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クローディア大公の結婚式

長い夜1

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ドロシーは、言ってしまってから、後悔している。
「踊る道化師」の名前を出してしまったが、「仕掛け屋」と面識のあるメンバーはほとんどいないのだ。 
ジウルは、「仕掛け屋」との面談を終えた時点で、ドロシーはひとまず、無事と判断して、とっとと、グランダへとトンボ帰りした。
ミトラまでの「仕掛け屋」と一緒に旅をしたのは、アキルとオルガだったが、二人を巻き込むのはごめんこうむりたかった。
なにしろ、邪神と銀灰皇国の姫君だ。
厄介ごとの上に、厄介ごとを乗せてどうする?

アライアスが、語ったように、神子制度そのものを終わりにすることが。目的ならば、そのためにハロルドという人物の命を奪うことは、ドロシーはよしとしない。
アライアスは、少なくともハロルドを恨んではいない。憎んでもいない。
ガルフィートが言っていたように、彼を守りきれなかったことをむしろ、すまないと思っているようだぅた。

あれこれ考えても、なにも思いつかない。
かと言って現在の状況をそのまま、「仕掛け屋」に伝えようとも思わなかった。

ジウルに拉致されるようなかっこうで、グランダ魔道院のごたごたに巻き込まれて帰ってきて、さっそくこの有様だ。

困ったときは、ルト、だな。
彼女が、グランダに行く直前まで、鉄道公社との交渉に奔走していたのは、知っている。
工事や運営面もそうだが、着工と並行して導入を希望されている「ダル紙幣」の流通の問題だ。
これは、ドロシーにもなんのアドバイスも出来なかった。
なぜ、紙幣に少々複雑な印刷を施しただけのものが「かね」なのか、と問われても、ランゴバルド生まれで、ランゴバルド育ちのドロシーにとっては、物心ついたころから、お金はそういうものだった。
むしろ、金貨や銀貨は、おとぎ話の産物だと思っていたくらいだ。それがいまだに流通してるなんて!
グランダはどんなド田舎なんだろう。

ルトとそれに、主役であるクローディア大公がそっちにかかりきりだったので、結婚式の準備も遅遅として進まず、というわけだ。
(最大の遅延原因は、もちろん会場に予定していた大聖堂がぶち壊されたからである。)


ドロシーは、ベッドを抜け出して、身支度を整えた。
そっと、窓を開ける。
アライアス家の客室は主屋とは、別棟にあり、ドロシーの部屋は三階だった。
しばらく、暗さに目をならしてから、「浮遊」の魔法をかけて、窓から身を躍らせた。
落下の速度は、対して変わらない。
だが、地上を踏んだ感触は、まるで落ち葉が舞い降りたよう。

そのまま、助走をつけて、壁を飛び越える。
魔女にとって夜はまだはじまったばかりだった。


ギンは、後ろを付かず離れず、歩くリクに、そっとサインを送った。
つけられている。

リクは、ほんのすこし首をひいた。
ギンは、街角の客引きに、話しかけた。酒と食事、それに女も世話をする店だ。苦み走った顔立ちに、頑強な体躯のリクに女がしなだれかかる。

ギンは、その様子を横目でみながら、足を早めた。
追っ手は、三人。
足元でわかる。気配の消し方でわかる。一通りは収めているが、二流。

巻いて逃げるだけなら簡単だ。
返り討ちも、この場所、この時間ならかまわない。
だが、それでは不満足。
捕らえて、背後関係を吐かせる。

ギンは、細い路地にすいと、はいった。
あまりに露骨な誘いかとも思ったが、相手はのってきた。
男がふたり、女がひとり。

路地は行き止まりだった。生ゴミで汚れた石畳は、あまり奥まで歩く気にはならない。
振り返ると、出口をふさぐ形で三人が立ちふさがる。得物は短剣だ。

「いいか。殺すなよ。」
リーダーらしき女が、低い声で言った。
冒険者くずれ、らしい。手入れの悪い鎧は、錆びたり、黴がはえたり、している。
「こいつらの仲間の居場所を吐かせるんだ。」

“冒険者”くずれなのだろう。もし、本当に裏稼業のどっぷり浸かったものなら、仕掛け屋に仕掛けようなど。

“天地が逆さまになっても思わないものだ。”

三人組の背後を塞ぐように、リクが現れた。

「女、がリーダーだ。」
ギンは、冷たく言った。
「男ふたりは殺せ。」

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