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第42話 準決勝決着
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「大魔術はさける。」
「コツコツ、削る。」
クセルの発言は、すべて氷の棺桶の中にいるリウに、聞かせるための嘘でしかなかった。
このまま、この硬直状態がしばらく続くと思わせれば、「次」の用意ができる。
シャクヤがその大剣に装備した魔術は切る、だけではなく、リウの体を粉々に打ち砕く。さらに、その破片ひとつひとつを、別々の異空間へ転移させる効果を持つ。
シャクヤにとっては、切り札となる攻撃であり、このような大観衆の面前で行うものではない。
だが、この少年が、もし本当に古の魔王に繋がるものであり、本物のの「踊る道化師」であるならば、そのリスクを冒す価値は充分ある。
十重二十重に巻かれた、クセルの血鎖が、シャクヤの斬撃にあわせて、消滅した。
シャクヤ自身が、強化した氷の棺など、いま彼女が振り下ろした一撃のまえでは、デザートに添えられたゼリー程度のものである。
氷棺をくだいた剣は、そのまま、リウの体にくい込み、なんの抵抗もないまま、走り抜けた。
手応え、
がない。
呆然と、シャクヤは、目の前の無傷の少年を見つめた。
彼は。
寒そうだった。
もともと、下着一枚で、試合に臨んでいるだ。それは寒いだろう。
じゃなくてええっ!
シャクヤは心の中で絶叫した。
体ごと凍らせる「氷棺」に閉じ込めて、魔法を阻害する「共鳴波凍」で、
抵抗を封じた。それを「寒そう」程度ですまされては!
「つまり、剣を錯覚させた。」
リウは、シャクヤの青ざめた顔を見て、申し訳ないと思ったのか解説を始めた。
「その剣の攻撃は、オレに対象を定めたものでは無い。だから、この氷を破壊したところで、『目的は達成した』と言い聞かせたんだ。」
そんなことが、できるのか?
と、シャクヤもクセルも口には出さなかったが、その表情をみれば、充分だった。
言い訳をするように、リウは続けた。
「なんにでも出来るわけではない。
オレは剣とは相性がよくて、だな。
それに、このやり方はオレのオリジナルというわけでもない。オレの親友と」
少年の美しい顔が、苦痛を感じたように歪んだ。
「・・・恋人が得意にしている技だ。」
ふう。
と、ため息をひとつ、ついてクセルは、リウの前に膝を着いた。
「われらはここまでのようです。」
うむ。と、鷹揚に若き王は頷いた。
「われらの『試し』はいかがだったでしょうか?」
「それは、『知性をもつ魔物』が定命種に対して行うアレか?」
「そのアレ、です。」
「オレはもともと魔物でもなんでもないし」
しゃあしゃあと、いまさらとんでもなことをリウは言った。
「いいんじゃないのか?
オレはおまえたちを個体として、認識したし、その命を無辜に奪うこともしないし、ときには傍らに立って戦うことも許そう。」
「ありがたき幸せ。」
吸血鬼は、平伏して感謝の意を示した。
シャクヤは、そんな彼女を困ったように見ていたが、審判席に手を振って叫んだ。
「試合はここまでだ!
『踊る道化師・血』は『踊る道化師・魔王』に敗北したことを認める!」
見応えのある戦いだったとはいえ、観衆にとったは、いささか消化不良である。とくに、両者ともにダメージをロクに受けていないのが、物足りない。
ほぼ、一方的に「踊る道化師・血」が「踊る道化師・魔王」を攻め、それが通じなかったところで、自ら負けを認めただけで、「血」はまだ元気いっぱいなのだ。
のこのこと、リウの控え室までついてきた二人は、あらためて名乗った。
「アヴァロン伯クセルを名乗っております。これはわたしの盟友、魔術師シャクヤ。」
「『踊る道化師』のリウだ。」
「・・・では、あなたさまは、本当の『踊る道化師』・・・!!」
いちいち態度がくどい!
リウは手を振った。
「普通に話していい。ギムリウス流に言えば、『試し』の終わったものは少なくとも友人ではあるのだから、もっと普通に話せ。
おまえたちは、何かの目的のために、『踊る道化師』と接触したがっていたそうだな。」
ふたたび、クセルはひれ伏そうとしたが、めんどうくさくなったシャクヤがとめた。
「『踊る道化師』の中に、真祖がいるってのは、本当ですか?」
「いる。」
と、リウは答えた。
「わけあって、すべての力を発揮できる状態ではないが、いまのおまえ程度の力はふるえるだろう。
アイツになんのようだ?」
「わたしにかけられた呪いの解呪です。」
リウは、クセルとシャクヤを「見た」。
その一瞥だけで、2人の体を精神を、その成り立ちをスキャンする。
「別段、おまえに呪いなどかかっていないぞ。
それで言ったら、そっちのシャクヤの方が」
「さすがはリウさま!」
シャクヤは顔を歪めた。
「わたしの心臓は、いまカザリームのガウテマラ迷宮第37層にある。おかげでわたしは、ある意味不死身ではあるが、カザリームから離れることが出来ないときている。」
「たしかに呪い、だな。それは。」
リウは頷いた。
「そっちなんだ?」
「わたしの親である吸血鬼から、吸血鬼にされるたときにかけられたものです。」
「それは、呪いというよりも体質みたいなものだ。解呪で、どうなるものでもない。」
「真祖ならば、双主変がつかえるはずです。」
クセルが言った。
「わたしに刻まれた呪われた情報を書き直し、再構築することが。」
「コツコツ、削る。」
クセルの発言は、すべて氷の棺桶の中にいるリウに、聞かせるための嘘でしかなかった。
このまま、この硬直状態がしばらく続くと思わせれば、「次」の用意ができる。
シャクヤがその大剣に装備した魔術は切る、だけではなく、リウの体を粉々に打ち砕く。さらに、その破片ひとつひとつを、別々の異空間へ転移させる効果を持つ。
シャクヤにとっては、切り札となる攻撃であり、このような大観衆の面前で行うものではない。
だが、この少年が、もし本当に古の魔王に繋がるものであり、本物のの「踊る道化師」であるならば、そのリスクを冒す価値は充分ある。
十重二十重に巻かれた、クセルの血鎖が、シャクヤの斬撃にあわせて、消滅した。
シャクヤ自身が、強化した氷の棺など、いま彼女が振り下ろした一撃のまえでは、デザートに添えられたゼリー程度のものである。
氷棺をくだいた剣は、そのまま、リウの体にくい込み、なんの抵抗もないまま、走り抜けた。
手応え、
がない。
呆然と、シャクヤは、目の前の無傷の少年を見つめた。
彼は。
寒そうだった。
もともと、下着一枚で、試合に臨んでいるだ。それは寒いだろう。
じゃなくてええっ!
