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クローディア大公の結婚式
仕掛け屋、仕掛けられる
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仕掛け屋。
西域諸国に深く根を張る犯罪組織は、数ある。その中でもこと暗殺に長けたものも、多く存在する。たとえば上古の昔から活動する盗賊団ロゼル一族は、盗賊は名乗るが、暗殺に重きをおいた組織だ。盗みは失敗しても暗殺なら必ず遂行すると言われている。
いくつもの商会を運営する表の顔も持つ大組織だ。
殺せる相手なら赤子から吸血鬼まで、がモットーのクリスト一族や、邪神ヴァルゴールの使徒たちも殺し屋としたは名高い。
キドウの属する「仕掛け屋」は、それらとは一線を画する組織である。
そもそもが、組織と言えるがどうか。
この道に入るのには、「師匠」と呼ばれる仕掛け屋からの推薦が必要になる。
技を叩き込み、依頼人とのツナギの付け方、金子の受け取り方、殺していいやつ、いけないやつ。同じ仕掛け屋同士を見分けるための符牒などを習うのだが、さて、そもそもきちんとした組織そのものがない。
時折、地区ごとに有力な師匠が「元締め」をなのることもあるが、はたして、そいつらが左団扇で暮らしているかと言うと、そんな事はない。
キドウの師匠であるナザクも、古着屋を営みつつ、古くなったドレスを仕立て直すほうの仕事に忙しい。
そう、仕掛け屋は、ほとんど言ってよいほど、表の稼業をもっていた。
これは、市位に紛れるためのカモフラージュのでもあるが、事実そうでもしなければとても暮らして行けなかったからである。
その意味では、彼、キドウの表の顔は学生である。
彼、キドウは結論づけている。
仕掛け屋は、1人残らず頭がおかしい、と。
要は義憤にかられ、よけいなことに首を突っ込みたがるお人好しの集まりである。
そして、その怒りを平気で殺人という手段に訴えてしまうあまりにも困った連中、それが仕掛け屋だ。
それだと、単なる独りよがりの殺人鬼の群れになってしまうのを、かろうびて「プロの殺し屋」であるという自負でかろじて、無差別殺人を堪えている。
だから、とんでもない、ときとしては、こどもの小遣い程度で、仕掛けを受けてしまう。
彼の師匠の古着屋は、繁盛している。
裏稼業である「仕掛け」で稼いだ金は、しっかり貯金しているそうだ。
額をきいて、キドウは驚いた。
もう1軒、店が出せそうな金額だったからだ。
超一流の殺し屋が?
半生かかって稼いだ金がその程度!?
小金なんぞ貯めてるとそこから、足がつくのでは?
と、疑問に思ったキドウだが、これでは足のつきようがない。
古着の販売と仕立て直しで、大いに潤ってる独り者の女性なら貯めていてもおかしくない金額であった。
キドウは、内ポケットに忍ばせた得物に手をやった。
しばらく前からつけられている。
仕掛け屋は、必ずしも超人的な戦士では無い。
師匠お気に入りのギンやリクなら、完全武装の衛士十人でもものともしないだろうが、キドウは違う。
真正面から同じくらいの体格の者と殴り合いになったら、たぶん下から3番目くらいだろう。
上級魔道学校のレベルは高く、そのなかでは、彼は上の下、くらいだ。
暴力ごとには、まったく向いていない。
尾行に気が付かないフリをして、キドウは次の路地を曲がった。
繁華街の一角ではあるが、いわゆる夜の商売の店が並ぶ一角だ。
昼間のこの時間は、通るものはまずいない。
尾行していた男は、キドウと鉢合わせをしそうになって、慌てて立ち止まった。
キドウも知った顔だった。
ゲオルク子爵家の三男坊ノウブル。歳が同じくらいなので、パーティで同じテーブルを囲んだこともある。
いわゆる、敬虔な聖光教の信者で、親もまた教皇庁に勤務しているはずだった。
「や、やあ、キドウ。」
慌てたようすを隠すことも無く、ノウブルは手を挙げて挨拶した。
「知った顔をこんな、ところで見かけたもので、ひ、久しぶりにすこしはなしがしたくてね。声をかけようとおもってのだが、きみの足が早くて。」
「これはすいません、ノウブルさま。」
キドウは腰をかがめた。
まわりには人がいない。
