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宴の後始末

2、わしがグランダ王国財務卿バルゴール伯爵である!!!

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のちのち、この一連の事件は、外交的な、あるいは軍事的示威の失敗の典型としてミトラの歴史書に刻まれることになるのだか、ここまての行動でディクト=バランを責めるものはまずいない。
このときも、彼は全員を引き連れていては、いくらなんでもやり過ぎと判断して、彼と、あと1人でクローディアのもとを訪れたのだ。

流石に風格のあるクローディア公爵家の正門を、それでも王宮が仕立ててくれた馬車は通り過ぎ、どこへ向かうのかと、バランが疑問に思ううちに、馬車は裏道に入った。
やや、道幅は狭いものも、瀟洒な店が立ち並ぶ、小奇麗な商店街である。
だがそれは道の片側のみであって、反対側は、貴族屋敷の塀が延々と並ぶだかの殺風景なものだった。
「西方域諸国連合」を、名乗った相手を裏口から入らせることに、バランは別に当たり散らしたりはしなかった。
 あとで交渉の歳の材料にとっておく。
それくらいのことは、やれる男であった。

馬車は、一軒の店にの前にとまる。
やや草臥れた看板が風に揺れる。
「ギルド 不死鳥の冠」。

「カテリア嬢、これは」
「さっき、申し上げた通りです。」
カテリアは、慣れた手つきでドアを開けた。
「クローディア閣下は、」
顔見知りもいるらしく、人形を抱いたグレーのマントの少女に手を上げる。
「ヨウィス殿。閣下はこちらか?」

ヨウィスと、よばれた少女は無言で奥を指さした。

席はほぼいっぱいである。

ギルドとしては、それほど大規模なものではない。
依頼ごとの受付カウンター、素材の買い取りカウンターはいまは、だれもたっていなかった。
奥が酒場になっていたが、いま、そこは豪奢な衣服で身を包んだ者たちでごった返していた。
その衣装は、中央の政界に身を置くバランから見ると、少々時代錯誤気味で垢抜けないものであったが、確かにグランダの政治の中心が、いま、ここ、であることは間違いなさそうであった。

クローディア公爵自身は、胸板の厚みを誇示するような革の胴巻きで、これは貴族でも将軍でもなく、どこからどう見ても一介の冒険者にしか見えない。
その公爵に、猛然と詰め寄っているのは、歌劇から飛び出してきたのかと見紛うばかりの悪徳貴族である。
でっぷりと太った体をキンキラした衣装で飾り立て、頭頂部は見事に禿げ上がり、いやらしい口ひげを生やしている。

「なぜ、私が財務卿なのかご説明いただけますでしょうか? 陛下。」
「簡単なことですぞ、バルゴール閣下」

偉丈夫は悠然と言った。

「適材適所です。」
「わ、わたしが、その」
言い難いことを言おうとするときのようにバルゴール伯爵は言葉を詰まらせた。
「ああ、そのつまり、わたしの悪いウワサのことも考慮いただいたうえでのご推挙、と理解してよろしいのですか?」

「もちろんですとも!」
クローディアは、にこやかに頷いたが、、次の言葉でバルゴールを蒼白とさせた。
「その、確たる尻尾を掴ませない手腕も含めて推挙させていただきました。」

バルゴールの表情は、抜擢をうけた貴族のものではなく、有罪判決をうけた収賄犯のそれだった。
「い、いや、ありがたいお話ですがわたしくとしては」
話が長引きそうだと見てとったカテリアは、注意を引くために、腰を屈める正式な一礼をしたのち、クローディアに話しかけた。

「大事なお話に割って入る非礼をお許しください、クローディア公爵閣下。」

なぜか、「公爵」と「閣下」に敏感に反応して彼女を睨むものがいる。

「これはこれは。聖帝国“剣聖”カテリア殿。
しばし、旅のお疲れを癒されるよう申し上げたのですが、ご体調はいかがですか?」

国の重要事項も話し合いの最中に、他国の者が割って入る。相当、無礼な話であったが、カテリアたちはあまり気にもしてはいない。
意識しなくても西域の強国である自分の国を上に考えいてる。
西域の人間が嫌われる原因のひとつではあるが、そのことも含めてカテリアは気にしていない。

「国元から増援が参りましたので、一刻も早くご紹介したいと存じましたので。」

「これはこれは。」

クローディアは立ち上がって、バランに一礼した。
バランも礼を返して、一通の書面を差し出す。

自らの素性、来国の目的などを記載した公式文書だった。口頭での挨拶の前に来訪した側がこれを渡す。
国交における最小限の礼儀であった。

「たった今、グランダに到着いたしました。王宮にてグランダ陛下に拝謁したい旨をお話ししたところ、なにやら込み入ったご事情の様子。
グランダを代表してお話の出来る方を探しておりましたところ、我が国のガルフィート伯爵家令嬢より、閣下のお名前をお聞きいたしました。」

「なるほど。」
クローディアの浮かべた笑みはこのとき「苦笑」に近い。
「“なにやら込み入った”の中には、わたくし自身も含まれておりまして、わたしくがグランダを代表するのにふさわしい立場なのかどうか。
まあ、うちうちのことはうちうちで解決いたします。
なにはともあれ、ご来着を心より歓迎申し上げます。バラン閣下。」

「ありがとうございます。クローディア公爵。」

バランは礼儀作法という点においては非の打ち所がなかったが、その目の奥に冷たい侮蔑の光がなかったか。

「早速にお渡しした文書の内容を施行させていただきたく、お願い申し上げます。」
クローディアは、書かれた内容をざっと把握した。

派遣されたのは、30名。
すべてが“竜人”からなる通称『聖竜師団』と呼ばれる戦力である。
小隊に満たぬ人数で師団、を名乗るのは稀少性からではない。実際にその戦力を秘めているが故である。
そして、グランダ来訪の目的は

「『魔王宮』の攻略と管理をしてくださる…と?」

「我らが来たからにはご安心ください。」
バランは逞しい胸を叩いた。
「聞けば、半世紀の間に変貌をとげた魔王宮に、多数の死傷者が出ているとか。
我らが先兵となり、魔物を掃討いたしましょう。入坑管理、素材の回収、換金、遭難したパーティの救出、負傷者の手当てなど細やかなこともすべて請け負いいたします。
グランダはただ、報告と利益を受け取るだけで良いのです。」

「迷宮の管理は、その迷宮が位置する場所を領土とする国が行うはずだ!」

あまりの無茶振りに、バルゴールが叫んだ。

「それをなんの権利があって取り上げる!」

「ほう?」
バランがじろりとバルゴールを睨んだ。
「この国の貴族のようですが、これは国と国との話し合いです。国政に責のない者はたとえ貴族と言えど、発言する資格はない。」

「わ、わたしは」
バスゴールは無我夢中で叫んだ。
「この国の次期財務卿だ! 迷宮からの利益はグランダの国益に直結する!
他国の勝手な介入を黙って見過ごすわけにはいかない。」

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