179 / 248
宴の後始末 小悪党どもの日常
魔女のお料理
しおりを挟む
竜は、前足で地面をかいた。全体のフォルムは、トカゲよりは犀に似ているかもしれない。
顔のツノは鼻先ではなく、前頭部に生えていた。
それを前面に振り立てて、突進する。
ザザリはお玉を振りかざした。
ザザリのあるいはメアは、スープが得意料理だった。
煮込むのには時間がかかる、だがそれに相応しい結果も必ずついてくる。
メアはトマトをベースに、根菜類や骨付き肉をじっくりと煮込んだスープをよく作った。
ザザリは、古竜の血や新月の夜に闇森の奥の泉に咲く満月草の東に向いた葉の先端、子を孕んだヒキガエルの舌といった稀少な部位をじっくり煮込んだスープをよく作っていた。
前者は夫、つまり退位した『良識王』が大変好んでいたし、後者は、この世界、この宇宙を存在させているのもから、こぞって忌諱されていた。
今回、ザザリがお玉でまいたのは、もちろん後者である。
『現実』は堅牢なようで神経質で、潔癖症の少女のようなところがあった。
現実は現実を維持することをあきらめて、顰め面でどこかに走っていった。
あとに、なにを持ってこようが、ザザリの勝手である。
ザザリが生み出したのは巨大な土壁だった。高さが50メトルを超え、幅は100メトルを超える第三層の通路をすっぽりふさぎ、さらに厚みは50メトルに達した。
突然、出現した土かべに加速の距離さえ潰された巨竜は、壁にそれでも半ばまで穴を穿って、そこでとまった。
大量の土砂のなか、動くことも叶わない。
これが、もし古竜ならば、魔力を使って体の方を変化させつつ、土砂を跳ね除けて突破することもできただろう。だが、知性を獲得するまえの竜には、それも叶わなかった。
ザザリが、行おうとしていたこと。
それは、この竜を屈伏させ、従属下に置くことで擬似的な知性を獲得させることだった。
そうすれば、1000歳をすぎても、こいつは嵐竜にならずに済む。あとは、真なる知性に目覚めるまで、ゆっくり教育すればいい。
そのための戦いであり、それは上手くいっていた。
ここまでは!
土砂が吹っ飛び、竜はその威容を再び表した。
いや、「土砂」などと、気軽に言ってくれるな、それは小高い丘ほどもある質量だ。
咄嗟に浮かんで、自ら作り出した土壁の残骸に埋もれるのを回避したザザリは、目を見開いた。
土砂を跳ね除けて浮かびあがった竜の背には、7枚の羽が生えていた。
よく見かけるコウモリの翼に似たものでは無い。左右が非対称なことを除けば、それは昆虫に似た半透明のものだった。
それが、細かく震えている。
それが一種の羽ばたきであり、ほとんど魔法を使わぬまま、巨体を空中に静止させている理由でもあるのだろうか。
「人間にしては凄まじい魔法を使う。」
竜は言った。
「しかし、この程度では、我は屈することは無い。我を従魔にしたければもっと、もっと、己の威を、見せるがいい。」
額から、肩から、肘からのびた角が輝き、ブレスを吹き出した。
いや、そのクチバシに似た口は閉じられたままだったので、正確にはブレスではないのだろう。
次々と放出されるそれは、光の槍と呼ばれる魔法に似ていた。
並の魔導師ならば、まず使えない。
たとえ使えるものでも、一度使ったら、魔力の枯渇を起こすだろう。そのレベルの魔法だ。
ザザリの「お玉」がそれを弾き返した・・・いや、すくい返したのか。光のやりは、次々と軌道をはずれて、床や壁、天井などを破壊した。破片がとびちり、ザザリの頬をかすめた。
同時に発動される光の槍は十本を越えている。
それを一本のお玉で、さばくザザリは、口元に笑いをうかべている。ちなみにそれはメアが、同じお玉でスープをかき混ぜているときの表情だ。
「同じ方向から同じタイミングで射出される攻撃魔法ではいくらでもさばける。」
ザザリは、からかうように竜に呼びかけた。
「威力は単体では、まあまあだが、竜の『ブレス』としてはあまりにも弱い。これでは『古竜』にはなれぬなあ。」
その嘲りに答えるように、竜は嘴をあけると輝く宝珠を打ち出した。
顔のツノは鼻先ではなく、前頭部に生えていた。
それを前面に振り立てて、突進する。
ザザリはお玉を振りかざした。
ザザリのあるいはメアは、スープが得意料理だった。
煮込むのには時間がかかる、だがそれに相応しい結果も必ずついてくる。
メアはトマトをベースに、根菜類や骨付き肉をじっくりと煮込んだスープをよく作った。
ザザリは、古竜の血や新月の夜に闇森の奥の泉に咲く満月草の東に向いた葉の先端、子を孕んだヒキガエルの舌といった稀少な部位をじっくり煮込んだスープをよく作っていた。
前者は夫、つまり退位した『良識王』が大変好んでいたし、後者は、この世界、この宇宙を存在させているのもから、こぞって忌諱されていた。
今回、ザザリがお玉でまいたのは、もちろん後者である。
『現実』は堅牢なようで神経質で、潔癖症の少女のようなところがあった。
現実は現実を維持することをあきらめて、顰め面でどこかに走っていった。
あとに、なにを持ってこようが、ザザリの勝手である。
ザザリが生み出したのは巨大な土壁だった。高さが50メトルを超え、幅は100メトルを超える第三層の通路をすっぽりふさぎ、さらに厚みは50メトルに達した。
突然、出現した土かべに加速の距離さえ潰された巨竜は、壁にそれでも半ばまで穴を穿って、そこでとまった。
