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4章

元魔王様と初めての依頼 8

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「私は同じ女性として見捨てる事は出来無いわ。戻ってくるまでに悲惨な目に遭う事は分かりきっているもの。」

 人質の存在を知ったエルーの意見は変わった様だ。
状況が変わっての判断だが先程と真逆の事を言っているのは自分でも理解している。

 なので二人に反対される事も構わないと言った表情だ。
意見が分かれたとしても、一人ででも助けに行きそうであった。

 エルーが助けたがる理由は簡単である。
ゴブリンは種族的に雌が殆ど産まれない。
なので数を増やす為には、ゴブリンだけでは効率が悪い。

 その為他の種族の雌を攫い異種交配を行う事で数を増やしている。
ゴブリンにとって他種族の雌は、数を増やす為の苗床以外の何ものでも無い。

 それは人族も例外では無く、このまま見捨てて戻れば女性達が一生もののトラウマを植え付けられる事になる可能性がある。

「我は元から戦うつもりだったからそれで構わんぞ。」

 エルーが意見を変えたとしても、最初からジルは戦う気だったので文句は無い。

「そうですね。命の危険はありますが、お二人を残して撤退する訳にもいきません。ここは運命共同体といきましょう。」

 ゾットは撤退を促すかと思ったが、人質を放置する事の意味が分かっているので付き合ってくれる様だ。
ギルドの職員と言っても実力はそれなりにあるみたいなので、あっさり死ぬ事も無いだろう。

「ありがとう、二人共。」

 断られる事も覚悟していたので、エルーは素直に頭を下げる。

「よし、早速…。」

「待って下さいエルーさん。ゴブリンは女性の敵、焦る気持ちも分かります。ですが事前に決めておく事もあるでしょう?」

 直ぐに助けに向かおうとするエルーの腕を掴んでゾットが止める。

「決める事?」

「ええ、誰がどの役割りをするかです。当然優先順位は人質の確保ですが見張りも多いでしょうし、囮として敵を引き付ける役が必要です。」

 少しでも人質を安全に助けるならば、集落の中にいるゴブリンをある程度減らす必要がある。
助けてる最中に囲まれれば、人質を守り切れるか分からないからだ。

 だが当然囮となった者が一番危険に晒される事にはなってしまう。
命の危険が高い役割りなので、こう言った場合やりたがる者は当然少ない。

「ならば我がやろう。二人は人質の確保をするといい。」

 平然とジルが囮役を買って出る。
実力的に言ってもゴブリン相手に死ぬ事は無いので、ジルが一番適任とも言えた。

「一番強いのがジル君とは言え、新人に危険な囮を任せるなんて先輩失格ね。」

 本来ならば高ランクの者が引き受ける様な役割りなので、エルーは申し訳無さそうにしている。
それでもここまでの戦闘でジルの実力が自分よりも高い事は理解している。

「その分我々もしっかりと役割りを果たしましょうエルーさん。ジルさん、勝てなそうな危険な相手が現れたら直ぐに撤退する事は約束して下さい。」

「分かった。」

 人質の確保が優先ではあるが、使い道の無い男は捕まれば殺されて食われるのみだ。
しかしジルをそんな目に合わせるつもりは無い。

 ゾットは同行役として、そしてギルド職員として、新人の冒険者を守る義務があるので、万が一の時は自分が殿を務める事も考えていた。

「ならば早速行くか。我が派手に暴れるから、二人は人質の確保を優先してくれ。」

 ジルの指示に二人が黙って頷く。
それを確認したジルは、わざと音を立てる様に移動して村の入り口を目指して走り出す。

「ギャギャ!」

「ギャァ!」

 当然そんな移動をすれば、見張りや見回りに見つかり騒がれる。
そして集落に侵入しようとする外敵のジルを排除しようとゴブリン達が集まってくる。

「木が周りに無いのは助かるな。」

 集落の拡大の為か周囲の木は伐採されており見晴らしが良い。
これならば火魔法を使っても木に燃え移る心配は無く、山火事の心配も無いので存分に火魔法を使う事が出来る。

「中級火魔法、フレアバタフライ!」

 ジルの手から小さな赤い蝶が次々に生み出される。
その身体はメラメラと燃えており、空中を漂いながらゴブリン目掛けて移動していく。

 そして一体のゴブリンがその蝶に触れた瞬間、全身を炎が包む様に燃え上がる。
そしてなす術も無く身体を燃やし尽くされて、その場には魔石だけが残る。

 周りのゴブリン達はその様子を見て警戒しているが、ジルの生み出す蝶の量が多くて、周りを囲まれ逃げる事も出来ずに次々と焼かれていく。

「「ギャギャア!」」

 入り口の見張りのゴブリンナイトが、次々と仲間を燃やし殺すジルに向けて、ここは通さんぞとばかりに剣を向けてくる。

「邪魔だ邪魔。」

 ジルは文字通り雑魚を倒す様に、軽々と刀を振るって剣ごとゴブリンナイトを両断していく。
ゴブリンソルジャーやゴブリンアーチャーよりも上位種のDランクなのだが、ジルにとっては大差無い問題であった。
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