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7章

元魔王様とシキの従魔 5

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 魔王であった頃に自分にも実験として使ってみたが、スキルは際限無く覚える事が出来た。
しかしスキルを既に覚えている現状最弱のライムの魔力量では、新たにスキルを取得出来無い可能性がある。

「た、試してみなければ分からないのです!」

「確かにな、一先ず使ってみるか。何かスキルの希望はあるか?」

 そう尋ねたジルはスキル収納本を開いて見せる。
相当な数のスキルが収納されている。
これは魔王時代に魔物を倒して獲得したスキルばかりである。

 スキル収納本の実験として、魔物が大量に潜むとある森を丸ごと消し飛ばした事がある。
その時に数えきれない程のスキルを獲得したのだ。

「石化なんて強そうなのです。」

 大量にあるスキルの中からシキが選んだのは石化のスキル。
対象者の身体を徐々に石に変えていくと言う、なかなか凶悪な能力を持つスキルだ。

「分かった、ライムに石化のスキルを譲渡する。」

 ジルがスキル収納本の効果をライムに使ってスキルを与えようとする。
しかしスキル収納本は何も反応しない。

「何も起こらないのです。」

「失敗だな。弱い部類のスキルならば取得出来る可能性はあるか。」

 スキルの中には弱いスキルもあれば強いスキルもあり、使い勝手が悪いスキルもあれば汎用性が高いスキルもある。

 そう言ったスキルの上下関係で必要な魔力量も大きく違ってくるので、取得に関連してくる可能性はあるとジルは考えていた。

「だったらスライムの基本的なスキルを覚えさせてみるのです。」

「そうだな、ライムは特殊なスライムだからか分裂のスキルを持っていない。」

 シキが提案してきたがジルも同じ事を考えていた。
スライムにも様々な種類がいるが、共通して覚えているスキルがある。
それが分裂と言うスキルだ。

 スライムならば必ず持っているスキルなのだが、ライムは分裂のスキルを覚えていなかった。
分裂と言っても使うたびにスライムが増殖していく訳では無い。

 核が無い分身を生み出し、自分の代わりに何かをさせる時に使うスキルだ。
これがあれば無防備になる捕食行為を代わりに任せたりして、自分の危険を減らす事が出来る。
スライムの貴重な自衛手段の一つなのである。

「ライムに分裂のスキルを譲渡する。」

 先程と同じくスキルを与えようとすると、今度はスキル収納本とライムが光り出した。
直ぐに光りは収まり、スキル収納本の項目にあった分裂のスキルが消えていた。

「成功なのです?」

 一応万能鑑定にてライムの事を視てみると、変化吸収に加えて分裂のスキルが増えていた。

「ああ、分裂のスキルを取得している。」

「やったのですライム!」

 ライムもプルプルと揺れて喜んでいる様だ。

「これで少しは戦闘中に死ににくくなったか。」

 ライムが分裂のスキルを使って分身に危険な事を任せれば、本体の生存率はかなり高まる。
そもそも危険な状況ならば助けに入るので、吸収中の保険と言ったところだ。

「早速ライムの育成をするのです!」

 シキがライムをもっと強くしたいと意気込んでいる。

「そうだな、スキル収納本は正規の手段では無い。魔物を吸収させてみるとしよう。」

 ジルが作り出したスキル収納本は所謂チートアイテムだ。
人にも魔物にもスキルを与える事が出来るが、ライムはそんな事をしなくてもスキルを得られるスキルを持っているので、早速そちらも試してみる事にした。

 ライムを育てる為に一先ずジル達が訪れたのはギルドである。
暫くはゆっくりすると受付嬢のミラに話していたのだが、事情が変わったので仕方が無い。

 何故ギルドに来たのかと言うと、討伐系統の依頼書には魔物の生息域が書かれているからだ。
欲しいスキルを持つ魔物のいる場所を調べられるだけで無く、報酬まで手に入るので利用しない手は無い。

「どうだシキ?」

「うーん、めぼしい魔物はいないのです。」

 シキがそう言うので、隣りのBに移動する。
ライムに覚えさせたいスキルを持つ魔物の情報が書かれている依頼書を探しているのだ。

 知識の精霊であるシキは、この世界に存在する魔物の情報も記憶している。
なのでどの魔物がどんなスキルを持っているのかも分かるのである。

 そしてシキのお眼鏡に叶うスキル持ちの魔物が、ジルの受けられるDランクの依頼ボードにはいなかった。
その上のCランクも微妙だったので、今度はBランクを見ようとしているのだ。

「ジル様これなのです!コカトリスなのです!」

 シキが指差した依頼書に書かれていたのはコカトリスと言う魔物だ。
蛇の尾を持つ巨大な鶏の様な魔物である。

 この魔物はライムに最初に与えようとした石化のスキルを所持しているのだ。
スキル収納本で与えられなかったので、正規の方法で手に入れたい。

「場所はブロム山脈の奥地?聞いた事が無いな。」

 魔王時代も遠出する事は少なかったので、ジルは地理に疎い。
更に転生する間に世界にも変化があったので、ジルの持つ情報は古い可能性もある。

「魔の森の方角とは反対側にある山脈なのです。馬車だと数日掛かるので、それなりに遠いのです。」

 そう言ってシキが説明してくれる。
ジルが転生している間もこの世界で知識を蓄えていたので、様々な知らない情報を与えてくれる有り難い存在である。

「ふむ、ならばこれにするとしよう。」

 ライムに石化のスキルを覚えさせる為にコカトリスを狩る事に決めた。
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