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第93話 魔王の対策
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リウからの指示は、次のようなものだった。
---------------------------
三日前、ドロシーへの面談が不調に終わった日の夕食の席で、集まった「踊る道化師」を前に。
リウは、笑っていた。
笑っていたのだ。
それは悪童がたのしいいたずらを思いついたときのそれで、とても無邪気な笑いだった。
邪気と無邪気は、こんなふうに、混在するのだ、とマシューはぼんやり思った。
「これからの注意点だ。」
リウは、香り高いコーヒーを口に運びながら言う。
「ドゥルノ・アゴンなる『魔王』は、旧時代の魔王たるオレを倒すことが目的らしい。
つまり、自分自身で倒さねばならない。
オレが老衰でくたばるのを待っているわけにはいかないし、食あたりや不慮の事故で死んでも具合が悪いわけだ。
だから、最終局面では、必ずやつは、オレを倒すためにオレの前に現れる。
それに先立って、やつがなにをするかというと、はい! マーベルくん!」
元気よく手をあげたマーベルが、はきはきと答えた。
「魔王陛下の側近である我々を倒しにきます。おそらくは個別撃破を狙うでしょう。
もちろん、返り討ちにしてやります。」
「半分、正解だ。やつらのとる行動はそれに違いないが、こちらの対処としては『返り討ち』は最適解ではない。」
「そうだよな、やっぱり男はタイマン! 一対一で大将同士ぶつかりあってこその華だもんな。」
「クロウド。別にオレは、いらん戦いなどしたくはない。」
リウは、それでもクロウドの成長がうれしいのか、目を細めた。
「しかし、間違ってもいない。むこうは、最終的にオレと、ドゥルノ・アゴン。一対一の局面にもっていきたいはずだ。ならば、おまえたちの戦い方も決まってくる。」
「返り討ち、だめなんですかあ? やっちまいましょうよお。」
「流石に千年立つと性格もかわるか、マーベル。おまえはもともとオレの魔素の影響下にあってなお、戦いが嫌いで、ゆえにカザリームに対する外交工作のためにここにお送りこんだと記憶しているが。」
「わたしは、マーベルであって、マーベルではないのです、陛下。」
マーベルはちょっと寂しそうに言った。
「わたしはこの地で、いく度も転生を繰り返しています。ついに記憶をとりもどすことなく、終えた生涯もあります。
わたしは、かつて陛下の信頼厚かったマーベルではなく、あくまでその転生体にすぎません。記憶と能力を受け継いでいるから、同一個体かといえば、それは・・・」
「あまり気にすることはない。」
軽くリウは言った。
「前世にしばられる必要はないし、生まれ変わりというボーナスタイムを楽しめばいい。
なにかやりたいことがあれば、手を貸すぞ?」
「世界征服。」
「それは、むかしやったからもういい。」
リウは、マーベルとの話を打ち切ると、全員を見回した。
「マーベルとディクック、フィオリナは、ドゥルノ・アゴンまたはその配下に挑まれたら、逃げることに専念しろ。」
「まあ、それは出来ますが」
ディクックは、言った。
戦いに自信のないディクックは、もちろんそうさせてもらうつもりだったし、転移も使える彼には、それが一番、ありがたかったが。
「少しでも相手の戦力を削っておかなくてよいのですか?
