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建国祭
関係
しおりを挟む「それにしてもこんなに上手く回るなんてお前を含めても誰も思ってなかっただろな」
「リザさんの事を言ってるのですか?」
部屋を出て直ぐ、部屋の前で待っていた私にアークはそう問いかけた。
「あぁ、Aランクパーティーの何処かがリザの正体に気付くように敢えて彼女をギルドの受付に立たせるなんて、流石の俺でも思いつても実行なんてしないよ」
「…まぁ、そうでしょうね」
「彼らの事も想定内だったのか?」
「いえ。初めに気付くのは【常闇】辺りだとは思ってました。貴方にとっては彼らで良かったのでは?」
「そうだな。彼らはリザに恩があるし、若くて扱いやすい」
「…」
クククッ、と楽しそうにアークが笑う一方で、嫌な所を突かれて私は思わず表情に出してしまう。
「そう、怒るな。そうでもしないとフローネを守ることが出来ないのは俺も分かってる」
「…」
「嫌な役回りばかりさせてすまないな」
珍しくしおらしいことを言うアークを無視するように歩く。
こんな事を言っているが、顔は笑っているに違いない。
「それにしても彼らが協力的になるかは殆ど賭けだろ?」
「そんな訳がありません」
「じゃあ、絶対に味方になると?」
「えぇ、もちろん」
その為に餌を大きくしたのだから。
魔法鞄の価値も分からないようなら初めからいらない。その価値が分かっても勝ち取る実力や忍耐力がないなら論外だし、そもそもリザさんの正体にも気付かない様な馬鹿なら近づく価値もない。
あれは私にとっては魔法鞄を手に入れる為の試験ではなく、リザさんを守るに値する者かを見極める為の審査だった。
「まぁ、その辺はお前に任せておけばいいか」
「えぇ。是非そうして下さい」
素気なく返すとアークは困ったようにルーペリオを見た。
「それよりもあれは何だったのですか?王女と事前に打ち合わせでもされていたのですか?」
「いや、俺らの作戦を上手く使われたってところだ。王女にもそれなりの利益があっただろうからな」
「…やはり、あのお方は侮れませんな」
綺麗に整えられた宿屋の一室に入り、窓辺から街の様子を伺いながらアークは楽しげに笑う。
「これで少しはマシになるだろうか」
「…関税の件と税率の件でしょうか?輸出の妨害行為の件もありますし……それとも、冒険者の…」
「全部だな」
近年、フローネではダンジョンからあふれた逸れの魔物達による被害が増え続けている。
当然、領主として様々な対策や調査を講じたが年々その数は増える一方減る事はなかった。
そんな折に市民も使うような街道でワイバーンが出た。
幸い、同行していたAランクパーティー【紅の空】のお陰で怪我人は出なかったが、街道にまで進出してきているのは、領主としてはかなり頭の痛い話しだった。
その混乱に乗じて王国側が様々な言い掛かりを付けては醜い嫌がらせを繰り返している。
例えば、関税。
フローネの収入源はダンジョン産業と観光業が主な主力となっている。その為、食品や生活必需品などに関してはほとんどがん他領からの輸入を頼っているのだが、王国が定めた関税率のせいで年々輸入金額が上がり、反対に輸出金額が下がっている。
また昔の過ちを繰り返す様にダンジョン攻略が進まないからと言う理由で制限を設けてきたのだ。
他にも税率。
領主には国民より徴収する税率を決める権限がある。だが、フローネのようなダンジョン都市では(小作人が少ない)経済を回す為にも税を上げ過ぎることは出来ない。
かと言って、人々が安全で住みやすい街にする為には警備や公共機関の整備などは必須。低所得者にはそれらの仕事を与えるのも領主の仕事だ。
要はバランスが大切なのだが、近年は魔物の被害に見せかけて、街道の柵や道、橋や関所などを荒らされる被害が出ている。
こうした余計な設備費用が近年は増え続けているのだ。
お陰で、ただでさえ辺境のフローネで魔物の被害が増えていると言う噂が立ち商人や攻略に来たがる冒険者が年々減っている。
「…ルーペリオ。例の件の調査はどうなってる」
「…報告によりますと、確かにここ2ヶ月ほどではありますが魔物の被害が少し減少傾向にあります。特に森林ダンジョン周辺の被害報告が著しく減っているのは間違いありません」
「…もしも仮定通りなら、ダンジョン攻略が進まない事と『魔物溢れ』は繋がっているということだな…」
「もしもそうなら、この件もリザ様のお陰ですね」
「本当に困ったことだ」
「…有難い、ではなくてですか?」
「有難いよ。勿論…」
「…?」
「…父さん。リザさんの価値がさらに上がったって事だよ」
ニコリと笑う父の姿に私は自分と同じことを考えていると分かり目を閉じた。
「それなら尚更有難いではありませんか。二人の人間を守るよりもリザ様だけで済むのですから」
「全く、この親子は…」
頭を抱えるアークがこの中では一番まともな人間かもしれない。
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