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最終章

対面

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 朝日を聖獣二人に連れて行かれてしまい、行き先は守護者の森だという事と、同行許可が下りなかった為に後をつけるわけにもいかず、ただその後ろ姿を見送った一同。
 その後の話し合いは、今後をどうするかと言う内容だった。

 と言うのも、本来ならもうオーランドに向かっているはずの時間で、先行したゼノ達が魔物と戦っているところに合流する予定だった。

「完全な合流は難しくなったから、半分は先に向かい、もう半分は朝日君を待ってから向かうしかないか」

「…予想通りなら魔崩れはもう一度起こります。もし、朝日君を送り出したことでそれが回避できたとしたら今はより危険な状況です」

「…セシル、それはどういう事だ」

 セシルは下唇を噛む。
 今こそ苦渋の決断をしなければならないかも知れない状況なのだと彼は理解していた。

「…予想通り魔崩れが起こったのなら。それは聖獣様のお子様の死を意味します」

「それが回避できるのなら寧ろ良いではないか」

「エルダー。お前がもし、次の作戦を潰されたら何をする」

「俺なら、そうだな。諦めてその次の作戦を決行するな」

「そういう事だ」

 訳がわからないとブリっ子をするような仕草で首を傾げるエルダー。勿論全く可愛くもなんともないし、寧ろ苛立ちを覚える。

「多分、もう奴らには作戦はない」

「作戦がない?」

「どういう訳だかは分からないが、時期的に考えれば多分アルメニアであった爆発。アレはオーランド以外で多発する予定だったのだと思う。本当なら主要都市はもう陥落していた。流石にそれは私も予測していなかっしかし、それを潰され、更に聖獣様達にも手が出せなくなった」

「何んでそんなことが分かるんだ?」

 セシルは少し面倒そうにエルダーを見て、数秒見つめ合う。エルダーはセシルに対してニコニコと笑い掛けるだけで、セシルはわざとらしいため息をついた。

「まず、寒村部で大爆発が起きたが、畑や家畜、家屋諸共吹っ飛ばせる爆弾を持っていて、魔崩れ作戦を上手くあしらわれた。お前ならどうする?当然少しでも多くの犠牲を出すために主要都市に向かうだろう?」

「そう言うことか!じゃあなんで寒村部だったんだ?」

「その爆弾があらかじめ仕掛けられていた物だった、と言う可能性が高いと言うことです。そして恐らく、同じ物が主要部にも仕掛けられていたが、偶々奴らに何かがありそれが食い止められた」

 エルダー達は小さく身震いをする。実際に爆発は起こってしまった。もしセシルの言うその“何か”が無く、本当にカバロなどの主要都市て大事故が起こっていたとしたら…。
 考えるだけでも恐ろしい。
 セシルが予測すら出来ていなかった時点でこれを未然に防ぐことは到底不可能だっただろう。

 そして、相手の絶対的な自信のあった作戦が崩れた今。奴らに残された手は殆どない筈だ。
 
「…当然、奥の手は持ってるだろうな」

「何で、オーランド以外なんだ?」

 なるほど、と一応一同が納得する。
 ただ、やはりエルダーは馬鹿であるが、馬鹿は馬鹿なりに良く状況を見ているし、話も聞いているのだと感心する。

「オーランドがフィナーレに飾るのに相応しい場所で彼らが最も憎んでいる相手がいる場所だから」

「セシル」

「…何でしょうか、団長」

「朝日は必ずオーランドに来る。聖獣様が一緒なのだから心配はいらないし、聖獣様も朝日がいる限り、まず大丈夫だろう。此処は任せるんだ」

 流暢に話すユリウスにセシルはクスリと小さく笑った。結局、この頑固者も朝日にはお手上げだったようだ。

「そうですね。我々はゼノと合流し、オーランドの爆弾物の捜索と撤去を行い、次何が起こっても大丈夫なように万全を備えましょうか」

 コクリと頷く一同。
 そして、目的地オーランドに向かうべく、それぞれ馬車に乗り込むのであった。











『…朝日、後ろへ』

「うん?」

 朝日とアイルを隠す様に立つフィン。二人から見えるのは対峙している相手の足元だけ。ゆっくりと草を踏みしめる音が二つ。それが少しずつ近づいてくるのが分かった。
 フィンは警戒と威嚇で低い唸り声をあげる。アイルがフィンに釣られて雄叫びを上げようとするので朝日はアイルを宥めた。

