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クローディア大公の結婚式
斧神と仕掛け屋
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ドロシーには、ナザクも会っていた。
アレはよい。
よい人材だった。
いくら手を血に染めても、けろりとして、虫も殺せぬような女を演じ切れる女だ。
だが、アウデリアの縁者、ということになれば話は違ってくる。
もうひとり。
拳士らしき若い男、ジウルの方は、不機嫌そうに黙り込んだまま、なにも言わなかった。
「アウデリアさま。」
ナザクは、テーブルの料理に手をつけない。一服もられるのを心配しているというより、およそ、まともに食えそうなものが、ないのだ。
それはそうだろう。ここは、いま地回りのチンピラどもの巣窟になっているだけで、レストランの看板は、彼らが外し忘れたにすぎない。
アウデリアとジウルは、ここに巣食ったゴロツキどもをたたき出す仕事を請け負っただけで、ここはレストランだからと絡んで無理やり料理を出させているのは、たんなる嫌がらせにすぎないのだ。
「ドロシーを連れてきたのは、ギンです。確かに…腕はいいし、なにより、腕がいいように見えないのが、いい。」
新しい皿が運ばれてきた。
野菜と肉の炒め物だ。
見てくれは悪いが、食欲のそそる香りがしていた。
ナムは、ひと口食って、これは美味い、と呟いた。
どれどれと、アウデリアもジウルも口にする。ナザクもつられて食べてみたかなるほどこれはうまかった。
高い食材など使っていないが、炒め加減と塩加減がいい。隠し味のスパイスもよい感じだ。
「おう! これは美味いぞ!」
アウデリアが厨房にむかって怒鳴った。
「もっと持ってこい。」
へい。
と、うれしそうな声が厨房から聞こえた。
最初は一番の下っ端かと思ったが、料理がはじまると、この男が中心となり、兄貴分たちをアゴでこき使っている。
案外、料理人の経験があるのかもしれなかった。
「ですが、アウデリアさまのお身内ということがわかった以上、手を引きます。所詮はわたしらは裏稼業なんでね。
あの子は表の世界でも、やっていける。」
「ところで、なんでここに来た?」
ジウルがうっそりと言った。
「仕掛け屋が、ゴロツキにからまれて、連れ込まれたとかいう話ならきかんぞ。」
「まあ、その通りなんですがね。」
ナザクは、言った。
「実は、わたしらの仲間が何人か、消されてるんです。こいつらもその一味かと思ってあとを着いてきたんですが……ハズレでした。」
「殺し屋を先手をうって殺すか。」
アウデリアが笑った。
「ということは、犯人はお主たちが、的にかけている相手だろう。
誰だ? 仕掛けの相手は?」
「神子だ。ハロルド卿。」
ナムがぼそっと言った。
ナザクはそれを容認した。
消された仲間は尋常な死に方ではなかってからだ。
どこか、人智を超えた存在が関与している。
ならば、ここでこのアウデリアという人物にあえたのは、僥倖であろう。
「なるほど! 聖光教の神子ならたしかに、わたしとあいつの結婚式には出席するな。そのでおまえたちの仕掛けが行われるわけか。」
それがどうもキナ臭くなってきたので、裏をとっている最中でした。
と、ナザクは言った。
「依頼者は誰だ?」
「そこまでは明かせませんがね。ハロルドに恨みを持つ女です。」
「ああ、アライアス侯爵か。」
ナザクは食べかけた野菜炒めを吐き出しそうになった。
「な、な、」
「もともと、あそこは夫婦でな。一粒種の坊やは間違いなく、ハロルドの種だ。だが、ハロルドが神子に選ばれて、アライアスを捨てた……そんな風に、世の中には伝わっている。」
「実際は違う、と?」
「もともとハロルドは、ガルフィートの連れてきた取り巻きの一人で、あまり素性がよくない男だった。アライアス侯爵家の入婿なんて、玉の輿だっただろうよ。
だが、それをよしとしない親戚筋から、総スカンを食ってだな。子どもが生まれたあとは、もう種馬はお役御免とばかりに、殺し屋まで差し向けられる始末だ。」
「それで、神子の話があったときに、これを幸いと逃げ出したってわけですか。」
呆れたようにナザクは言った。
「しかし、それならば、おかしくありませんかね。仮に、あくまで仮にですよ。
アライアス閣下は、そこいらの事情をくんでいるのなら、十年たってから、恨みのためにハロルドを的にかけるのんてありますかね。」
「アライアスの恨みは、おそらく神子、という制度そのものに向いている。」
じっと考え込むように、アウデリアは、なみなみと注がれたグラスをじっと見つめた。そのまま、口をつけると静かに飲み干した。
飲む干すなよ! そんな飲み方をする酒じゃねえぞ!