この路地を覗き込んでいるものもいない。
「いつぞやのパーティ以来ですね。ご存知かとも思いますが、魔道学校へなんとか入学できまして、わたしのような凡才は授業についていくのがやっと。ついつい、出不精になりまして。」
「そうか、そうなのか。ところで話しというのは」
ノウブルが短剣を抜くよりも、キドウが指にはさんだ試験管の中身を、ノウブルにかけるほうが早かった。
わずかに発光する青い液体は、ノウブルの顔にかかった。
叫びさえあげられず。
ノウブルの頭部が溶解した。
そのまま、路地に倒れ込む。
「カオナシ」のキドウ。これが彼の二つ名であった。彼の特製の溶解液は、一瞬で相手を即死させる。
顔を溶かして服を脱がせてしまえば、今日の治安の悪いミトラでは、身元の判明は極めて難しくなる。
キドウは、一歩下がって、壁にもたれかかった。
これは、きちんと「仕掛け」を施した仕事では無い。
彼の得意技である身ぐるみをはいで、身元不明死体を装うか、それともたまたま変死を目撃した善良な市民を装って助けを求めるか。
この判断は微妙なものが、あった。
だが、このとき彼には、考える時間は与えられなかった。
顔の半分が溶け崩れたノウブルが、身を起こしたからである。
のどの奥から発するうなりは、あごと舌が再生されると、直ぐに明瞭な言葉となった。
「・・・酷いなあ。仕掛け屋のことを少し話してもらおうとおもっただけなのに。」
キドウの毒薬は、その影響範囲を広げている。首から胸、さらに腹部まで、蚯蚓脹れがひろがり、それが破裂して内蔵が垣間見える。だがノウブル、いやノウブルの姿をした何かの再生能力のほうが上だ。
もう、顔や頭は完全に元通りだ。
喉から胸に広がった火傷もみるみる正常な皮膚に、おきかわっていく。
「きさまはなんだ!」
キドウは、少しでも遠ざかろうと、壁に体を押しつけた。
「悪魔か!?」
心外なことを、きく。
と言わんばかりに、ノウブルは、言い返した。
「キドウくん。それを言うなら、ぼくは天使だよ。」
西域諸国に深く根を張る犯罪組織は、数ある。その中でもこと暗殺に長けたものも、多く存在する。たとえば上古の昔から活動する盗賊団ロゼル一族は、盗賊は名乗るが、暗殺に重きをおいた組織だ。盗みは失敗しても暗殺なら必ず遂行すると言われている。
いくつもの商会を運営する表の顔も持つ大組織だ。
殺せる相手なら赤子から吸血鬼まで、がモットーのクリスト一族や、邪神ヴァルゴールの使徒たちも殺し屋としたは名高い。
キドウの属する「仕掛け屋」は、それらとは一線を画する組織である。
そもそもが、組織と言えるがどうか。
この道に入るのには、「師匠」と呼ばれる仕掛け屋からの推薦が必要になる。
技を叩き込み、依頼人とのツナギの付け方、金子の受け取り方、殺していいやつ、いけないやつ。同じ仕掛け屋同士を見分けるための符牒などを習うのだが、さて、そもそもきちんとした組織そのものがない。
時折、地区ごとに有力な師匠が「元締め」をなのることもあるが、はたして、そいつらが左団扇で暮らしているかと言うと、そんな事はない。
キドウの師匠であるナザクも、古着屋を営みつつ、古くなったドレスを仕立て直すほうの仕事に忙しい。
そう、仕掛け屋は、ほとんど言ってよいほど、表の稼業をもっていた。
これは、市位に紛れるためのカモフラージュのでもあるが、事実そうでもしなければとても暮らして行けなかったからである。
その意味では、彼、キドウの表の顔は学生である。
彼、キドウは結論づけている。
仕掛け屋は、1人残らず頭がおかしい、と。
要は義憤にかられ、よけいなことに首を突っ込みたがるお人好しの集まりである。
そして、その怒りを平気で殺人という手段に訴えてしまうあまりにも困った連中、それが仕掛け屋だ。
それだと、単なる独りよがりの殺人鬼の群れになってしまうのを、かろうびて「プロの殺し屋」であるという自負でかろじて、無差別殺人を堪えている。
だから、とんでもない、ときとしては、こどもの小遣い程度で、仕掛けを受けてしまう。
彼の師匠の古着屋は、繁盛している。
裏稼業である「仕掛け」で稼いだ金は、しっかり貯金しているそうだ。
額をきいて、キドウは驚いた。
もう1軒、店が出せそうな金額だったからだ。
超一流の殺し屋が?
