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第76話 冒険者たち ミア=イアとその弟子
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ミア=イアが目を開けたとき、目の前には焚き火が炊かれていた。
鍋が掛けられ、とりあえず食欲をそそるような液体が煮えている。
ミア=イアはおそるおそる体を起こした。
鎧は脱がされ、体に、手足に厚く包帯が巻かれていた。
「起きたか。」
魔道人形は無表情のまま、手のひらをミア=イアの背に当てた。
「おまえが意識を失っている間に、治療は行ったが、それは痛みを和らげ、出血を止めただけだ。
テオにインストールされた治癒魔法は意識を保った状態でかけたほうが、効果がたかい。」
そう言いながら、隣に座るドルバーザを見上げた。
「・・・・流れすぎた血は、高性能な魔道人形であるテオが作ったスープを飲むことで補充するといい。
と、おっしゃっている。」
「俺は別に無口でも人嫌いでもないんだが、そう誤解されている原因がわかったぞ。」
「と、おっしゃいますと?」
「おまえのせいだな、テオ。」
さあ?なんのことやら、と言いながらテオは、背に、腰に、肩に、額に、次々と手を当てていく。
その度に、手を当てられて部分が清水で洗われたように、熱と痛みが引いていく。
一通りその作業が終わると、スープの入った椀を渡された。
はじめて味わう香料がややクセを感じるが不快な匂いではない。
向かいには・・・・・
岩に腰を下ろす青銀の髪の美少年が。
やや朦朧としていた意識が戻り、ミア=イアはスープを吹き出しかけた。
「そ、そいつは・・・・」
「自分でパーティに勧誘しておいて、いまさらそれはない話だ。
そう思うだろう?テオ。」
「おっしゃるとおりです、ドルバーザさま。」
元“蜘蛛”は手(脚)を振って笑った。
指先は、人間のそれのように桃色の爪を備えて、すこしも剣のようには見えない。
その剣の部分は、腰に履いた鞘の中に収まっているのだろう。
スキルとして習得された能力を、あらためて武器として装備する意味は、ミア=イアにはわからなかったし、そんなことが可能なのかも考えたことはなかった。
しかし、もしそれが可能ならば反対に、そう例えば、剣を斧を槍を弓を自分のスキルとし取り込むこともまた可能なのだろうか。
ミア=イアは頭をぶるぶると振った。
そんな考察はもっとべつの人間に任せておこう。
例えば、ひとりスタンピードと呼ばれたクローディア公爵家のご令嬢とか。
その婚約者だった魔王の再来と噂される王子とか。
魔道院に百年君臨する妖怪じみた大魔道師とか。
自分のような地道で平凡な冒険者は、密やかに努力と工夫でこつこつと実績を積み重ねていくのだ。
地味。
平凡。
こつこつ。
ああ、元“蜘蛛”がまた笑っている。
緋のドルバーザが呆れている。
魔道人形がスープのお替りをよそってくれる。
「ここは?」
「第二層だ。」
元“蜘蛛”が答えた。
しなやかな指が、上方へ続く螺旋階段を指し示した。
「あれが、一層の溶岩湖の中の小島につながっている。
帰りもマグマのユニークは、だまって通してくれるはずだから、心ゆくまで二層を探索することができるぞ。」
まためまいがしてよろめいたミア=イアを魔道人形が抱きとめた。
言動に難ありとはいえ、テオが有能な魔道人形であることに疑いなかった。
「ち、ちせいのあるまもの・・・災害級の、ま、まものといっしょにぼうけん・・・・」
ミア=イアの形のいい唇をふるわせた。
「わたしは、へいぼん、な冒険者、じみにこつこつ・・・」
「ミア=イアはまだ体調がよくないと見える。」
元“蜘蛛”は心配そうに眉を顰めた。
「さらなる休息が必要か。または一度、迷宮の外で安息をとったほうがよいのだろうか?
ドルバーザと同類はどう判断する?」
「同類、と呼ぶな、テオという名前がある。あとドルバーザさまに気安く話しかけるな。」
「おまえも個別認識記号があるのだな。」
元“蜘蛛”が身を乗り出した。
「ちょうどいい。ぼくにも個別認識記号をつけてくれ。
人間は『名前』で呼び合うのだろう?
