴隷狩りで間違い無さそうだな。欲深い人族のせいで他種族は苦労する。」

 ジルはやれやれと首を振りながら言う。
魔王時代にも人族が他種族を無理矢理奴隷にする事は少なからずあった。
種族ごとに様々な特色があり、奴隷として使えると都合が良かったのだ。

 容姿の優れている種族、戦闘能力に秀でている種族、諜報や潜入が得意な種族と様々だ。
自分の手元に置いておきたいと考える者は多いだろう。

「やっちまえ!」

 男達が号令と共に一斉にジルに向かってくる。

「手加減する必要は無いな。街からも離れているし。」

 生捕にすれば犯罪奴隷として引き取ってもらえて金が手に入る。
しかし街が近くに無い状態では連れて行くのが手間だ。

 犯罪行為をしている者に容赦する必要は無いので、殺しても罪に問われる事は無い。
ジルが手を前に出すと、掌から次々に真っ赤な蝶が生み出されていく。

「燃えろ害虫共、フレアバタフライ!」

 中級火魔法の一つ、触れた者を燃やす蝶を生み出す魔法、フレアバタフライを使う。
掌からは数えきれない程の数が生み出される。

 そして男達は周りを囲まれ、逃げる事すら出来無い。
その後は阿鼻叫喚が辺りに響く。
助けを求める声もあるが自業自得だ。

「さすがジル様なのです!ライムもいつか同じくらい強くなるですよ?」

 ライムはプルプルと揺れて、無理無理と否定してそうな感じが伝わってくる。

「さて、奴隷狩りは倒したから安心するといい。見たところ鬼人族だな?」

 ジルが子供達に尋ねるが怯えてしまって反応が悪い。
自分達を連れ去ろうとした奴隷狩りだったが、それを目の前で平然と燃やし殺したジルが恐く見えても仕方が無かった。
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