『…何者だ』

「これはこれは聖獣様、お子様との楽しいお散歩は終わりましたか?」

『ふん、道端の砂利如きが何言っても我には何も聞こえん』

「フッ、なるほど」

 小さく笑う男。
 フィンはまるで相手にしていないとばかりに切り捨てるが、それはそれで良いともう一人いた男に何やら指示を出す。

『グッ…貴様、我に何をした…!』

「フィン!!!」

「聖獣様に全く相手にして貰えないのですから、相手して貰えるように、と思いまして」

 フィンの身体に巻きつく鎖の様な物。
 その鎖の様なものに朝日は見覚えがあった。
 その忌々しい記憶に強く握りしめた拳は静かに震えている。

「ミュリアルにこの鎖をつけたのはお前だったのか…!!」

『朝日!落ち着きなさい…』

「ミュリアル…あぁ、マナジウムの養分にしていた妖精もどきの事か。アイツは意外に役に立ったよ」

 朝日は今まで見せたことのないほどの怒りの感情を男に向ける。
 今までは美しくあった瞳がまるで屍人のように色をくすませている。それが妙に恐ろしくてフィンとアイルを黙らせてしまった。

「あぁ。貴方がトアック。ゼノさんに散々迷惑をかけて、今度はフィンとアイルに迷惑をかけて…」

「名前を知ってくれて楽しいよ。君は私が迷惑をかけたと言うが、人は迷惑をかけて生きていく生き物なのだよ。そして、私はそれ以上の苦しみを受けて来た」

 朝日から発せられる強い殺気はアイルを怯えさせ、フィンの後ろに隠れてしまうほどだったが、そんな朝日にも臆することなく、己を表現するトアック。
 彼が言う憎しみなど知らない。知りたいとも思わない。

「フィン。大丈夫だよ。こんなの直ぐに…ね?」

「なるほど。彼女の鎖は君が解いたのですね。お陰で最後の仕上げが大変でした」

「フィンが言ってた侵入者ってこの二人のこと?」

『そうだが、他にもいる』

「ん~、なるほど。これは困ったなぁ。せっかく面白くするために聖獣の子を操ろうとしたのだが…傷を負ったのは聖獣の方だったか…。いや、なら聖獣自ら子供と戦ってもらおうか。うん、それが良い。なぁ、ニューラス」

「えぇ。絶望感は一入かと」

 トアックに呼びかけられて何かを唱え始めるニューラス。何をしようとしているのかは分からないが、それがとてつも無く恐ろしいことな事だけはその雰囲気で伝わってくる。

「フィン。お願い、僕の後ろにいて」

『朝日。それはならない。私はお前を失っても正気を保てる自信がない」

「うん。でも、僕を信じて。ママ、お願い」

『…ママ、か』

 とても優しい顔をするフィンにアイルはよく分からずとも寄り添い、そして毛繕いをする。

「トアック。貴方の言う通り、人間が迷惑をかけて生きていく生き物だと言うのは同意するよ。僕もそう思う。でも、迷惑ってのは沢山種類があると思うんだ。そんな沢山のある迷惑でも、結局のところ迷惑をかけてる、かけられてるってお互いが思わなかったら成立しない物と思うんだ」

「君は何か勘違いをしているようだ。迷惑は迷惑だ。それ以上でもそれ以下でもない」

「…じゃあ、トアック。貴方は彼のミスに目を瞑ったことは?ニューラスさん。貴方は彼にお願いされて迷惑だと思いますか」

「…トアックのミスなど……お、お前ら何をしている。今すぐに聖獣の子を殺せっ!」

「…私は一度も思ったことはありません」

「二人はお互いに迷惑だと思っていないから迷惑にはならないんだよ」

 朝日の言葉にすこしの迷いを見せながらニューラスと小さな動揺を見せるトアック。
 二人は納得してしまったのだ。朝日の言い分を。

「…トアック様、何故か呪具が使えません…!」

「…クッ、オーランドへ行くぞ、ニューラス」

「では、アレを…」

「…初めからそうすればよかったのだ」

 背を向ける二人に朝日は問いかけた。
 良く考えてみて下さい、と。


 





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