あなたが、むこうの親玉と退治したときに、一対多数という状況になれば、いくらなんでも不利では?」
「かまわない。」
と、魔王は答えた。
「そこまでは想定内だし、充分、対処できる。」
「そこまで・・・と、おっしゃいますけど。」
エミリアは、理解できない、といったふうに言った。
「それ以上に悪いことってなんですか?」
「決まっている! ドゥルノ・アゴンとの決戦の場におまえたちがいることだ!」
ショックを受けたように、エミリアはなにか言おうとして、黙った。
「おまえたちがアモンやギムリウスだったら、特になんの策もいらん。せめて、マーベル程度なら援護のひとつも期待できるかもしれない。
だか、いまのおまえたちをかばいながら戦うのは、不可能ではないが。
もしも、おまえたちに万一があってはルトに言い訳が立たん。」
------------------------------
そして、リウが、エミリア、クロウド、ファイユ、マシューに指示したのは。
逃げることは許さん。戦え。
で、あった。
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三日前、ドロシーへの面談が不調に終わった日の夕食の席で、集まった「踊る道化師」を前に。
リウは、笑っていた。
笑っていたのだ。
それは悪童がたのしいいたずらを思いついたときのそれで、とても無邪気な笑いだった。
邪気と無邪気は、こんなふうに、混在するのだ、とマシューはぼんやり思った。
「これからの注意点だ。」
リウは、香り高いコーヒーを口に運びながら言う。
「ドゥルノ・アゴンなる『魔王』は、旧時代の魔王たるオレを倒すことが目的らしい。
つまり、自分自身で倒さねばならない。
オレが老衰でくたばるのを待っているわけにはいかないし、食あたりや不慮の事故で死んでも具合が悪いわけだ。
だから、最終局面では、必ずやつは、オレを倒すためにオレの前に現れる。
それに先立って、やつがなにをするかというと、はい! マーベルくん!」
元気よく手をあげたマーベルが、はきはきと答えた。
「魔王陛下の側近である我々を倒しにきます。おそらくは個別撃破を狙うでしょう。
もちろん、返り討ちにしてやります。」
「半分、正解だ。やつらのとる行動はそれに違いないが、こちらの対処としては『返り討ち』は最適解ではない。」
「そうだよな、やっぱり男はタイマン! 一対一で大将同士ぶつかりあってこその華だもんな。」
「クロウド。別にオレは、いらん戦いなどしたくはない。」
リウは、それでもクロウドの成長がうれしいのか、目を細めた。
「しかし、間違ってもいない。むこうは、最終的にオレと、ドゥルノ・アゴン。一対一の局面にもっていきたいはずだ。ならば、おまえたちの戦い方も決まってくる。」
「返り討ち、だめなんですかあ? やっちまいましょうよお。」
「流石に千年立つと性格もかわるか、マーベル。おまえはもともとオレの魔素の影響下にあってなお、戦いが嫌いで、ゆえにカザリームに対する外交工作のためにここにお送りこんだと記憶しているが。」
「わたしは、マーベルであって、マーベルではないのです、陛下。」
マーベルはちょっと寂しそうに言った。
「わたしはこの地で、いく度も転生を繰り返しています。ついに記憶をとりもどすことなく、終えた生涯もあります。
わたしは、かつて陛下の信頼厚かったマーベルではなく、あくまでその転生体にすぎません。記憶と能力を受け継いでいるから、同一個体かといえば、それは・・・」
「あまり気にすることはない。」
軽くリウは言った。
「前世にしばられる必要はないし、生まれ変わりというボーナスタイムを楽しめばいい。
なにかやりたいことがあれば、手を貸すぞ?」
「世界征服。」
「それは、むかしやったからもういい。」
リウは、マーベルとの話を打ち切ると、全員を見回した。
「マーベルとディクック、フィオリナは、ドゥルノ・アゴンまたはその配下に挑まれたら、逃げることに専念しろ。」
「まあ、それは出来ますが」
ディクックは、言った。
戦いに自信のないディクックは、もちろんそうさせてもらうつもりだったし、転移も使える彼には、それが一番、ありがたかったが。
「少しでも相手の戦力を削っておかなくてよいのですか?
あなたが、むこうの親玉と退治したときに、一対多数という状況になれば、いくらなんでも不利では?」
「かまわない。」
と、魔王は答えた。
「そこまでは想定内だし、充分、対処できる。」
「そこまで・・・と、おっしゃいますけど。」
エミリアは、理解できない、といったふうに言った。
「それ以上に悪いことってなんですか?」
「決まっている! ドゥルノ・アゴンとの決戦の場におまえたちがいることだ!」
ショックを受けたように、エミリアはなにか言おうとして、黙った。
「おまえたちがアモンやギムリウスだったら、特になんの策もいらん。せめて、マーベル程度なら援護のひとつも期待できるかもしれない。
だか、いまのおまえたちをかばいながら戦うのは、不可能ではないが。
もしも、おまえたちに万一があってはルトに言い訳が立たん。」
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そして、リウが、エミリア、クロウド、ファイユ、マシューに指示したのは。
逃げることは許さん。戦え。
で、あった。
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