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 ちょうど国の境界線まであと少しといった地点のちょうど真上に異変が起きた。

 空が割れるようにして空間が歪んでいく。

 その間から雷が垂直に落ちるように、莫大な閃光の塊が真っすぐ地面へと落ちた。

 俺たちは台地に衝突した時の余波で爆風にあおられる。

「クソっ! なんだあれは!?」

 悲鳴を上げる後ろの3人を振り向くことなく、手をかざすと、風を操作して爆風をそらす。

「な、何事なのでしょうか?」

 ディビナはその光の方角へと目を凝らしていた。

 モニカは怯え、なぜかフィーはハイテンションだった。

「今度はなんスかあれ!」

 光の中で立っているものをよく見て見ると、一人の巨大な男だった。

『ふう、うまくいったぜ……』

 そこに立っているのは、黒い皮膚をした巨大な男だった。

 巨人の男は、俺たちの視線に気づき、赤い目をこちらに向けた。

 そう、俺が魔王として想像したのはあんな感じの男だった。

「まずいな……あいつ、雰囲気がやばそうだ」

 とりあえず、モキュから俺一人だけ上空へと飛んだ。
 そして、モキュごと上に乗っている全員を空間で覆って、アルカリス王国の王城へと転移させた。
 目の前から3人とモキュの姿が消えた。

 いま、この世界の力関係で任せられて実力があるのはあそこの魔王しかいない。


 王城の方へ目線をやっている間に、銀硝鉱石に通した光レーダーが攻撃を探知した。

 俺は妖刀を抜いて構える。
 電磁気操作で全ての神経、細胞、電磁パルスを極限まで上げて、神経伝達・反射・運動機能を限界まで引き上げた。

 攻撃は……右か。

 俺は空間を纏わせた妖刀を右へと反射的に防御の構えを取る。

 何かが刀にぶつかる感触がすると、俺はもう吹き飛ばされていた。

「ぐああああああああああああ!」

 とっさに大量の空気をクッションに変えて、地面への衝突を回避する。
 身体からは全身がしびれるような感覚がした。
 あまりの威力に内臓が潰れたんじゃないかと錯覚したくらいだ。

 それを見たさっきの男が、少しだけ感心した声を上げた。

「ほぉ、今ので肉塊みたいに潰れねえのか。お前……人間とは思えねえな」

 俺はペッと口から血を吐きだす。

「誰だ……いきなりな挨拶だな」

「見りゃわかるだろ? 誰もが恐れる大魔王様だよ。ああ、いまのちんちくりんのあいつのことじゃねえよ。元祖だよ。いまいる魔王の父親……だったと言い換えてもいい」
「なにをふざけたことを」
「……もしかしてこの世界の人間じゃないのか?」
「そうだ」
「……第49世界――地球出身者か?」
「お前……」
「悪いな。あの世界はもうねえんだわ」

 俺は驚愕の表情でそいつを見返した。

「おい、何言ってんだよ……。地球がもう無い?」
「ああ、さっき滅ぼしてきた」

 俺はそんな話をどこかで聞いたことがあった。

「……じゃあ、この世界に初めて来たときにマルファリースが言っていた魔王ってのは。世界を滅ぼそうとしている魔王がいると……」

 正確には、それを代弁した騎士団長の言葉だった。

「あのババアが? じゃあ俺のことだろうな」

 あっさりと目の前の巨人男は認めた。
 またおかしな奴が現れたな、まったく。

「滅ぼしたって、人類をか?」
「そうだよ。人類もだ。それ以外ねえだろ。こっちに来る時に惑星ごと世界を消しちまったよ。まあ不可抗力ってやつだ。こっちの世界から地球に転移させられた時はどうなるかと思ったが、戻ってこれてよかったぜ。ハハハハハハッ。いや、正確には俺の送られた世界だから、お前らの世界とは全く同じかわからんがな。そう落ち込むことはねえ。お前の世界はまだあるかもしれねえぜ」
 
 魔王だというこの巨人男は馬鹿笑いしていた。
 正直、わけがわからん……。
 何言ってんだこいつ? 滅ぼしたのに世界がある?
 世界系の話だろうか? ちょっと難しかった。

 魔王は支配の数で強力な魔法が使えるようになっていく。地球の全人類を殺して支配したのだろうか。殺したら意味ないのではないのか……。

 いや、それで世界を渡るだけの転移魔法を発動した……ってところか、おそらく。
 で、その魔法の反動であっちの世界ごと消してしまったと。
 だが、それが俺の来た世界かは不明と。
 ふざけた奴だ。

 俺はいいことを教えてやった。

「っていっても、マルファーリスは俺がブラックホールに沈めたがな……」

「そうか。やり返す相手がいなくなっちまったな」
「やり返すだと?」
「そうだ。あいつが俺の力を知ったから転移させやがった。あいつ知恵だけは回るからなぁ。まあ、あいつがいないんなら、頭を使わなくていいから楽だぜ。人間と竜種、他の種族もまとめてこの世界を支配させてもらうだけだ」
「……こいつもか」

 あいかわらず、頭のとち狂った奴がまた現れやがった。
 いい加減、まともな者が力を持ってほしいものだ。

 そうか、だから現魔王の女の子・メアリスに俺は好印象を持ったのかもしれない。
 この世界で強力な力を持った奴で、まともなのがいなかったからな。あの子は、かなりまともだった。

 だが、待てよ……。
 こいつはいまその大事な支配をしているものがいない。
 来たばかりで支配数が0じゃないか?
 なら、王クラスではない……? 弱いかもしれない。

 じゃあ、なんだこの雰囲気は?
 圧倒的「強者」の感じがする。

「ハハハ、わかったぜ? お前の疑問がな。俺がこの世界でどのくらい強いのか計りかねているんだろう。まあ、当然だぜ。お前は俺がいた時代の俺を知らねえ。あの男の冒険者(今は爺か?)と王女のババアくらいだった」

 そういって手を掲げた先から魔法陣が展開された。

「おい、何をしている?」

 俺はそれ自体が何かやばいものだとしか思えなかった。
 しかし、動くこともできなかった。
 いや、妖刀がなぜか動くのを邪魔するように位置を固定しているのだ。
 まるでいま動いたら殺されると言わんばかりに。

「簡単なことだよ。お前は娘のメアリスに会ったことあるか?」
「あ……ああ、さっきな」
「じゃあ、わかるはずだ。魔王は魔族の王だ。メアリスの所に魔族はいたか?」

 俺は息をのんだ。

「……そういえばいなかった」

 人間ばかりだった。魔族の王だと言うのに、支配しているのは全員騎士や勇者といった人間だ。

 その中で異質に見えたのは魔物くらいだ。魔族ではない。
 俺が魔物使役の能力を持つ騎士(ディビナの村で外道封鎖していたイケメンクソ野郎)を殺したから、魔王に能力が戻ったとして、やっぱりどこにも魔族はいないのだ。

 この大陸にはいないとか……?

「簡単なことさ。魔族を支配しているのは今でも俺だけってことだ」

 魔法陣は空へ黒い穴を生みだした。
 そこから何かがイナゴの大群みたいにたくさんの黒い何かが出てきた。

「そして、魔族の王がこの世界で特別なのは、魔界から魔族を呼びだすことができるからだ」

「おいおい……なんだあれは」

 俺がファンタジーで知っている種族がかなりいる。

 見る限りでも悪魔族・鬼族(吸血鬼)・夢魔族など。ダークエルフや黒竜もいる。
 わかる範囲でこれ。
 化け物のオンパレードとはこのことだ。

 まだまだ知らない謎生物がどんどん穴から出てきた。
 数は地球の人口なんて比じゃないのではないか? と思うほどだった。
 空を黒の粒が覆った。


「こいつらがこの世界の別の次元『妖魔界』にいる魔族たちだ」

 そういうことか。
 こいつの支配しているのは正真正銘の魔族の支配者……魔王か。
 
 俺は妖刀を男の拳から振りほどき、心臓へと突き刺した。

 引き抜くとどす黒い血が噴き出す。

「ぐっ……」

 うめき声を上げたものの、顔が笑っている。

「やっぱり効かないか……」

 胸の穴が瞬時にふさがれた。

 マルファーリスといい、こいつらの完全不死体性は本当に厄介だ。
 王クラスってのが特別なのか。
 胸に穴があいたら死んどけっての。




 最悪だ。
 皇帝が死んで、マルファーリスもいない、白竜も俺が消してしまった。
 後悔はしていないが、なんてタイミングの悪い。
 これでは様子見で別の強者をぶつけることもできない。

「傷を負ったのはひさしぶりだ。その能力……魔法じゃねえな?」
「そうだ……なぜわかる」
「魔法陣がないだろ? それに、俺に効く攻撃なんてそうはない。俺に斬る殴る系の攻撃効かねえからな」
「それはまた厄介だ……」

