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異世界
王宮の罠(3)
しおりを挟むゴミでも見るような視線。
そんな目で見られた事なんてない。
地面に這いつくばって惨めだし、それにあんなにされたのに遠くからチラチラと視線を向けるだけで未だに誰も手を差し伸べてはくれない。
「ちょっと良いかしら。お化粧室はどこ?」
「…彼方の角を曲がった所です」
「ありがとう」
どうしてこんな事になっているのか全く分からない。思い当たる点すらない。
兎に角、こんな乱れた状態で会場にいる訳にはいかない。これでも私は【社交界の華】常に美しくなければならない。
多分、まだ私が【社交界の華】だと言う話しが回りきっていないのよ。だから気付いていないだけで、分かった途端に皆んな頭を下げにくるわ。
あの、ハウングとか言う令息も。
乱れた髪とドレスを直して、何度も何度も姿見で確認し直して、部屋を出る。
私は【社交界の華】だもの。少しの粗があってもいけない。常に完璧でなければならないの。
「どこに行ってたの!大人しくしてなさいと言ったはずよ!」
「お、お化粧室へ…行っておりました。少し乱れてしまったので…」
「い、良いから…謝りに行くわよ!」
「えっ!?」
謝る?一体誰に?
寧ろ私が謝ってほしいくらいなのに…。だってわざと転ばされたのよ?私を嘲笑ったのよ?助けてもくれなかったのよ?
私が誰に何を謝るの?
「…ハウマール伯爵様…大変申し訳ありませんでした。娘にはしっかりと言って聞かせますので、何卒…ご容赦くださいませ」
「…ふん。まぁ、まだ10代の若い娘だ。見逃してやらんこともないが…」
「な、何なりと…私に出来ることならば、何なりと…お申し付け下さい」
何故このデブ親父にお母様が謝っているのか…。
ん…?さっきのハウングとか言う令息…?もしかして、何か言い付けたの?私が被害者なのに…??
「お母様、私この人に…!」
「いいから、貴方も謝りなさい!!」
「お、お母様…?」
「早く!!!」
「も、申し訳ありませんでした…」
何でこの私が頭を下げなきゃならないの…?どうして…?私は【社交界の華】なのに…。
「まぁ、良いだろ。こんな出来の悪い娘なら中々良い縁談もないだろう。慈悲を賭けてやらんでもない…」
「…っ!」
ニヤニヤと嫌らしい目つきをデブ狸みたいなおっさん伯爵とやらに向けられる。ぞわぞわと鳥肌が立つ。
「そ、それは…娘を嫁にと言うことでしょうか…?」
「そうだ。嬉しかろう」
なるほど、ハウングとか言う令息は私に一目惚れしてたのか。だけど照れ屋であの場では何も言えなくて…。
仕方がないわね。
性格には難があるけど顔はまあまあだし、伯爵家なら家格的にも【社交界の華】である私に釣り合う。問題ないわ。
「父上…本気ですか?」
「私の慈悲深さに呆れておるのだろう。だが、この娘が結婚出来るとは思えん」
「しかし、こんな出来の悪く、評判も最悪、しかも持参金もない娘を我が家紋に迎えるなんて…」
「息子よ。分かってくれ…。5年前にロナに先立たれてどれだけ寂しい思いをしているか…。お前も立派になってそろそろと考えていたのだよ」
…何の話しをしてるのかしら。
伯爵夫人が亡くなって伯爵が寂しい?私の気持ちを分かってくれ?そろそろって何?
「今回は私も目を瞑りましょう…父上がそれでお幸せなら…」
「この子は若い頃のロナにそっくりだ」
「良かったな。慈悲深い父上のお陰で民草に混ざらずに済むのだ。感謝しろ」
まさか…まさかよね?
「お母様…?」
「伯爵様、本当にありがとうございます!!この御恩は一生忘れません!!」
何言ってるの?私が…【社交界の華】である私が、この狸と?
ありえない、何かの間違えよ…。
お母様は私があんないやらしそうな狸親父の元に行くのを止めてくれないの?
「どうして…?どうして私がこんな目に遭わないといけないの…?」
心の声が思わず漏れ出していた。
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