4 / 37
プロローグ〜sideユーリ
愛すべきお嬢様
しおりを挟むさて、本日初めのお仕事はお嬢様のお望み通り《ぷるん》なるものを作ることになりましたが、私には同時進行でやらなくてはならないことがあります。
それはミリアーナお嬢様にお誕生日の準備をしている事をバレずにお世話をすると言うお仕事です。
偶然にもぷるん作りのお陰でミリアーナお嬢様を隔離できたのは幸いです。
この仕事は何が何でも成功させなければなりません。
お嬢様のこう言ったお願いは姉の時からあったそうです。初めてのお願いで出来上がったのはフルーツを使った飴。ドライフルーツという隣国の名産品を飴で包んだお菓子だったそうです。
0歳児がそれを望んだと言う事も大変不思議ですが、一番疑問なのはドライフルーツを見た事も食べた事もないはずのお嬢様が何故その存在を知っていたのかと言う事でしょう。
ですが、そんなことはどうでも良いのです。私たちの使命はとにかくお嬢様のお願いを叶えること。そのためにこのお屋敷はどんどんと様変わりしました。
この厨房もその一つで実は此処はお嬢様専用だったりします。
これがなければ本日のお誕生日会を隠す事は大変難しかったでしょう。
「ミリアーナお嬢様。材料の準備が整いました」
「ん!」
「ミリアーナお嬢様。今日はお菓子作りだとお伺いしました。私もお手伝いさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「ん!」
彼は料理長のジェフさん。
もと宮廷料理人だったとても優秀なシェフで、なんでも王国のみならず世界中の料理大会で幾度となく優勝した経歴の持ち主だそうです。
勿論料理のセンスはピカイチですが、スイーツ関係にも明るく、ミリアーナお嬢様のお願いが食べ物関連だった時はいつもお世話になっております。
「ミル!」
「はい、お嬢様」
「こーれ」
「かしこまりました」
勿論ジャミール卿も同席です。
ジャミール卿はお嬢様がお眠りになられている間も部屋の外でお守りしているようで、いつ寝ているのか大変不思議です。
勿論眠そうにしているところなど見た事もありません。
今もとてもとても穏やかな優しい笑顔でお嬢様のコック服の裾を捲っております。
「しーふ、こーれ、コン!」
「はい、お嬢様」
「もっこね」
「はい」
「ユーリ、こーれ!」
「はい、お嬢様」
「ミル、しゃーちる」
「はい、お嬢様」
テキパキと指示を出していくミリアーナお嬢様の言う通りに作業はどんどん進んでいきます。これもいつも通りです。
時より考え事をしているようで宙を見上げることもあります。それがまた何と可愛らしいことか。
「ゆっ、ね」
「はい、ゆっくりですね」
「しゃーの、こーれ」
「濾すのですね」
「しーふ、こーれ」
「あ!前にやった蒸すやつですね!」
「ぷるんは意外に簡単な物なのですね」
「かんかん!おいち!」
ミリアーナお嬢様のほっぺの方がぷるん、ですと私達が思っているとも知らずにご自身のほっぺをくにくにと持ち上げるお嬢様。
勿論此方はうっとりです。
完成した物を一口。と行きたいところでしたが、今回は冷やさないといけないそうです。
氷は大変貴重な物です。
お嬢様もそれが分かっているようで、こういった時に少し申し訳無さそうにします。
しかし舐めてもらっちゃ困ります。何故なら此処はフォントリーナ伯爵家。優秀な人材が沢山集まる人材の宝庫。
そして伯爵家にいる者は誰一人としてミリアーナお嬢様お願いを叶えるためならば能力もお金も時間も惜しみません。
それは旦那様であろうと、奥様であろうと坊ちゃんであろうとです。
「あぁ、僕の愛しのミリー。僕の力が必要なのだね。勿論ミリーの為なら何でもするよ」
「ふぁーにーま!」
「はい。にーまです、僕のミリー。あぁ、なんて可愛いのだろう。僕のミリアーナは。目に入れても痛くないよ」
「にーま、ひーひーの!」
「今回は冷たいお菓子なんだね。とても楽しみだ」
難しく、魔力の消費も激しい氷魔法を難なくやって退けるファオルド様には全く頭が上がりません。
私は風と火属性の相性が良く、その派生の雷属性が使えるのですが、悲しい事に中々出番が有りません。
「しーふ、ちー…」
「塩ですね。…氷にかけるのですか?」
「ん!」
氷に塩。
どういう意図なのでしょうか。私のような凡人には皆目検討もつきません。
それより何より、“お”の発音が難しい様です。“お”が言えなくて悲しそうにするそんな姿も大変可愛らしい。
ミリアーナお嬢様の頑張る姿を目に焼き付けましょう。
そして何より、私の名前ユーリで良かった。呼びやすい名前で発音しやすい名前で本当に良かった!
「…ミリー。これは…素晴らしいよ。本当にミリーは、僕のミリアーナはこんなに可愛いのに天才だなんて!愛してるよ、ミリー」
「ファオルド様、一体どういう事なのでしょうか」
「そうだね!ユーリ達にも分かるんじゃないかな?僕が出した氷の魔力の流れを詠んでみて」
「……これは!」
「そう、効果が高まっているんだ」
「塩で…氷結の効果が高まる…。これは他の料理にもお菓子にも応用が…いえ、それだけではありません!」
興奮する大人達を他所にミリアーナお嬢様はぷるん観察に夢中です。
ぷるんを突いてみたり、揺らしてみたり。当然今までこの世になかったものなのですからお嬢様も見るのは初めてです。
どうしたらこの様な発想になるのか不思議でなりません。
でも、一つわかっている事もあります。そう、ミリアーナお嬢様は特別なお人だという事です。
「では、ミリアーナお嬢様。これはお夕食時に旦那様と奥様にも食べて頂きましょうね」
「ん!」
味見なんて滅相もない。
そんな事しなくても美味しいのは当然、必然なのです。なんだってこれは特別なミリアーナお嬢様がお作りになったぷるんなのですから。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい
小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。
エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。
しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。
――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。
安心してください、ハピエンです――
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
転生悪役令嬢の前途多難な没落計画
一花八華
恋愛
斬首、幽閉、没落endの悪役令嬢に転生しましたわ。
私、ヴィクトリア・アクヤック。金髪ドリルの碧眼美少女ですの。
攻略対象とヒロインには、関わりませんわ。恋愛でも逆ハーでもお好きになさって?
私は、執事攻略に勤しみますわ!!
っといいつつもなんだかんだでガッツリ攻略対象とヒロインに囲まれ、持ち前の暴走と妄想と、斜め上を行き過ぎるネジ曲がった思考回路で突き進む猪突猛進型ドリル系主人公の(読者様からの)突っ込み待ち(ラブ)コメディです。
※全話に挿絵が入る予定です。作者絵が苦手な方は、ご注意ください。ファンアートいただけると、泣いて喜びます。掲載させて下さい。お願いします。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる