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商会開業

お客さん

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「すまんな、ユシテル。こっちには先約があるんだ」

「我々は半年も先に予約済みです」

「アークさん!フィオデナルドさん!」

「何よ!私は正当な報酬として…」

「それも分かってる。けど、その報酬はギルが取り付けたもの。俺らはそれより先に予約してたんだ。冒険者同士、順番は守るべきだろ?」

 ムスーと唇を尖らせる彼女は本当に可愛らしくて、本当に冒険者なのかと疑ってしまうほどだった。

「それでにゃにで揉めてたにゃ?」

「この子が依頼を出すっていうから乗ろう話してただけよ」

「依頼を、出す?、リザが?」

「あ、はい。実は『氷土』が欲しくて。でも、『氷土』の取れるダンジョンが危険で今は取りに行けないという事なので…」

「…アーク」

「あぁ、ある意味でチャンスだな」

「…?」

「リザ、その依頼俺らで受けるよ」

「何言ってるの!?アンタこそ順番守りなさいよね!私が先に受けるって言ってたんだから!」

 プリプリと頬を膨らませて怒るユシテルさんは本当に可愛らしい。この人が本当に強い冒険者なのかと疑ってしまうくらいに。

「いや、まだレイが渋ってただろ?」

「ゔぅ…。ま、また…レイのせいで…」

 二組ともそんなに依頼を受けたかったのだろうか。今は『モンスターハウス』とかいうのがあって危険だと分かっているだろし、良い条件を付けるって言ったけど何を付けるかなんて全く知らないはずなのに。

「それに依頼の『氷土』がある氷河ダンジョンは【烈火の姫】には少し相性の悪い場所のはずですよ?」

「むぐぐぅ…レイの…レイの…」

「あのー?依頼者さん?依頼の内容って言うのは『氷土』を取ってくる事なのかしら?」

 後ろで見ていた耳先がとんがったアークさんとはまた違ったプラチナブロンドの美しい女性が片手を顔の高さまで上げてお上品に質問をする。

「あ、いえ…。それもあるんですが…そのもっと面倒と言いますか…其方が優先と言いますか…」

「あら、詳しくお伺いしても?」

「…そ、その…ダンジョン攻略をお願いしたくて…」

「まぁ!それならかなりのお時間を頂く事になりますわね?」

 彼女の問いにアークさん達はピクリと反応して少し渋い顔をする。

「仰る通り確かに、私たちのパーティーは水属性のダンジョンとは相性が悪いですが、その辺は私や弟でカバーできると思いますし、アーク達は元々遠征はしてないですわよね?」

「確かに遠征はしてないが、護衛依頼で外には出ている」

「でも、それはランクアップの条件の為で1、2回程度ですわよね?今回は攻略ですのよ?ソーロまでの移動もありますし、軽く見積もっても二週間はかかると思うのですけども」

「「…」」

 あのアークさんとフィオデナルドさんが言葉で押し負けているなんて!この人凄い…!

「お忙しい【金色の獅子】の皆様の代わりに今回は我々がお引き受けさせて頂いても?」

「セーナ、これはうちも受ける、邪魔しない」

「あら、物分かりがお悪い事ですわ……ん?“も”?ですの?」

「そう、うち“も”、その依頼受ける」

 シュナさん言葉にセーナさんは驚いた顔をする。

「それはレイドで臨むってことか?」

「今、アーク、ここ、長くは、離れられない。私達だけ、行く」

「僭越ながら、私もそれが一番よろしいかと存じ上げます。リザさんの依頼は一早いダンジョン攻略と『氷土』の入手です。いくら薬師様と錬金術師様がサポートされても『氷土』を手に入れるには相性の良い風属性の上位打撃が必要ですから」

 如何やら【烈火の姫】のパーティーでは攻略は出来ても『氷土』は取ってこれないらしい。

「仕方がないわね…。今回は二組のレイドで行きましょう」

「あー、それで依頼人。良い条件とはなんなんだ?」

「あ、はい!報酬は勿論なのですが、遠征に必要な費用や装備、必需品は全て私が持ちます」

「はぁ!?遠征費全て!?マジで言ってんのか!?」

「は、はい…報酬は…」

「報酬なんていらねぇよ。依頼っつてもダンジョン攻略だろ?遠征費が全額出るってんなら、お前は依頼人じゃなくてただのパトロンだ」

「貰っておけば良いのに、レイは変なところ真面目なんだから…」

「まぁ、その代わり依頼品の『氷土』以外は俺らの取り分になるけどな」

「ちゃっかりしてるわ」

 パトロン。なるほど…。
 冒険者にとってダンジョン攻略は依頼で受けるものではなくてロマンや夢、のようなもの。依頼はその費用を稼ぐ為の手段に過ぎない。勿論、単純にそれだけの人もいるけど、高ランク冒険者になればなるほど、求めるのは名誉と名声なのだろう。
 だから、それを支援する人は総じてパトロンと呼ぶのだろう。







 
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