大量の土砂のなか、動くことも叶わない。
これが、もし古竜ならば、魔力を使って体の方を変化させつつ、土砂を跳ね除けて突破することもできただろう。だが、知性を獲得するまえの竜には、それも叶わなかった。
ザザリが、行おうとしていたこと。
それは、この竜を屈伏させ、従属下に置くことで擬似的な知性を獲得させることだった。
そうすれば、1000歳をすぎても、こいつは嵐竜にならずに済む。あとは、真なる知性に目覚めるまで、ゆっくり教育すればいい。
そのための戦いであり、それは上手くいっていた。
ここまでは!
土砂が吹っ飛び、竜はその威容を再び表した。
いや、「土砂」などと、気軽に言ってくれるな、それは小高い丘ほどもある質量だ。
咄嗟に浮かんで、自ら作り出した土壁の残骸に埋もれるのを回避したザザリは、目を見開いた。
土砂を跳ね除けて浮かびあがった竜の背には、7枚の羽が生えていた。
よく見かけるコウモリの翼に似たものでは無い。左右が非対称なことを除けば、それは昆虫に似た半透明のものだった。
それが、細かく震えている。
それが一種の羽ばたきであり、ほとんど魔法を使わぬまま、巨体を空中に静止させている理由でもあるのだろうか。
「人間にしては凄まじい魔法を使う。」
竜は言った。
「しかし、この程度では、我は屈することは無い。我を従魔にしたければもっと、もっと、己の威を、見せるがいい。」
額から、肩から、肘からのびた角が輝き、ブレスを吹き出した。
いや、そのクチバシに似た口は閉じられたままだったので、正確にはブレスではないのだろう。
次々と放出されるそれは、光の槍と呼ばれる魔法に似ていた。
並の魔導師ならば、まず使えない。
たとえ使えるものでも、一度使ったら、魔力の枯渇を起こすだろう。そのレベルの魔法だ。
ザザリの「お玉」がそれを弾き返した・・・いや、すくい返したのか。光のやりは、次々と軌道をはずれて、床や壁、天井などを破壊した。破片がとびちり、ザザリの頬をかすめた。
同時に発動される光の槍は十本を越えている。
それを一本のお玉で、さばくザザリは、口元に笑いをうかべている。ちなみにそれはメアが、同じお玉でスープをかき混ぜているときの表情だ。
「同じ方向から同じタイミングで射出される攻撃魔法ではいくらでもさばける。」
ザザリは、からかうように竜に呼びかけた。
「威力は単体では、まあまあだが、竜の『ブレス』としてはあまりにも弱い。これでは『古竜』にはなれぬなあ。」
その嘲りに答えるように、竜は嘴をあけると輝く宝珠を打ち出した。
0
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説
かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる
竜頭蛇
ファンタジー
伊藤淳は都内の某所にあるダンジョン配信者事務所のマネージャーをしており、かつて人気配信者を目指していた時の憧憬を抱えつつも、忙しない日々を送っていた。
ある時、ワーカーホリックになりかねていた淳を心配した社長から休暇を取らせられることになり、特に休日に何もすることがなく、暇になった淳は半年先にあるS級ダンジョン『破滅の扉』の配信プロジェクトの下見をすることで時間を潰すことにする.
モンスターの攻撃を利用していたウォータースライダーを息抜きで満喫していると、日本発のS級ダンジョン配信という箔に目が眩んだ事務所のNO.1配信者最上ヒカリとそのマネージャーの大口大火と鉢合わせする.
その配信で姿を晒すことになった淳は、さまざまな実力者から一目を置かれる様になり、世界に名を轟かす配信者となる.
お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。
勇者としての役割、与えられた力。
クラスメイトに協力的なお姫様。
しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。
突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。
そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。
なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ!
──王城ごと。
王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された!
そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。
何故元の世界に帰ってきてしまったのか?
そして何故か使えない魔法。
どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。
それを他所に内心あわてている生徒が一人。
それこそが磯貝章だった。
「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」
目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。
幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる