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呪い

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「いい加減何か言ったらどうだ」

「…それが其方の望みか」

「何度も言わせるな。私はお前に何も望まん」

「…」

 魔女は頑なにその言葉しか話さない。

「お前は何故人々を苦しめる」

「…」

「何故お前はこの国を…」

「…」

「もう1ヶ月だぞ。このまま何も言わないつもりか?」

「…」

「あんな事をされて何も思わないのか?」

「…」

 鞭で打たれようが、殴られようが、鎖で吊られようが、口に虫を押し込まれようが、水責めにあおうが、どんな拷問にも何も反応せず。
 時折言葉を発したかと思えば、同じことばかり。

 貴族家の推薦状を持って入ってくる奴の中には時折アイツらのような馬鹿がいる。
 ああ言う輩は家に置いておくと問題を起こして家紋を傷つけるので厄介払いに出されて、色んなところをたらい回しにされ、最終的に辿り着くのが兵士団。
 ダメ貴族の肥溜めだ。

「今後は騎士団の…私の部下を配置し、このような事はないようにする」

「…」

「アイツらは流石にお楽しみが過ぎた」

「そうか」

 初めて会話のような言葉が返ってきて、驚きと同時に疑問が湧く。

 だが、それはその時だけでその後はただひたすらに同じ言葉を繰り返すだけだった。





ーー
ーーー
ーーーー
ーーーーー


「今日の分だ」

「…願いはないか」
 
 食事は2日一回。カビ臭いパンと具も味もないスープが少し。拷問の跡は化膿し膿が溜まりとても臭いし、髪には蛆が湧いてきている。
 不快だろうに文句を言う事もなく、勿論拷問にも声一つ上げる事はない。

 魔女はただひたすらに『それが其方の願いか…』と言い続けるだけ。

「王はいつまでこうしているつもりなんだろうな」
「あぁ、とっとと処刑して欲しいものだ」
「いい加減この鬱々とした場所ともおさらばしたい」

「交代の時間だ」

「やっと時間か」
「アベルはどうした?」

「トイレだとよ」

「アイツはいつもいつも…」
「後で何か奢らせろよ」

「考えておく」

 交代の兵士は彼らを見送ると、ゆっくりと魔女のいる牢に近づく。

「……本当に何でも一つ願いを叶えられるのか?」

「其方の望みは何だ」

「…本当に叶えられるんだな」

「願いを言え」

 男は苦しそうにキツく瞼を閉じ強く唇を噛みしめる。

「…お、俺の妹の……病気を治して欲しい」

「…」

「…出来るのか?」

 魔女はボロボロのローブを託し上げて手招きをする。ローブと同じくボロボロの傷だらけ。拷問のせいで指には一つも爪が残っていない。
 男が誘われるように手を差し出すと、差し出した掌に数滴の血を垂らす。

「…何かに混ぜて飲ませればいい」

「それだけか…?」

「病は消える」

「…」

 男は何も言わずに頷き、赤黒いその血を一滴も失わないように、懐に忍ばせてあったスキットルに垂らす。

「ふぁ~、眠いっすね…」

「あ、あぁ」

「ん?何か体調とか悪いっすか?」

「…すまない。実は妹が昨日から体調が良くなくてな」

「…誰か交代を呼んで良いっすよ。妹さんも一人じゃ辛いでしょうし」

「…すまないな、アベル」

 兵士は悲しげに笑って去った。










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