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商会開業

とある商人のお仕事

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ーーあの話し聞いたか!
ーーあぁ、最近はその話しばっかりだよな
ーーでも、信じられねぇよな…

 仕入れの為に王都の外に出ていて、久しぶりに帰って来た街で聞こえてくるのはこの噂話しばかり。

「ふー…帰ってきたな…」

 近所の商店街に店を出している仲の良い3人の男達が道端でおばさま達顔負けに噂話に花を咲かせている。
 取引先で顔見知りである彼らのいつも通りの光景に安堵する。

ーーそうか?俺はこれまでの善政は宰相様のお陰だって聞いたぜ?
ーー宰相様って確か…オブ…オブジェ…
ーーオブシェンド家な
ーーそうそう、それそれ!
ーーオブシェンドか…あそこにはニコル様がいらっしゃるからな
ーーあぁ。ニコル様が王になってくれたらなぁ

 聞こえくる噂は今回のダンジョンの異常は王の仕業だという事とこれまでの善政は宰相様のお陰だという事の二つ。
 中には何がどうやってダンジョンが荒れたのか、などの詳しい話しがないので信じていない人もいるが、宰相であるニコル様という方は国民からなかなかの支持を得ているようでその論議は右往左往している。

「なぁ、その話し詳しく聞いても良いか?」

「おう!久しぶりだな。仕入れの方はどうだった!」

「そこそこだな。それよりさっきの話だが…」

「あぁ、実はな。ダンジョン都市のソーロが壊滅的な被害に遭ったらしいんだが、それをやったのは王らしい」

「らしい、って事はただの噂話話しか」

 卸先でも彼らに買ってきたお土産を渡しながら噂の内容を詳しく聞いてみる。

「それがよ?善政だったのはやっぱりニコル様のお陰だって話しだ」

「まぁ、そうだろうな」

 ニコル様はとても有名な神官の家柄で優秀な神官様だった。
 いつも庶民に寄り添った考え方をしてくれると庶民にもとても人気のあるお方だったが、ある日とある高位貴族の貴人に気に入られ、強く求められた事から婿に入られた。
 彼は貴人の婿に入られる際もお相手が国政にも関わっている高位貴族であることから婿入り後に国政に関われるように交渉し、国民のためになる政策を数々実行まで持って行き、その後優秀さを買われて宰相として迎えられた。

 だから未だに彼を慕う国民は多い。

「お前さん、これから王宮にいくのか?」

「あぁ、いくつか頼まれてる物があるからな。折角の儲け話しだが、余計なこと言ったら首が飛びかねないからな。情報収集してこうと思ってな」

「それが良い。今、王宮内は相当ピリピリしているらしいからな」 

「助かったよ。また何かあったら宜しくな」

「おう!またお土産頼むよ!」

「考えておく!」

 ふむ。これはご報告の時に褒めてもらえるだろう。
 と言うのも、俺はニコル様の指示で普段は商人して街に溶け込みつつ、諜報活動や情報収集を行なっている。
 ニコル様は上司としてもとても良い方なのだ。

 王宮を見つめながら馬車を走らせる。

 実は王都の外に出ていたのはニコル様の指示で周辺の街に噂を流す為だった。王の非道な行いとニコル様がどれだけ素晴らしいお方なのかを語ってくる簡単な仕事。
 普段、ニコル様の素晴らしさを語ろうとするととても怒られるので、今回その枷が外れてついつい語り過ぎてしまった。

「毎度、ご苦労様でーす」

「ご苦労。…荷を改めるぞ」

「なんか、今ピリピリしてるらしいですね?」

「あぁ、外から帰ってきたばかりか?中では発言に気をつけろよ」

 顔馴染みの門番といつも通りの軽い雑談を交わす。
 業者用の裏口から城へと入り、いつも通り厨房や洗い場、使用人棟などを回って商品をお届けていく。

「ふー、そろそろ…」

「さっきニコルが報告書を持ってきたんだぞ!どう言うことだ!」

「モンスターハウスが消えたとしか…」

「あの状態がたった1日やそこらで解決する訳がないだろう!」

「私にも何が何だか…」

 各所への荷物の配達が終わって廊下を歩いていると、怒りの収まらない様子の王が副宰相であるエルヴィン・カモエラに人目を憚らず大きな声で怒鳴りつけている。

「報告書にはアレクシオスが使い込んだ支援金の収支報告まで載っていたんだぞ!」

「…如何やら宰相の“目”が近くにあったようです」

 エルヴィン・カモエラは出世欲が強く強欲で腹黒い男だ。王に怒鳴られながらもエルヴィンのその手は強く強く握られていた。





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