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宴の後始末

1,西方域正規軍来る!

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この日、「西域諸国連合」の正規軍として、グランダ王都に降り立ったのはわずかに30名。
近代的な軍の編成としては、一個小隊という規模である。
また内情的にも「西域諸国連合」を名乗るには、あまりにもおこがましい。
派遣された兵は、ギウリーク聖帝国と欠員を埋める形でランゴバルドの傭兵が少々。

そもそも「西域諸国連合」を名乗ってよいかの議論は、このときは未だに続いていた。

1000年前の魔族の侵攻後に興った国々はもともと、魔王に対する危機感が薄く、ようするに新しい迷宮について、利権がほしいだけなのだろうと勘ぐる国々も多く、おそらくガルフィート伯爵家令嬢“剣聖”カテリアが危惧した通り、調査パーティの出立に3ヶ月、軍の派遣は年をまたいでから、ということになりかねない。

「西域諸国連合」その下に小さな小さな文字で「有志」と書かれた旗をもった、兵がいま、グランダ王宮の城門前にたっていた。

「『西欧諸国連合(有志)派遣軍の隊長を勤めておりますディクト=バランです。
陛下にお目にかかりたい。」

門番、としか呼べないようなしょぼくれた衛兵が口ごもる。

「陛下は・・・・その引退されまして。」

「ふざけているのならば、当方にも考えがあるが?」

内情はともかく、到着した30名が精鋭中の精鋭であることは間違いない。
なにしろ全員が「竜人」なのである。

ギウリーク聖帝国中の軍から竜人をかき集めて、足りないところをランゴバルドから借り受けた、という内情だが、とにかくこれは、師団がいきなり駐屯してきたのに等しい戦力だ。

「ならば、今のグランダ陛下にお目にかかりたい。」

「エルマート王太子は、まだ、その即位の儀もすませておられない状況でして・・・」

どうも王が突然、引退したというのは事実らしい。
混乱もしているのだろうが、それにしても王宮の警備ですら、この有り様!
「・・・ならば、話のわかる閣僚か高位貴族をよんでもらおう。我々は遊びにきたのではない。」

一部隊の隊長ごときのセリフではなかったが、ディクト=バランは、将軍であると同時に伯爵位ももっている。
外交でも武力でも、自在に行うことができる陣営を送りこむギウリーク聖帝国は、やはり大国には違いない。

「バラン伯爵閣下!」

軽装鎧に身を包んだ少女が慌てたように奥から、走ってきた。

「これは!
ガルフィート伯爵家令嬢。

遅参いたしましたことをお詫び申し上げます。
我々が来たからには、もうご心配にはおよびません。
して、勇者クロノ殿はどちらに?」

「わたしも一昨日、グランダに着いたばかりで。状況は混乱しています。
グランダの王が引退したのは、事実のようですわ。
あとは、第二王子のエルマートが継ぐことに決まったようだけど・・・

とにかく、誰になにを話せばちゃんと答えが返ってくるかもわからない状態なのよ!」

剣聖カテリアは、クロノのために持参した聖剣を謎の少女に奪われて、自害すら考え、王都に戻ったところ、聖剣を携えたクロノに再会でき、安堵のあまりそのまま気絶し、起きたときには、王が引退していたらしい。

うむ。

ディクト=バランはこころの中で思った。

だめだ、こりゃ。

カテリアはたしかに剣聖にふさわしい才能の持ち主ではあったが、まだあまりにも若く、世間知らずだ。
クロノは、初代勇者の記憶を引き継いでいると評判ではあったが、移り気でミトラの上層部からはあまり評判がよろしくない。

今回は、クロノが『魔王宮』解放の話を聞きつけて、なにも言わずに出奔し、カテリアがそのあとを追ったという図式になっているが。

“要はガルフィード伯爵家の監督不行き届きにつきるな。”

ディクト=バランはそう考えざるを得ない。

「いま、打ち合わせが可能な貴族のうち、もっとも高位の方とお目にかかりたい。」

尋ねてきた相手に交渉すべき政府も、戦うべき軍隊もない、という状況はどちらの分野にも経験の厚いディクト=バランにもめったにない事態であった。

「それなら、クローディア公爵閣下がいいと思う。
クロノも公爵のお屋敷にお世話になっているそうだし。」

「白狼将軍クローディア閣下か!」

確かに西域、中原にまで名の轟いた人物ではあるが、北の守護神と呼ばれる武人で、中央の政治にはほとんど関与することがないと聞いてはいたが・・・

「ではクローディア閣下のお屋敷に案内いただけるか? カテリア嬢。」

「もちろんです。今の時間ならば、『不死鳥の冠』ってギルドにいるはずですから、そちらに。」

また、話がわからなくなってきた。
まあ、いい。

ディクト=バランは、ずらりと揃った30名の部下(中には『部下』ではないものも混じっていたが)に目をやった。

なあに。
これだけの戦力ならば、無理矢理にでも言うことをきかせてやるさ!


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