ぼくもミア=イアから名前で呼ばれたい。」
「ずいぶんとその女になついたな。」
テオが不満げに鼻をならした。
「さっき、おまえが殺しかけた相手だぞ。強さで言ってもおまえのほうがはるかに上だ。」
「ぼくがミア=イアより優れているのは、この体のもつ耐性と自動治癒だ。」
元“蜘蛛”はきっぱりと言った。
「剣の技量はミア=イアが上回っている。ぼくはミア=イアから剣を学びたい。」
「それはつまり」
黙って話をきいていたドルバーザがたまりかねて口をはさんだ。
「ミア=イアを剣の師匠として仕える、ということか?」
「人間がそう呼ぶならそれでかまわない。」
「ま、まものがわたしので、し? さいがいきうのま、も、のがで、し・・・」
今度こそ、ミア=イアは再び意識を手放した。
鍋が掛けられ、とりあえず食欲をそそるような液体が煮えている。
ミア=イアはおそるおそる体を起こした。
鎧は脱がされ、体に、手足に厚く包帯が巻かれていた。
「起きたか。」
魔道人形は無表情のまま、手のひらをミア=イアの背に当てた。
「おまえが意識を失っている間に、治療は行ったが、それは痛みを和らげ、出血を止めただけだ。
テオにインストールされた治癒魔法は意識を保った状態でかけたほうが、効果がたかい。」
そう言いながら、隣に座るドルバーザを見上げた。
「・・・・流れすぎた血は、高性能な魔道人形であるテオが作ったスープを飲むことで補充するといい。
と、おっしゃっている。」
「俺は別に無口でも人嫌いでもないんだが、そう誤解されている原因がわかったぞ。」
「と、おっしゃいますと?」
「おまえのせいだな、テオ。」
さあ?なんのことやら、と言いながらテオは、背に、腰に、肩に、額に、次々と手を当てていく。
その度に、手を当てられて部分が清水で洗われたように、熱と痛みが引いていく。
一通りその作業が終わると、スープの入った椀を渡された。
はじめて味わう香料がややクセを感じるが不快な匂いではない。
向かいには・・・・・
岩に腰を下ろす青銀の髪の美少年が。
やや朦朧としていた意識が戻り、ミア=イアはスープを吹き出しかけた。
「そ、そいつは・・・・」
「自分でパーティに勧誘しておいて、いまさらそれはない話だ。
そう思うだろう?テオ。」
「おっしゃるとおりです、ドルバーザさま。」
元“蜘蛛”は手(脚)を振って笑った。
指先は、人間のそれのように桃色の爪を備えて、すこしも剣のようには見えない。
その剣の部分は、腰に履いた鞘の中に収まっているのだろう。
スキルとして習得された能力を、あらためて武器として装備する意味は、ミア=イアにはわからなかったし、そんなことが可能なのかも考えたことはなかった。
しかし、もしそれが可能ならば反対に、そう例えば、剣を斧を槍を弓を自分のスキルとし取り込むこともまた可能なのだろうか。
ミア=イアは頭をぶるぶると振った。
そんな考察はもっとべつの人間に任せておこう。
例えば、ひとりスタンピードと呼ばれたクローディア公爵家のご令嬢とか。
その婚約者だった魔王の再来と噂される王子とか。
魔道院に百年君臨する妖怪じみた大魔道師とか。
自分のような地道で平凡な冒険者は、密やかに努力と工夫でこつこつと実績を積み重ねていくのだ。
地味。
平凡。
こつこつ。
ああ、元“蜘蛛”がまた笑っている。
緋のドルバーザが呆れている。
魔道人形がスープのお替りをよそってくれる。
「ここは?」
「第二層だ。」
元“蜘蛛”が答えた。
しなやかな指が、上方へ続く螺旋階段を指し示した。
「あれが、一層の溶岩湖の中の小島につながっている。
帰りもマグマのユニークは、だまって通してくれるはずだから、心ゆくまで二層を探索することができるぞ。」
まためまいがしてよろめいたミア=イアを魔道人形が抱きとめた。
言動に難ありとはいえ、テオが有能な魔道人形であることに疑いなかった。
「ち、ちせいのあるまもの・・・災害級の、ま、まものといっしょにぼうけん・・・・」
ミア=イアの形のいい唇をふるわせた。
「わたしは、へいぼん、な冒険者、じみにこつこつ・・・」
「ミア=イアはまだ体調がよくないと見える。」
元“蜘蛛”は心配そうに眉を顰めた。
「さらなる休息が必要か。または一度、迷宮の外で安息をとったほうがよいのだろうか?
ドルバーザと同類はどう判断する?」
「同類、と呼ぶな、テオという名前がある。あとドルバーザさまに気安く話しかけるな。」
「おまえも個別認識記号があるのだな。」
元“蜘蛛”が身を乗り出した。
「ちょうどいい。ぼくにも個別認識記号をつけてくれ。
人間は『名前』で呼び合うのだろう?
ぼくもミア=イアから名前で呼ばれたい。」
「ずいぶんとその女になついたな。」
テオが不満げに鼻をならした。
「さっき、おまえが殺しかけた相手だぞ。強さで言ってもおまえのほうがはるかに上だ。」
「ぼくがミア=イアより優れているのは、この体のもつ耐性と自動治癒だ。」
元“蜘蛛”はきっぱりと言った。
「剣の技量はミア=イアが上回っている。ぼくはミア=イアから剣を学びたい。」
「それはつまり」
黙って話をきいていたドルバーザがたまりかねて口をはさんだ。
「ミア=イアを剣の師匠として仕える、ということか?」
「人間がそう呼ぶならそれでかまわない。」
「ま、まものがわたしので、し? さいがいきうのま、も、のがで、し・・・」
今度こそ、ミア=イアは再び意識を手放した。
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