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第一章
調査
しおりを挟む少し席を外す、と言って馬車を降りたセシルが次に戻ってきた時に連れ立っていたのはユリウスだった。そうなる事は何となく予想をしていたが、思っていたよりもその登場が早く、心の準備がまだ終わっていなかった。
と言うのも、一般的には白日の騎士団と言うところは正義の団、と呼ばれていて貴族は勿論、この国で起こっている全ての事象について公正に調べ、真実を究明する団と知られている。
なので貴族達からは恐れられ、平民達からは慕われているのだ。
ただ、メイリーンは平民だが、立場的にはどちらかと言えば貴族よりで、呼ばれた理由もなんとなく今回の件なのだと予想がつく。
直接的ではないにしろ、一人の少年の犠牲でこの街は救われ、今現在その手柄はメイリーン自身の物になっている。
虚偽罪を問われて仕舞えば償うほかない。
ただ…。
「それで薬師殿、先程の話の続きを伺っても?」
「先程の話?何よそれ」
高位貴族のセシルに対してこの様な物言いが出来るのは彼女が持っているライセンスのお陰だ。
先の説明で平民の彼女が貴族より、と言ったのはその為である。
エターナルライセンスはその道の最も優秀な人材ただ一人に贈られる最優秀の称号。それを持っているだけで貴族や王家に何かをやらかしたとて殆どの罰を無罪放免とされる。それだけこの世界に必要な人材という証。その代わり貴族や王家からの要請はよほどな事がない限り断る事も出来ないのだが。
当然、持っている人も本当に少ない。彼女がそれだけ価値のある人間だという事だけは確かだ。
だから、虚偽罪に関しても罪には問われない。が、名には傷が付くだろう。
「先程話していたではありませんか。“薬を受け取りにくる”と」
「…盗み聞きは…もう良いわ」
メイリーンがそこまで言ってやめたのは彼がそう発言したのは本当に聞いていなかったのではなく、聞かなかった事にする、という意味だったのだと理解したからだ。
彼に対する一切の干渉を許さない。
だから、あの話しは初めからしてなかった、そうしたい、いやそうしろ、という脅しなのだ。
そして彼らは彼らの仕事の為に動いているのではなく、完全にプライベートでの調査なのだと言う事も良く分かったのだ。
何故なら白騎士か動く時は不正がない様に必ず聴取を取る際に二人ないし三人の書記官を置いて一部始終を記録させる。それをしていないのならこれは正式な聴取ではない。
「確かに、彼を連れて行ったのはゼノで彼に明日、私の研究室に薬を取りに来ると言われているわ。でも彼をつけて行くことは辞めておいたほうがいい」
「私達が彼にやられると?」
「いいえ。セドリックにはあぁ言ったけど、彼を追うのが無理って事。彼は光魔法が得意で姿を隠す事が出来るの」
「…それで彼の居場所を誰も知らないのですね」
黙って聞いていたユリウスも“光魔法”という言葉には少しだけ反応を見せたが、相変わらず腕組みしたままその目は外の景色に向けられている。
「まぁ、隠す程の話では無いわ。一年前の…あれで彼の能力は知られている筈だから」
「…調査不足でした」
メイリーンは言葉を濁すと、ユリウスの様に視線を外へ向けた。
彼女がセドリックを研究室に置いていった理由はここにある。彼が震えていたのはセシルが恐ろしかったのではなく、背後に立たれたからだ。
一年前のあの出来事から彼は何人たりとも背後に立たれることを異様に嫌う様になった。それは信頼するメイリーンであってもだ。
そして何よりゼノの能力についても余り語りたくなかった。それはゼノの為でもあるが、あの一年前の出来事を彼に思い出させてしまうからだ。
そしてセシル達がその情報を得ることが出来なかったのはそう変なことでは無い。何故ならメイリーン同様、誰もその一年前の話をしたがらないからだ。
庶民達は勿論、情報屋ですら言葉を詰まらせる。それ程に凄惨で辛い出来事だった。
