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2章

元魔王様と人族の街 8

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「では私は解体と査定の手続きをしてきますね。」

 ミラはジルを残して倉庫に向かった。
解体員と査定員にアーマードベアの作業を頼み、自分は受付の仕事に戻るのだ。

 受付嬢は冒険者の対応以外にも書類仕事等もあるのでそれなりに忙しいのだ。
手続きを終わらせて残っている事務仕事をしていると時間があっという間に経過する。

「ミラさん、査定終わったよ。」

「ご苦労様です。」

 仕事に集中していると査定員に呼び掛けられて、査定結果が書かれた紙を受け取る。
ジルの倒したアーマードベアの査定内容が書かれた紙である。

「さすが高ランクの魔物ね。頭部が無くても大金だわ。」

 受け取った紙を見ながら呟く。

「ってあれ?ジルさんは?」

 既に30分近く経っているのにジルの姿が見えない。
ランク選定試験は数分で終わるので、倉庫か自分のところに報告に来ていてもいい筈である。

 まだ演習場にいて他の冒険者の戦い方でも見ているのかと思い、査定額の紙を持ったまま演習場に向かう。

「な、なんですかこれ!?」

 演習場に着いて目の前の光景を見た瞬間に、ミラは叫ばずにはいられなかった。
何故か死屍累々と言った様子で地面に沢山の試験官達が倒れていたのだ。

 演習場にいた冒険者達は試験官の様にならない為なのか、端っこに固まっていた。
そして唯一倒れていない女性の試験官も、地面にへたり込んで何かを呟きながら現実逃避をしていた。
その女性試験官の前に立っているのはジルだ。

「ミラか、丁度良い。ランクは誰に聞けばいいのだ?」

 間違い無くこの現状を引き起こした人物であるジルが、ミラの絶叫に気付き振り向いて尋ねてきた。



 時は30分程遡る。
ミラがアーマードベアの解体や査定を頼む為に演習場からいなくなり、ジルはミラに言われた通りにどの試験官にランク選定試験をしてもらうか考えていた。

「お前さん、ランク選定試験の希望者か?」

 立ち止まって考えていると、試験官の方から声が掛かった。
ジルよりも一回り程大きい獣人男性の試験官である。

 頭の上から熊耳を生やしており、肩には戦斧を担いでいる。
見た目の圧が凄いので、ジルと同じくランク選定試験を受けにきた者達は、目も合わせようとはしない。

「そうだ。」

「なら俺がやってやろうか?」

 試験官は冒険者側が選べるとミラが言っていたが、自分から提案するくらいはあるのだろう。
周りの様子を見る限り、暇を持て余しているのは一目瞭然だ。

「では頼むとしよう。」

 最後に獣人族と戦ったのは随分前の事である。
人族として転生した力も試しておきたいと言う気持ちもあり、一般的な獣人族の力を把握するついでに、自身の力の調整も行おうと思っていた。

 そして演習場に設置された魔道具で殺す心配は無いので、なるべく強い者を選ぼうと思っていたので断る理由も無い。

「ほう、ひ弱そうな見た目だが度胸はある様だ。」

 試験官は久々に戦えるのが嬉しいのか、ジルの返答に満足げである。

「武器は持ってないのか?貸し出しもしているぞ。」

 試験官が指差す方を見ると、様々な大きさや形の剣を始め、槍、斧、籠手、弓、杖、鎌と色々用意してある。
自分に合った武器もここで見つかるのかもしれない。

 無限倉庫の中には魔王時代に使った様々な武具が入っている。
だが中には今の時代や人族にとって危険な代物も含まれている可能性がある。

 まだ人族の世界に詳しくは無いので、調べ終わるまで前世の物は、なるべく出さない様に注意しなければならない。

「無手で十分だ。」

 身体能力も全力を出せば、魔物を倒せるくらいに高い事は分かっている。
アーマードベアの実力を知らないジルだが、それなりに戦える自信はあった。

「そうかい、死ぬ事は無くても怪我をすると痛いから気を付けな。先手は譲ってやる。」

 試験官が戦斧を構えつつ言う。
ジルの挑発とも言える発言に対して文句を言う事も無く、どれ程の人物かと見定める様な試験官の目になっている。

「先ずは軽く行くか。」

 ジルは地面を蹴って真っ直ぐに突っ込む。
そして一瞬で懐に潜り込み、腕を引き絞る。
この間試験官は全く動く事無くジルが立っていた場所を見ていた。

 単純にジルの動きが速過ぎて、目で追えていないだけであった。
一瞬で近付いたジルにも反応出来ていない。

「ふっ!」

 ジルはがら空きの試験官の胴体に掌底を叩き込む。
皮の防具にジルの手形が刻まれる程食い込んでいる。

「っ!?」

 突然腹部に痛みが走った試験官は、何事か分からず顔を痛みで歪ませる。
その直後、掌底の威力によって後方に吹き飛んでいき、石壁に激突して動きを止めた。

「ん?それなりに手を抜いた筈なのだが…。」

 ジルはまさかの光景に少し言葉を失う。
挨拶代わりに放った初撃で勝負が付くとは思っていなかったのだ。
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