「神子は、教皇庁が指定した唯一神の地上代弁者だ。その選抜は、教皇庁がさまざな部分、たとえは、大衆受けのよい見てくれとか、家柄、教養など。特に見てくれだな。若々しい二枚目の男が選ばれる。」
「あけすけに語りますね。」
そう言いながら、ナザクは、アウデリアのグラスを酒で満たしてやる。
「面白いのは、前任が加齢で容姿が衰えてくると、お役御免で新しい神子が、選ばれると言うんだ。在任中は、結婚も出来んし、教皇庁の意のままに動かねばならんが、なにしろ身入りがいいし、ある程度のところで、開放されることもわかっているとしたらいい商売だな。」
アレはよい。
よい人材だった。
いくら手を血に染めても、けろりとして、虫も殺せぬような女を演じ切れる女だ。
だが、アウデリアの縁者、ということになれば話は違ってくる。
もうひとり。
拳士らしき若い男、ジウルの方は、不機嫌そうに黙り込んだまま、なにも言わなかった。
「アウデリアさま。」
ナザクは、テーブルの料理に手をつけない。一服もられるのを心配しているというより、およそ、まともに食えそうなものが、ないのだ。
それはそうだろう。ここは、いま地回りのチンピラどもの巣窟になっているだけで、レストランの看板は、彼らが外し忘れたにすぎない。
アウデリアとジウルは、ここに巣食ったゴロツキどもをたたき出す仕事を請け負っただけで、ここはレストランだからと絡んで無理やり料理を出させているのは、たんなる嫌がらせにすぎないのだ。
「ドロシーを連れてきたのは、ギンです。確かに…腕はいいし、なにより、腕がいいように見えないのが、いい。」
新しい皿が運ばれてきた。
野菜と肉の炒め物だ。
見てくれは悪いが、食欲のそそる香りがしていた。
ナムは、ひと口食って、これは美味い、と呟いた。
どれどれと、アウデリアもジウルも口にする。ナザクもつられて食べてみたかなるほどこれはうまかった。
高い食材など使っていないが、炒め加減と塩加減がいい。隠し味のスパイスもよい感じだ。
「おう! これは美味いぞ!」
アウデリアが厨房にむかって怒鳴った。
「もっと持ってこい。」
へい。
と、うれしそうな声が厨房から聞こえた。
最初は一番の下っ端かと思ったが、料理がはじまると、この男が中心となり、兄貴分たちをアゴでこき使っている。
案外、料理人の経験があるのかもしれなかった。
「ですが、アウデリアさまのお身内ということがわかった以上、手を引きます。所詮はわたしらは裏稼業なんでね。
あの子は表の世界でも、やっていける。」
「ところで、なんでここに来た?」
ジウルがうっそりと言った。
「仕掛け屋が、ゴロツキにからまれて、連れ込まれたとかいう話ならきかんぞ。」
「まあ、その通りなんですがね。」
ナザクは、言った。
「実は、わたしらの仲間が何人か、消されてるんです。こいつらもその一味かと思ってあとを着いてきたんですが……ハズレでした。」
「殺し屋を先手をうって殺すか。」
アウデリアが笑った。
「ということは、犯人はお主たちが、的にかけている相手だろう。
誰だ? 仕掛けの相手は?」
「神子だ。ハロルド卿。」
ナムがぼそっと言った。
ナザクはそれを容認した。
消された仲間は尋常な死に方ではなかってからだ。
どこか、人智を超えた存在が関与している。
ならば、ここでこのアウデリアという人物にあえたのは、僥倖であろう。
「なるほど! 聖光教の神子ならたしかに、わたしとあいつの結婚式には出席するな。そのでおまえたちの仕掛けが行われるわけか。」
それがどうもキナ臭くなってきたので、裏をとっている最中でした。
と、ナザクは言った。
「依頼者は誰だ?」
「そこまでは明かせませんがね。ハロルドに恨みを持つ女です。」
「ああ、アライアス侯爵か。」
ナザクは食べかけた野菜炒めを吐き出しそうになった。
「な、な、」
「もともと、あそこは夫婦でな。一粒種の坊やは間違いなく、ハロルドの種だ。だが、ハロルドが神子に選ばれて、アライアスを捨てた……そんな風に、世の中には伝わっている。」
「実際は違う、と?」
「もともとハロルドは、ガルフィートの連れてきた取り巻きの一人で、あまり素性がよくない男だった。アライアス侯爵家の入婿なんて、玉の輿だっただろうよ。
だが、それをよしとしない親戚筋から、総スカンを食ってだな。子どもが生まれたあとは、もう種馬はお役御免とばかりに、殺し屋まで差し向けられる始末だ。」
「それで、神子の話があったときに、これを幸いと逃げ出したってわけですか。」
呆れたようにナザクは言った。
「しかし、それならば、おかしくありませんかね。仮に、あくまで仮にですよ。
アライアス閣下は、そこいらの事情をくんでいるのなら、十年たってから、恨みのためにハロルドを的にかけるのんてありますかね。」
「アライアスの恨みは、おそらく神子、という制度そのものに向いている。」
じっと考え込むように、アウデリアは、なみなみと注がれたグラスをじっと見つめた。そのまま、口をつけると静かに飲み干した。
飲む干すなよ! そんな飲み方をする酒じゃねえぞ!
「神子は、教皇庁が指定した唯一神の地上代弁者だ。その選抜は、教皇庁がさまざな部分、たとえは、大衆受けのよい見てくれとか、家柄、教養など。特に見てくれだな。若々しい二枚目の男が選ばれる。」
「あけすけに語りますね。」
そう言いながら、ナザクは、アウデリアのグラスを酒で満たしてやる。
「面白いのは、前任が加齢で容姿が衰えてくると、お役御免で新しい神子が、選ばれると言うんだ。在任中は、結婚も出来んし、教皇庁の意のままに動かねばならんが、なにしろ身入りがいいし、ある程度のところで、開放されることもわかっているとしたらいい商売だな。」
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