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2章

元魔王様と人族の街 10

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 ミラに声を掛けてきたのは、上階から階段を降りてきている最中のエルフであった。

「ギルドマスター!お疲れ様です。」

「冒険者ギルドの責任者か。」

 ミラに挨拶されたエルフはギルドマスターらしい。
見た目は20歳後半に見える美形の男性だが、エルフは長命種なので見た目はあてにならない。
万能鑑定を使ってみると500歳を優に超えていた。

 そしてエルロッドは道具鑑定のスキルを持っていたので、これを使ってジルを調べたと思われる。
魔法道具の類を身に付けていないので疑いは晴れた様だ。

「うむ、ギルドマスターをしておるエルロッドじゃ。ギルドの者達が世話になったようじゃな。」

 演習場の一件について言っているのだろう。
ジル以外にもランク選定試験を受けにきた新人冒険者はいたので、そこから話が伝わったのかもしれない。

「試験官と名乗らせるならば、もう少し実力者を用意するといい。」

「ちょ、ちょっとジルさん!?」

 ジルは自身の力を把握する為にも実力者との戦闘を期待していたが、物足りない結果だったので素直にエルロッドに伝えた。

 それを見たミラは慌てている。
立場的にも年齢的にも目上のギルドマスターに対して、こんな態度を取る者は滅多にいないのだろう。

「ほっほっほ、構わんよミラ。ジルと言ったな、普通の新人冒険者を相手取るならば、あれくらいの実力があれば充分なのじゃよ。」

 エルロッドはあまりジルの発言を気にしてはいない様だ。
冒険者の相手となれば、敬語も知らない者が多いので慣れているのだろう。

「そうだったか、我は少し物足りなかったが。」

「お前さんを普通とは言えんよ。試験官全員を相手取って負かす新人冒険者などそうおらん。」

 ジルは自分が相当弱体化していると神々に聞かされていたが、元々のスペックが高過ぎた。
それこそ神の領域に踏み込む程の実力だったので、弱体化したと言っても人族の中では最強クラスである。

「ふむ、そう言うものか。」

「それよりもギルドマスター、何か用事があって来られたのでは?」

 普段エルロッドが階下に降りてくる事は珍しいので、何かあったのではとミラは考える。

「試験官全員が倒れておるからの、試験官の代わりにジルのランク選定試験についてじゃ。」

 そう言ってエルロッドがランク選定試験の結果について話してくれた。
当然試験官を倒す程の実力なので、文句無しの最高評価を貰えた。

 そしてDランク相当の実力者達を一人で軽々と倒してしまえる程の強さであれば、BランクやCランクに相当する。
だがランク選定試験では、E、F、Gの中で割り振られるので、ジルの結果はEランクとなった。

 上のランクには数々の依頼をこなした実績や依頼の中でも高難度の護衛依頼等を成し遂げなければ上がれない決まりもあるので、上げたくても簡単に上げられないのだ。

「つまり我はEランクになったと言う事か。」

 冒険者の中では初心者から抜けたところと言ったランク帯である。

「不満かの?」

「ランクは別にどうでもいい。身分証を得る事が目的なのだからな。」

 冒険者は早くランクを上げて報酬の良い依頼を受けたがるので、エルロッドはジルに何か言われる事も覚悟していたのだが、ジルは目的が達せられるならば問題無い。

「そうじゃったか、それはこちらとしても助かるわい。ミラよ、早速手続きをしてくれるかの?」

「分かりました、冒険者カードをお借りしますねジルさん。」

 ミラはジルから冒険者カードを受け取ると奥の扉に消えた。

「どうかしたか?」

 ミラがいなくなってからエルロッドがずっと見てくる。
何かと比較するかの様に全身見回しては首を傾げているのだ。

「ふむ、何やら懐かしい気配を感じた気がしたのじゃが、気のせいみたいじゃ。手間を取らせて悪かったの。」

 エルロッドの言葉を聞いて一瞬元魔王とバレたかと思ったが大丈夫そうであった。
魔王の面影は微塵も残っていないのでそう簡単にはバレない筈だ。

 エルロッドかは分からないが魔王時代にもエルフと出会った事は何度もある。
しかし数百年も前の話しなのと毎回自己紹介していた訳では無いので、全員覚えている訳では無い。

「別に構わんぞ。」

「お主程の者ならば、ギルドマスターとして依頼する事もあるじゃろう。その時は頼まれてくれ。」

 ギルド側からも高ランクの冒険者を直接指名して依頼をする事がある。
ジルのランクは低いが高ランクの冒険者達と実力は変わらないので、頼まれにくいが零では無い。

「状況によるとだけ言っておく。」

 自由気ままな二度目の人生は思うがままに生きようと決めているので、依頼を受けるかは気分次第である。
その返答でも満足したのかエルロッドは階段を上がって二階に戻っていった。

 そしてミラにランクの書かれたカードを貰い、目的も果たしたので美味い食事でも食べようと冒険者ギルドを後にした。
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