 白竜もにた者だったが、考えて戦う相手で、敵の数を考えるとマルファーリス戦以上かもしれない。
 一度距離を取って、魔族の敵をマップとレーダーで全域を探査しながら後退する。

 元いた世界ってことは、原爆や戦車、戦闘機といった現代兵器が魔王には効かなかったってことだ。

 どうする? こいつは俺をロックオンしているから、下手にアルカリス王国へは近づけられない。
 かといって、どうすれば倒せるのか……その境界線が見えてこない。
 のろのろと空間魔法を使っている余裕も、ブラックホールの重力崩壊を待つ時間もないぞ。
 基本的な能力が高くて魔法も使えて、不死。
 そのうえ、限界まで上げた俺の動体視力でも動きを追えないときた。
 全部レーダー頼りでなんとか防いだだけだ。

 そうだ! こう言う時の相談役じゃないか。

 俺は空間操作でラインを構築して、声を伝達するための振動を操作する。
 糸電話みたいなものだから、相手の位置がわからないと無理だが。

『ミュースか?』

 店番の子の名前だ。

『え? はい? え~とコウセイさん?』

 おっかなびっくりといった声だ。

『糸電話のように会話している。急ぎだ。いまちょっと魔王と戦ってるんだが……。どうすればいい?』

『……え?』

 いや突然のこのセリフにその反応はわかる、わかるんだが……。

 男の拳をぎりぎりのところで察知して、刀で受け流す。
 どうやら妖刀の方がオートで刀を動かしているようだ。
 俺には剣技の習得とかないし、そんな華麗に捌くとか細かい芸当は無理だからな。

『とりあえず状況を……』

 ミュースが聞いた。
 相手が魔王で、魔族が集団で出現、不死身な上に支配でパワー無限大。
 こんな感じで伝えた。

 さすがのミュースも固まるかと思ったが、そうではなかった。

『すいません。もう少し細かく聞かせてもらえますか? 支配数は正確に何体ですか?』
『それはちょっとわからない……そのくらい多い。悪魔もたくさんいる』

『魔族の中には、悪魔族の上級悪魔がいるはずです。彼らは人間の世界では生きていないので光の索敵が効かない可能性があります。ですから、全範囲の攻撃をお願いします』

 俺は即座に、手の中に水を生み出してそれを核分裂反応で熱を起こして爆弾へと変えた。

 周囲が水蒸気と熱波で覆われると、すぐ背後から何かが爆風を押し戻しているのがわかった。

『悪魔は物理的索敵が効きませんが、攻撃の余波に対してはきちんと防御を行います。世界は共有されますから。そこを空間ごと排除してください』

 俺は言われたとおりに空間を指定して、そのまま空間を押しつぶして消滅させた。
 物理的には意味のないことなのだが、最後の瞬間、何かの悲鳴が聞こえた。
 
『上級悪魔の数は多くありません。その方法で一通り排除できるはずです。あとは、魔王ですが、人間の王の犠牲数とは違って、支配しているものが目の前にいます。強さを支えている元を取り除けばただの魔族の一体に戻るはずです』

 なるほどな。
 その方法があったか。
 だがあの魔族たちにも不死体性を与えられているが……、どうすれば?

 俺は上級悪魔を潰しながら、他の魔族を倒す手段を考える。
 魔王の巨人男は馬鹿ではないのか、この間に攻撃を出したりしなかった。支配下の味方の数が多く、魔王がその中で暴れれば有利になるのは俺だからだ。
 とりあえず隕石や鉄柱で比較的大きい魔族を攻撃していく。
 そこで、集団から抜け出したタイミングで攻撃が来る。

「おいおい、俺を忘れるなよ?」

 そこで、妖刀が男の攻撃を刃で防ぐ。

「悪いな。俺は一人じゃないんだ」

 そう、この妖刀がいる。
 こいつは、俺の相棒のように、別の動きで魔王を抑え込んでいる。

「ふっ、お前なかなかやるな。あっちの世界にはこれほど戦える人間はいなかった」

 なぜか魔王の男は笑っていた。


 そこで俺が前から考えていた攻撃を試すことにした。

『ミュース、光線は収束させて制御すればレーザーを撃つのは可能なんだよな?』

『はい、可能です。操作能力だけだと無理ですが、コウセイさんの能力は「強制」も可能だと言う話でしたね。でしたら、光を強引に曲げてエネルギーを蓄積させることは可能です』

