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その言葉の意味

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「「…」」

「お前達こんな所で何をしている」

 廃坑を出て直ぐ、一番恐れていた事態が起こった。

「身分を表す物を」

「…ない」

「無いと。ならば、フードを取り顔を晒せ。二人共だ」

 全身白い正装に身を包んだ男とその後ろには見慣れた青い正装。

ーーーハズレを引いたようだ。

 今話しかけて来た男が近衛騎士団の者だと言うことは明らかで、深く被ったフードのせいで顔は見えないがその胸には勲章の数々。と言うことは彼が追手の指揮を取っている者だろう。

 それにこの声には聞き覚えがある。
 貴族のくせに下々の者にも礼儀のあって、それでいて貴族出身者しかいない近衛騎士団でも疎まれることなく、かなりの人望を集めていた珍しい男。
 ミゲル・ルダン。
 優れた剣術家であり、前述の通り人格者で、伯爵位を持ち、若くして近衛騎士団の副団長となったとても優秀な男。
 ジルべビュートが唯一話しが出来る奴だと認めていた男だ。

「…」

「それも出来ぬと言うのか?」

 こんな時に不謹慎だろうが、ジルべビュートはその青い正装を見て少し安心した。
 こんなことをしでかしておいておかしな話だが、彼らの元気な姿が見れて肩の力が抜ける。
 
「今、我々は罪人を追っている。失礼になるかも知れないが、命令には従ってもらおう」

「…」

 現実逃避をしても状況は変わらない。
 どうしたものか。フードを取れば当然即刻捕まり、即時死刑となるだろう。
 きっと部下達も気づいている。これがジルべビュートだと言うことは。だが、今となればもうただ祈るしか無い。違う人物であってくれ、と。
 
「フードを取れば良いのだな」

「あ、おい!」

 だが、此方の緊張感などはお構いなしに隙を突かれ、シャーロットにフードを剥ぎ取られる。

「…。お前もだ」

「日焼けはしたくはないのだがな」

「自らこんな所に来ておいて何を言っている」

 草木もない鉱山で日焼けの心配をするシャーロットに対しての反応としては当然だ。

「人違いのようだ。…二人は旅人だろうか。もし、お前らのような背格好の二人組を見かけたら王国の方に一報を入れてくれ」

「…見かけたらな」

「よろしく頼む」

 だが、予想していた反応とは全く違っていて、空いた口が塞がらない。

「な、何故…」

「お前は同行者が何者であるのかを直ぐに忘れるようだな」

「…そうだったな」

 確かに感じる違和感を確認するために自分の顔を触るジルべビュート。
 元は短く刈りそろえた黒髪だった筈が、今は貴族の男のように長く、手入れの行き届いたようなしなやかで輝くような金髪が優しく彼の頬をくすぐる。瞳もその辺に良くいるような黒に近い茶色だったのが、珍しい金眼になっている。

 全くの別人になった事には驚かなかったが、ふとその容姿像に当てはまる人物が思い浮かぶ。

「…」

「…パッと思いついたのがそれだっただけだ」

 特に何も言っていないのに言い訳のような言葉を吐きながらシャーロットはジルべビュートから目を逸らした。

















 

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