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異世界
帰還の知らせ
しおりを挟む「ジンクスさん、終わりまし…わぁ!」
「お疲れ様」
ジンクスさんが待つ執務室に入って直ぐに小さな塊が飛びかかってくる。いつも通り愛くるしい表情で私の疲れを労ってくれている。
「随分、物分かりのいい猫だな」
「あはは…大人しいですよね…」
この黒猫がキャスパリーグだなんて口が裂けても言えない。
ノアを連れ帰ってから数日が経った。初めの数日は宿の部屋に置いて行っていたのだが、置いて行くたびにドアの前で本当に悲しそうな表情をするのでつい負けてしまったのだ。
だが、いざギルドに来て見ると職員に溶け込むのに猫を肩に乗せたままなのは流石におかしいとジンクスさんに言われ、執務室で預かられていたのだった。
「それで如何だ?」
「冒険者の方々ですか?」
「あぁ、アーク達も明日には帰ってくるからな。そろそろ絞った方がいいと思ってな」
「皆さん帰ってくるんですね!」
売る人と売らない人を見極める試験を行うという事は私自身も納得していた。
そうすれば横暴な人や道徳感のない人などを排除していけると思ったからだ。ただ、いざ始めてみたらとても無駄な事だったのだと分かった。
Aランクの冒険者になる、と言うのはとても過酷で危険な仕事をやり抜けて来たという事。だからか、舐められないためだったり、危機管理や上級冒険者としてのプライドから言葉使いや態度が多少荒くなっていくだけであって決して彼らが悪い人達ではないという事が分かった。
それと同時にそれはそれだけの経験を積んてきた結果が彼らをそうさせただけで他の冒険者がそうではないと言うこともこの数日で理解した。
勿論例外はあるが、Aランクの冒険者とそれ以外ではやはり雲泥の差がある。
それは態度然り、風格然り。
「それでどうなんだ?」
「フィオデナルドさんに聞いていた通り今来ているAランクの皆さんはいいと思います。私が見るまでもなかったですね」
「まぁ、そうか。Aランクは実力だけでなれるものじゃない。人格あってのものだからな。兄さんも相当苦労してるみたいだしな」
彼らの試験を行うに辺り、フィオデナルドさんからとある話しを聞かされていた。
冒険者ギルドでは一時期、上に上がるために新人冒険者を利用して人道的ではない方法でランクを上げた者達がいたそうだ。
新人達が死にかけながらも必死で攻略して手に入れた物を騙して奪ったり、力尽くで奪ったり、弱った魔物の横取り、終いには優秀なパーティーを罠に嵌めたり、魔物の擦りつけをしたり、囮にして逃げたり、闇討ちもあったのだとか。
それでも調べて分かったのはこれだけで、証明は出来なかったもののもっと酷い事もあったのだとか。
ただ、仕事の性質上新人冒険者が死ぬことなどよくある事だったし、冒険者達の間では暗黙の了解のごとくごく自然に行われていた。だから、その問題が明るみに出たのはずっとずっと後の事だった。
だが、その結果才能ある若い芽が左程実力も持たない悪知恵だけが良く働く者たちに早い段階で摘まれてしまったのだ。
今ではそれをその悪質さから《若葉狩り事件》と呼ばれ、それが原因で強い冒険者が育たず、ダンジョン攻略が進まなくなった、とも言われているそうだ。
フィオデナルドさんが売る人を選ぶように言ったのは中にはこう言う人もいるからだろう。
勿論今は完全ではないもののとある1人の冒険者の活躍によって全てが明るみになったらしい。
彼は新人ながらも類い稀なる才能を発揮して全ての障害を乗り越えて、今では英雄とまで呼ばれている人物。
それが世界に光をもたらした英雄ギルゲイン、その人である。
彼はマリーちゃんの曽祖父でフローネの商業ギルドのギルドマスターのジンクスと現冒険者ギルドのギルドマスターカルロスの祖父である。
文字通り、ギルゲインはダンジョン攻略を進めて発光石という鉱石を持ち帰り、夜でも自由に活動できる光をもたらした。だが、彼の功績はそれだけに止まらない。32年前のラスト攻略も彼の功績だし、ギルドの問題もギルゲインのお陰で全てが明るみに出た。
お陰でギルドの本部まで動く事となり、引退後は彼自身が冒険者ギルド、ギルド本部の長となり、冒険者ルールの作成や制定、ランクの選考基準や選考員の教育、買取価格や販売価格の設定までありとあらゆる制度を作り替え確立していった。
とにかくギルゲインは色んな意味で光をもたらした人物であり、童話にも出てくるような知らない人はいない有名人なんだとか。
マリーちゃん、凄い人のお孫さんだったんだね…。
「あ、ジンクスさん。一組…そのまだBランクなのですが、売ってもいいかと思っているパーティーがあります」
「そうか、まぁその辺は明日帰ってきたらフィオデナルドと相談してくれ」
「分かりました」
私はふと思い出しジンクスさんに問いかけた。
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