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「僕はスイ。吹くと書いてスイ。君は?」
「SS‐Oと呼ばれています」
それは名前じゃないね。とどこか楽しそうに吹は笑った。
「以前の名は忘れました」
「僕は知ってるよ。君の名前」
「ではなぜ私の名を聞いたのですか」
「覚えてくれていたら、嬉しいと思ったからだよ」
しばらく寝転がり話をしていた吹はおもむろに起き上がり何か言った。
「…う…、」
首を傾げる様子を見て、吹は自分の言葉が彼女に届いていないことを悟る。
「SS‐Oだと長いからオウって呼ぶよ」
「了解しました」
吹は数十年あの液体の中で分裂と融合を繰り返し、つい最近吹として形を保てるようになったと言う。これが、本部の探していたモノだろうか。
「SS‐O。本部へ。応答してくださ…!」
本部への報告を吹は邪魔してきた。口をふさぎ頭が痛くなる笑顔で首を横に振る。
「オウ。だめだよ。僕のことは内密に」
従うという選択肢しか与えられない、吸い込まれそうになる彼の瞳に、心臓が揺らぐ。
「SS‐O型。なにか見つかったか?」
「…厳重な扉を。しかし中には何もありませんでした」
「ふむ…そやつも駄目だったか。望みをかけたのがそもそも間違いか」
何やら無線の向こうで話し合っている。その話し声を聞いて急激に、私はすべての記憶を思い出さねばならない、と思った。焦りに似た感覚が身体を駆け巡る。
「聞こえるかSS‐O型。引き続き地下の探索を。良いな」
「承知しました」
隣で穏やかな笑みを浮かべる吹に触れてみる。
『検知デキマセン』
頭の中で鳴り響く声は以前と変わらない。そう、変わらない。
「吹。貴方は、生きていないのですか」
「僕は生きていて死んでいる。死んでいて生きている。君と同じさ」
SSは宇宙に来てから開発し始められたのでは無かっただろうか。なのに彼は数十年ここにいたと言った。戦争が終わったのはたったの10年足らず前だ。戦争の最中も彼はここに居たと言う。
「君と同じであって、少し違う」
残像が頭の中で踊りだした。覚えているような、初めて見るような映像ばかりが早送りのように映っては消えた。
「いいかい。君は思い出さなきゃいけない。君が君で無くなる前のことを」
「この頭痛は、思い出そうとしているからですか?」
「さぁ。分からない。だけど、思い出してくれなきゃ…」
ふと表情を暗くしたかと思えば、次の瞬間壁に叩きつけられていた。声にならない叫びと、何故か取り去られなかった痛みが襲ってきた。
「いくら僕の可愛い………でも、殺しちゃうかもね」
その言葉を最後に聞き、自分の意識が遠のくに任せた。
・next story・
「SS‐Oと呼ばれています」
それは名前じゃないね。とどこか楽しそうに吹は笑った。
「以前の名は忘れました」
「僕は知ってるよ。君の名前」
「ではなぜ私の名を聞いたのですか」
「覚えてくれていたら、嬉しいと思ったからだよ」
しばらく寝転がり話をしていた吹はおもむろに起き上がり何か言った。
「…う…、」
首を傾げる様子を見て、吹は自分の言葉が彼女に届いていないことを悟る。
「SS‐Oだと長いからオウって呼ぶよ」
「了解しました」
吹は数十年あの液体の中で分裂と融合を繰り返し、つい最近吹として形を保てるようになったと言う。これが、本部の探していたモノだろうか。
「SS‐O。本部へ。応答してくださ…!」
本部への報告を吹は邪魔してきた。口をふさぎ頭が痛くなる笑顔で首を横に振る。
「オウ。だめだよ。僕のことは内密に」
従うという選択肢しか与えられない、吸い込まれそうになる彼の瞳に、心臓が揺らぐ。
「SS‐O型。なにか見つかったか?」
「…厳重な扉を。しかし中には何もありませんでした」
「ふむ…そやつも駄目だったか。望みをかけたのがそもそも間違いか」
何やら無線の向こうで話し合っている。その話し声を聞いて急激に、私はすべての記憶を思い出さねばならない、と思った。焦りに似た感覚が身体を駆け巡る。
「聞こえるかSS‐O型。引き続き地下の探索を。良いな」
「承知しました」
隣で穏やかな笑みを浮かべる吹に触れてみる。
『検知デキマセン』
頭の中で鳴り響く声は以前と変わらない。そう、変わらない。
「吹。貴方は、生きていないのですか」
「僕は生きていて死んでいる。死んでいて生きている。君と同じさ」
SSは宇宙に来てから開発し始められたのでは無かっただろうか。なのに彼は数十年ここにいたと言った。戦争が終わったのはたったの10年足らず前だ。戦争の最中も彼はここに居たと言う。
「君と同じであって、少し違う」
残像が頭の中で踊りだした。覚えているような、初めて見るような映像ばかりが早送りのように映っては消えた。
「いいかい。君は思い出さなきゃいけない。君が君で無くなる前のことを」
「この頭痛は、思い出そうとしているからですか?」
「さぁ。分からない。だけど、思い出してくれなきゃ…」
ふと表情を暗くしたかと思えば、次の瞬間壁に叩きつけられていた。声にならない叫びと、何故か取り去られなかった痛みが襲ってきた。
「いくら僕の可愛い………でも、殺しちゃうかもね」
その言葉を最後に聞き、自分の意識が遠のくに任せた。
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