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宴の後始末 小悪党どもの日常

魔女のお料理

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竜は、前足で地面をかいた。全体のフォルムは、トカゲよりは犀に似ているかもしれない。
顔のツノは鼻先ではなく、前頭部に生えていた。
それを前面に振り立てて、突進する。

ザザリはお玉を振りかざした。

ザザリのあるいはメアは、スープが得意料理だった。
煮込むのには時間がかかる、だがそれに相応しい結果も必ずついてくる。

メアはトマトをベースに、根菜類や骨付き肉をじっくりと煮込んだスープをよく作った。
ザザリは、古竜の血や新月の夜に闇森の奥の泉に咲く満月草の東に向いた葉の先端、子を孕んだヒキガエルの舌といった稀少な部位をじっくり煮込んだスープをよく作っていた。

前者は夫、つまり退位した『良識王』が大変好んでいたし、後者は、この世界、この宇宙を存在させているのもから、こぞって忌諱されていた。

今回、ザザリがお玉でまいたのは、もちろん後者である。

『現実』は堅牢なようで神経質で、潔癖症の少女のようなところがあった。
現実は現実を維持することをあきらめて、顰め面でどこかに走っていった。
あとに、なにを持ってこようが、ザザリの勝手である。

ザザリが生み出したのは巨大な土壁だった。高さが50メトルを超え、幅は100メトルを超える第三層の通路をすっぽりふさぎ、さらに厚みは50メトルに達した。

突然、出現した土かべに加速の距離さえ潰された巨竜は、壁にそれでも半ばまで穴を穿って、そこでとまった。
大量の土砂のなか、動くことも叶わない。
これが、もし古竜ならば、魔力を使って体の方を変化させつつ、土砂を跳ね除けて突破することもできただろう。だが、知性を獲得するまえの竜には、それも叶わなかった。

ザザリが、行おうとしていたこと。
それは、この竜を屈伏させ、従属下に置くことで擬似的な知性を獲得させることだった。
そうすれば、1000歳をすぎても、こいつは嵐竜にならずに済む。あとは、真なる知性に目覚めるまで、ゆっくり教育すればいい。

そのための戦いであり、それは上手くいっていた。
ここまでは!

土砂が吹っ飛び、竜はその威容を再び表した。
いや、「土砂」などと、気軽に言ってくれるな、それは小高い丘ほどもある質量だ。

咄嗟に浮かんで、自ら作り出した土壁の残骸に埋もれるのを回避したザザリは、目を見開いた。
土砂を跳ね除けて浮かびあがった竜の背には、7枚の羽が生えていた。
よく見かけるコウモリの翼に似たものでは無い。左右が非対称なことを除けば、それは昆虫に似た半透明のものだった。

それが、細かく震えている。
それが一種の羽ばたきであり、ほとんど魔法を使わぬまま、巨体を空中に静止させている理由でもあるのだろうか。

「人間にしては凄まじい魔法を使う。」
竜は言った。
「しかし、この程度では、我は屈することは無い。我を従魔にしたければもっと、もっと、己の威を、見せるがいい。」

額から、肩から、肘からのびた角が輝き、ブレスを吹き出した。
いや、そのクチバシに似た口は閉じられたままだったので、正確にはブレスではないのだろう。

次々と放出されるそれは、光の槍と呼ばれる魔法に似ていた。
並の魔導師ならば、まず使えない。
たとえ使えるものでも、一度使ったら、魔力の枯渇を起こすだろう。そのレベルの魔法だ。

ザザリの「お玉」がそれを弾き返した・・・いや、すくい返したのか。光のやりは、次々と軌道をはずれて、床や壁、天井などを破壊した。破片がとびちり、ザザリの頬をかすめた。
同時に発動される光の槍は十本を越えている。
それを一本のお玉で、さばくザザリは、口元に笑いをうかべている。ちなみにそれはメアが、同じお玉でスープをかき混ぜているときの表情だ。

「同じ方向から同じタイミングで射出される攻撃魔法ではいくらでもさばける。」
ザザリは、からかうように竜に呼びかけた。
「威力は単体では、まあまあだが、竜の『ブレス』としてはあまりにも弱い。これでは『古竜』にはなれぬなあ。」

その嘲りに答えるように、竜は嘴をあけると輝く宝珠を打ち出した。

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