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商会開業

アイス

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「これが『氷土』ですか!」

「余り量はありませんが、リザ様のご自由にお使いください」

 ルーペリオさんの表情はいつも通りだが、ほんのり不安を含んだ微笑み。
 今でこれだけ期待していない様子だったら、ルーペリオさんはこの後感動して泣くのではないだろうか、と思ってしまう。

 『氷土』は土だと言うから茶色い物を想像していたが、見た目はガラスのカケラのような透明だったり白かったりキラキラした感じ。
 触ると土、と言うよりは砂のようにサラサラとしていて、それでいて本当の氷のようにとても冷たい。

「この土で『雪の花』と言う湯花に似た花が育つのです。湯花よりも更に高価な花なので、全女性の憧れですね」

 確かに実際にこの『氷土』で植物が育つのだから、これを飲み物に入れるなんて誰も考えないだろう。
 私だって考えない。
 取り敢えず『氷土』の説明をしてくれたルーペリオさんにニッコリと微笑みを返して置く。

「では、作ります」

 これがうまく行ったら、ルーペリオさんが雇ってくれた誰かに任せてもいいかもしれない。
 今はあの雇った五人にはカップラーメン作りに専念して貰っている。いずれはもっと人も増えるし、食品関係は全て誰かに任せてしまおうと思う。

「今日はバニラ味を作ります」

「バニラですか。お菓子でも使った事があります」

 お菓子らしいスパイスが入っているからか、少し安心したような表情を見せるルーペリオさん。

 取り敢えずは基本のバニラでいい印象をつけて置くのが良いだろう。こんな機会かある事を見越して、バニラビーンズは以前見かけた時に買っていた。

「種取りは私が」

「お願いします」

 流石使った事があると言うだけあって、手慣れている様子。
 私は小鍋に牛乳を入れて弱火で温める。火加減はかなり注意しなければならない。決して沸騰はさせないようにごくごく弱火。
 ボールに砂糖と卵を良く解いておくのも忘れずに。この世界には泡立て器(あったのは茶筅のような物)は無いようだったので、これもまたエルフィン君にお願いして作ってもらった。(かなり喜んでいた)
 ついでに茶漉しや保存用のガラスのタッパーなども作ってもらった。(その他にもこの際だからとフライ返しや計量カップ、ピーラーなどの調理器具も…)

 よく混ぜておいた卵液を火からおろした牛乳に混ぜて、よく混ぜ合わせたら茶漉しで濾す。

「宜しければ、其方も私に」

「お願いします」

 次に生クリームを七割程度まで泡立てる。初めて使ったはずなのに既に泡立て器を使いこなしているルーペリオさんには誰もかなわないだろう。
 七割と言えども何気に泡立て器でやるのは腕がやられるのでとても助かる。

「これを混ぜ合わせます」

「ここまではとても単純な作業ですね」

 私がいつあの『氷土』を使うのか、とルーペリオさんは警戒しながら観察しているのだろう。そんな視線の中では『氷土』に手を伸ばしづらい。
 私は恐る恐る空いているボールに「氷土」と塩を入れる。
 冷凍庫があればそのまま冷やし固めれば良いけれど、現状はそんな素晴らしいものはないから、保存は難しい。
 アイスが食べたくなったら一回ずつ作るしかないのが現状だ。

「それをどうするのですか?」

「こうします」

 私は『氷土』と塩が入ったボールに鍋ごと乗せてスプーンでかき混ぜていく。

「…ただ混ぜるだけですか?」

「はい。冷やしたいだけなので」

 ゆっくりとでも、確実に重たくなっていくスプーンの感触に完成が近づいていることを実感する。

「か、固まってきてますね…?」

「リザさん、確かさっき卵は生でしたが…」

「あれ、生卵はダメでしたか…?」

「たまにお腹を下す人がいるので…」

 そうか、衛生観念がここと地球では違うもんね。エルフィン君が言ってくれなかったらそのまま食べてしまうところだった。

「あたるかどうかは運でしかありませんが…」

 ここまで来たのに失敗か…。

「大丈夫です」

「「え?」」

「何の問題もありません」

「「…」」

「リザ様、そのままお続け下さい」

「は、はい…」

 お腹を下してでも甘い物が食べたいのか…。恐ろしやルーペリオさん。

 私は言われるがままにひたすら混ぜ続ける。氷は溶けないし、砂つぶのようにサラサラしているからガタガタせず、とても混ぜやすい。

「完成です」

 私は取り敢えずルーペリオさんの分だけを器に盛り付けて渡してみる。

「…本当にリザ様は素晴らしい見識をお持ちですね」

 予想通りルーペリオさんは涙を流しながら(そう見えるだけ)アイスに酔いしれていた。








 





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