半生かかって稼いだ金がその程度!?
小金なんぞ貯めてるとそこから、足がつくのでは?
と、疑問に思ったキドウだが、これでは足のつきようがない。
古着の販売と仕立て直しで、大いに潤ってる独り者の女性なら貯めていてもおかしくない金額であった。
キドウは、内ポケットに忍ばせた得物に手をやった。
しばらく前からつけられている。
仕掛け屋は、必ずしも超人的な戦士では無い。
師匠お気に入りのギンやリクなら、完全武装の衛士十人でもものともしないだろうが、キドウは違う。
真正面から同じくらいの体格の者と殴り合いになったら、たぶん下から3番目くらいだろう。
上級魔道学校のレベルは高く、そのなかでは、彼は上の下、くらいだ。
暴力ごとには、まったく向いていない。
尾行に気が付かないフリをして、キドウは次の路地を曲がった。
繁華街の一角ではあるが、いわゆる夜の商売の店が並ぶ一角だ。
昼間のこの時間は、通るものはまずいない。
尾行していた男は、キドウと鉢合わせをしそうになって、慌てて立ち止まった。
キドウも知った顔だった。
ゲオルク子爵家の三男坊ノウブル。歳が同じくらいなので、パーティで同じテーブルを囲んだこともある。
いわゆる、敬虔な聖光教の信者で、親もまた教皇庁に勤務しているはずだった。
「や、やあ、キドウ。」
慌てたようすを隠すことも無く、ノウブルは手を挙げて挨拶した。
「知った顔をこんな、ところで見かけたもので、ひ、久しぶりにすこしはなしがしたくてね。声をかけようとおもってのだが、きみの足が早くて。」
「これはすいません、ノウブルさま。」
キドウは腰をかがめた。
まわりには人がいない。
この路地を覗き込んでいるものもいない。
「いつぞやのパーティ以来ですね。ご存知かとも思いますが、魔道学校へなんとか入学できまして、わたしのような凡才は授業についていくのがやっと。ついつい、出不精になりまして。」
「そうか、そうなのか。ところで話しというのは」
ノウブルが短剣を抜くよりも、キドウが指にはさんだ試験管の中身を、ノウブルにかけるほうが早かった。
わずかに発光する青い液体は、ノウブルの顔にかかった。
叫びさえあげられず。
ノウブルの頭部が溶解した。
そのまま、路地に倒れ込む。
「カオナシ」のキドウ。これが彼の二つ名であった。彼の特製の溶解液は、一瞬で相手を即死させる。
顔を溶かして服を脱がせてしまえば、今日の治安の悪いミトラでは、身元の判明は極めて難しくなる。
キドウは、一歩下がって、壁にもたれかかった。
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彼の得意技である身ぐるみをはいで、身元不明死体を装うか、それともたまたま変死を目撃した善良な市民を装って助けを求めるか。
この判断は微妙なものが、あった。
だが、このとき彼には、考える時間は与えられなかった。
顔の半分が溶け崩れたノウブルが、身を起こしたからである。
のどの奥から発するうなりは、あごと舌が再生されると、直ぐに明瞭な言葉となった。
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キドウの毒薬は、その影響範囲を広げている。首から胸、さらに腹部まで、蚯蚓脹れがひろがり、それが破裂して内蔵が垣間見える。だがノウブル、いやノウブルの姿をした何かの再生能力のほうが上だ。
もう、顔や頭は完全に元通りだ。
喉から胸に広がった火傷もみるみる正常な皮膚に、おきかわっていく。
「きさまはなんだ!」
キドウは、少しでも遠ざかろうと、壁に体を押しつけた。
「悪魔か!?」
心外なことを、きく。
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