「薬師、クリスタルフロッグの生態調査は終わったのか」
「えぇ。ギルド職員から預かった素材から大体わね。細かい事は最も時間がかかるけど」
「何でも良い。情報をくれ」
初めて視線を合わせた二人は考えている事が同じだったのだと理解した。
クリスタルフロッグは冬の特に寒い時期に発生する魔物で今時期は余り姿を見せない。そんな魔物の発生した理由、その条件、普段の生息域、活動範囲はとても重要な情報となる。
彼女はそれらを調べる事は得意だが、その後の現場ではまるで役には立たないだろう。だから本当は冒険者達に依頼、と言う形で調査をお願いするつもりだったのだが、白騎士がしかも個人的に動くならこれほど好都合な手合いはいない。
「条件があるわ」
「全て呑む」
メイリーンは彼の即答を聞いて楽しそうに笑う。ギルド長であるギルバートが大切にしている彼に更に興味を持った。ゼノ、アイラ、ギルバートだけではなく、白日の騎士の団長、副団長までも動かすとは、と。
「いいわ。…じゃあ、条件だけど。情報は此処だけの話にして頂戴。まだ確定していない事ばかりで私の名で発表するわけに行かないわ。それから、これ以上ギルバートへ負担をかけるのは辞める事。朝日君を探さない事。ゼノと…二人っきりにしてあげて」
「…了解した」
ユリウスは一泊呼吸を置いて了承する。セシルも苦々しい表情だが、ゆっくりと頷いた。
「じゃあ、交渉成立って事で。早速だけど、クリスタルフロッグは冬の魔物、と言われているのは知っているわね。彼らの体表はスライムと似た粘着性のある膜に覆われていて、その膜は外の外気温に何の負荷も感じないようなの。だから寒さだけではなく暑さにも強い。よって冬だからから発生する訳でない」
「クリスタルフロッグは確か打撃も無効化するそうですね。それがその体表のせいだと」
「そういう事になるわね。元々この辺では出ない魔物だから情報が少なく、魔法しか効かないと言われていたけど正確にはスライムと同じく核を一撃でつけば、スライム同様倒せるわ。まあ、その核自体は体内だからスライムの様にはいかないのだけども」
「なるほど…」
さすが、エターナルライセンスの保持者。その道のプロというだけのことはある。たった1日でこれほどまで調べられるのか、と思わず感心してしまう。
「だから、クリスタルフロッグが寒い地域へ移動している、という線も消えたわ。移動過程でここへ辿り着いたわけでは無い。そう仮定するとクリスタルフロッグは冬の魔物と思われていた理由。彼らは本来ならこの時期冬眠をしているのだと思うの」
「冬眠?」
「えぇ。夏の目撃例がほぼない。なら、そう考える方が自然でしょ?だから、私は彼らの胃の内容物を調べる事にした。彼らは肉食で胃からは主に昆虫や獣の肉が出てきたのだけど。ひとつ不自然なものがあったの」
「と言うと?」
「蛹海老」
「…」
「それも調理された、ね」
「なるほど」
蛹海老を食べる、と言う事だけなら肉食のクリスタルフロッグでもあり得る事だが、それが調理されたものとなると話しは変わる。誰かが森の中で調理していた場合を除けば、考えられるのはただひとつ。
クリスタルフロッグは誰かに飼われていて、餌として与えられたのか、又は何らかのキッカケで口にした、という事。
そう、人的被害の可能性が出てきたのだ。
「可能性の話になるのだけれど…良いかしら」
「構わない。頼む」
「じゃあ…言わせてもらうわね。私のこの仮設通りならクリスタルフロッグの動きは可笑しいの。そして、そんな魔物達の異常な行動…一年前のこととどうしても重なるの」
「その可能性も追う事にしよう」
「えぇ。…杞憂なら良いのだけど」
「…また追加情報があれば知らせて欲しい」
「分かったわ」
それからはメイリーンを再び研究室に送り届けるまで三人は話す事なく、ユリウスとメイリーンは窓の外をじっと眺めていて、セシルは本を片手していた。
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