シャクヤは心の中で絶叫した。
体ごと凍らせる「氷棺」に閉じ込めて、魔法を阻害する「共鳴波凍」で、
抵抗を封じた。それを「寒そう」程度ですまされては!
「つまり、剣を錯覚させた。」
リウは、シャクヤの青ざめた顔を見て、申し訳ないと思ったのか解説を始めた。
「その剣の攻撃は、オレに対象を定めたものでは無い。だから、この氷を破壊したところで、『目的は達成した』と言い聞かせたんだ。」
そんなことが、できるのか?
と、シャクヤもクセルも口には出さなかったが、その表情をみれば、充分だった。
言い訳をするように、リウは続けた。
「なんにでも出来るわけではない。
オレは剣とは相性がよくて、だな。
それに、このやり方はオレのオリジナルというわけでもない。オレの親友と」
少年の美しい顔が、苦痛を感じたように歪んだ。
「・・・恋人が得意にしている技だ。」
ふう。
と、ため息をひとつ、ついてクセルは、リウの前に膝を着いた。
「われらはここまでのようです。」
うむ。と、鷹揚に若き王は頷いた。
「われらの『試し』はいかがだったでしょうか?」
「それは、『知性をもつ魔物』が定命種に対して行うアレか?」
「そのアレ、です。」
「オレはもともと魔物でもなんでもないし」
しゃあしゃあと、いまさらとんでもなことをリウは言った。
「いいんじゃないのか?
オレはおまえたちを個体として、認識したし、その命を無辜に奪うこともしないし、ときには傍らに立って戦うことも許そう。」
「ありがたき幸せ。」
吸血鬼は、平伏して感謝の意を示した。
シャクヤは、そんな彼女を困ったように見ていたが、審判席に手を振って叫んだ。
「試合はここまでだ!
『踊る道化師・血』は『踊る道化師・魔王』に敗北したことを認める!」
見応えのある戦いだったとはいえ、観衆にとったは、いささか消化不良である。とくに、両者ともにダメージをロクに受けていないのが、物足りない。
ほぼ、一方的に「踊る道化師・血」が「踊る道化師・魔王」を攻め、それが通じなかったところで、自ら負けを認めただけで、「血」はまだ元気いっぱいなのだ。
のこのこと、リウの控え室までついてきた二人は、あらためて名乗った。
「アヴァロン伯クセルを名乗っております。これはわたしの盟友、魔術師シャクヤ。」
「『踊る道化師』のリウだ。」
「・・・では、あなたさまは、本当の『踊る道化師』・・・!!」
いちいち態度がくどい!
リウは手を振った。
「普通に話していい。ギムリウス流に言えば、『試し』の終わったものは少なくとも友人ではあるのだから、もっと普通に話せ。
おまえたちは、何かの目的のために、『踊る道化師』と接触したがっていたそうだな。」
ふたたび、クセルはひれ伏そうとしたが、めんどうくさくなったシャクヤがとめた。
「『踊る道化師』の中に、真祖がいるってのは、本当ですか?」
「いる。」
と、リウは答えた。
「わけあって、すべての力を発揮できる状態ではないが、いまのおまえ程度の力はふるえるだろう。
アイツになんのようだ?」
「わたしにかけられた呪いの解呪です。」
リウは、クセルとシャクヤを「見た」。
その一瞥だけで、2人の体を精神を、その成り立ちをスキャンする。
「別段、おまえに呪いなどかかっていないぞ。
それで言ったら、そっちのシャクヤの方が」
「さすがはリウさま!」
シャクヤは顔を歪めた。
「わたしの心臓は、いまカザリームのガウテマラ迷宮第37層にある。おかげでわたしは、ある意味不死身ではあるが、カザリームから離れることが出来ないときている。」
「たしかに呪い、だな。それは。」
リウは頷いた。
「そっちなんだ?」
「わたしの親である吸血鬼から、吸血鬼にされるたときにかけられたものです。」
「それは、呪いというよりも体質みたいなものだ。解呪で、どうなるものでもない。」
「真祖ならば、双主変がつかえるはずです。」
クセルが言った。
「わたしに刻まれた呪われた情報を書き直し、再構築することが。」
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