 純粋な光学の高エネルギーレーザーは光エネルギーを増幅して指向性を持たせなければならない。
 それを持ち運び感覚で武器にできる現代兵器はないが、能力で代替してエネルギー自体のそれを抑え込めるというわけだ。

 それに……、
 ミュースは魔族への対抗策であることも付け加える。

『魔族の不死体性というのは、人間の不死とは異なります。この世界での「聖属性魔法」は基本的に自然の光を別のアプローチから放っているにすぎません。同種の光をレーザーで再現できるのならば、支配で不死体性を付与された魔族たちも不死を無効化して殲滅することが可能です』

 確かに、不死ってのは光に弱い気がする。の世界の知識の塊みたいな子が言うんだから間違いないだろう。
 これで不死の手下を倒す算段がついた。

『わかった。やってみる』

 俺は鉱石を動かして索敵をするのをやめる。

 目の前に移動させた16もの鉱石たち。
 これを操作して、光を中央の一点へと集めていく。
 ミュースの話によると、この鉱石ならば、レーザーの余波熱に耐えられるそうだ。

 光が凝縮して、中央に光の塊が生み出される。

 その出る先を絞っていくように光の放出量を能力で制御する。

 さあ、現代兵器最強の技で魔族を殲滅だ。

「見ろ、これが光レーザー砲だ!!」

 一瞬、光の閃光が空中を走ると、空間を引き裂くように莫大な光の閃光が魔族たちを襲った。

 その姿を灰のように消滅させていく魔族を見て、巨人男は叫んだ。

「やめろ~~~~~~~~~~~~~~!」

 そういって殴りかかってくるのだが、妖刀がそれを防ぐ。
 巨人男は気付いてしまったのだ。自分の王としての強さを奪いに来ているのだと、

 2発3発と魔族がいなくなるまで撃ち続けた。

 目の前の視界から、魔族たちは跡形もなく消えた。

「お掃除完了だな」

 手をぱんぱんと叩く。
 魔王の巨人男はゆっくりと地面に降り立った。
 魔法によって高速移動、身体能力強化、飛行能力補助をしていたのだ。
 そこにいるのは、ただ黒くてデカイだけの魔族の男だ。
 もう飛ぶこともできないらしい。

「ちっくしょう! 予想外だ。やられた……」

 魔王は諦めたように地面にたたずんでいた。
 俺もそばまで下りていく。
 この事態に魔王はどこか諦めたような表情をしていた。

「さて、魔王……だったか? まだ王クラスの力は残っているのか?」

 一応確認でそう聞いた。

「くっ、もうねえよ」

「そうか、じゃあ、死んでくれ……」

 俺は刀を振り上げた状態で魔王の言葉を聞く。

「いいのか? 俺が死んだら、本当に竜種の王……竜王に勝てる奴がいなくなるぞ?」
「どういう意味だ?」
「竜王は俺たち魔族や人間とは在り方が違う。魔法を使わないお前の攻撃はたぶん……一切効かないだろう」

「最後に残したい言葉はそれだけか? 俺はお前をどんな方法で倒した?」

 俺はいやらしく笑いかけた。

「おい……まさか竜種が支配している中央大陸の領土を奪うつもりか? どれだけの種族と種族の王がいると思っている? 王クラスと長レベルの竜種が各地区を支配しているんだぞ。そんなことができるとして、それじゃあ、お前こそ本当の……」
「最後まで言わなくていい。終わりだ」

 俺は妖刀で魔王の身体を切り裂いた。
 その後、水爆で塵に変えて、念のため時空の彼方へと消えてもらった。もちろん、空間転移で。

 魔王の男が最後に言いかけた言葉。

 お前こそ本当の『魔王』じゃないかと。

 だな。それだけ聞けば俺もそう思う。
 中央大陸にはたくさんの種とその王がいる。
 その上に竜種の長たちが大陸を分割支配しているらしい。

 なんか、人類滅ぼすとか、アホなことぬかしているらしいからな。
 いい加減、その竜種とやらには支配地から消えて欲しい。人間と平和のために。

 魔王を倒した経験が、そのまま竜種を倒すヒントになった。
 竜王を葬るためには、無敵状態を解くための支配領土を奪うプロセスが必要だ。

 つまり……

 これから地域ごとに竜種と各種族がおさめる中央大陸へ向かって、竜王の分割支配された土地を奪うのだ。
 これが唯一無二の竜王を倒す方法なのだとしたら、やるしかあるまい。
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