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第63話 導かれる者たち
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ルトが紡いだ鋼糸の網は、飛び交うウニどもを文字通り、一網打尽にした。
絡まり、自由を失いながらもてんでに棘を射出して抵抗するウニどもに。
投網を通じて、電流を流し。
終わり。
ザックは呆れ返って、ルトを見つめている。
ウニを絡め取るチャンスを作るために、再び棘の集中砲火にさらされたザックは、衣類を失ってほぼ全裸。
いや、靴だけが半分残っている、という意味不明ながらみっともないことだけはよくわかる姿だった。
自分の収納から着替えを・・・・さすがに心もとなくなってきたが、パンツとシャツだけはもうひとくみ、予備があった。
「これは・・・・」
思わず呻いた声を、ルトが聞きつけて振り返った。
「フェンリルの毛皮製の収納袋でしたっけ?
壊れないのはいいんですが、なくしたりはしないんですか?」
これは答えにくい質問だった。
ザックが沈黙していると
「いったい、い、つ、か、ら使っています?」
天井から垂れ下がる鍾乳石。
その一番太いものが、内側から輝き始めた。
「ああ、答えにくい。いや答えられないってことですね。
あなたの不死身の呪いの解析につながるような質問は、禁則事項にされている。
姑息な邪神のやりそうなことです。
あ、これはヴァルゴールを褒めてるんですよ。邪神と呼ばれる存在にとって姑息であることは別にマイナスになることではないと思うので。」
鍾乳石の輝きのなかから扉が現れる。
錆の浮いた鉄製の扉だ。
ギリギリと軋む音をたてながらそれが開いていく。
まともにやりあえば、英雄級の冒険者パーティでも苦戦を免れないウニの集団は、階層主の間への入口を守護する存在だったのだろう。
「そう、あなたの不死身は呪い、なんです。
階層主たちが看破したように。
それは超再生や時間の巻き戻しといった体を回復させるものではなくって、あなたをその姿に固定するためのものだ。」
ザックは沈黙をもって応えた。
「しかし、その呪いによってあなたは実質的に不死身になってしまった!
戦士に不死身というとんでもないアドバンテージを与えてでも、あなたを“その姿”にとどめておかねばならない。
そんなとんでもない対価を支払わねければならないほど、あなたの本来の姿とはとんでもないもの、だったんではないか・・・と。」
ルトはにっこりと笑った。
階層主への扉が開かれた。
内側から闇が漏れる。
生きとし生けるものすべてを憎んでやまない闇そのものが。
「フェンリルの毛皮で作られた収納袋、生まれたときから持っていたんですよ、ね。
なくしたりするはずがない。あなたの一部なんだから。
ねえ『彷徨える』フェンリルさん。
まあ、もう少し早く気がつくべきでした。そうすれば、ギムリウスとも、もっと早くに話ができたし、リヨンも痛い思いをせずにすんだかな。
ここまでで、間違っています?
間違ってたら言ってください。
もし間違った状態で、あなたの呪いを解いたら、あなたは魂ごと次元の間にふっとんでしまいますから。」
闇は、人の手の形をしていた。
ルトの首を、肩を、腕を掴み、扉の向こう側へと引き込もうとする。
ルトは抵抗しない。
抵抗できるような力ではなかったし、まさに彼は今、ザックの呪いの解呪へと彼のもつすべての魔力と魂と頭脳を集中させていた。
「あなたのパーティ仲間もあれこれと呪いで、ヴァルゴールに縛られている・・・と。
魔術師のカウラはもともとはあなたに使える巫女ですね。召喚士のルークは、かれが呼んで遊んでいる召喚獣のほうが本体だ。」
腰を掴み、足を掴み。
容赦の一切ないその力が、扉の奥へとルトを引きずり込んだ。
「・・・これで大丈夫・・・解けました。
タイミングはあなたにおまかせします。」
少年の笑みが白く見えた。
扉が閉まる。
「お・・・・」
“・・・・古き狼! 狼よ。聞こえるか?”
クリュークの声は、やや遠く聞こえる。
明瞭は明瞭なのだが、壁を一枚はさんだ感じ。
「ああ、クリューク様。」
ザックはのろのろと答えた。
「任務は完了です。
ご指示通りに、ハルトを第六階層主のもとに送り込みました。」
“よ、よくやった・・・しかし、早いな。”
「やつは、とんでもない魔法を開発してやがりました。
迷宮を一気にマッピングできる魔法です。
その魔法で、第三層から六層まで直通の隠し通路を見つけやがったんです。」
とんでもない話だが、もちろんウソである。
ほんとうのルトはさらにぶっとんでいたのであるが。
“その魔法・・・・欲しかったな。”
「残念ながら。」
ザックは見えぬクリュークに頭をさげた。
「万に一つの可能性ですが、魂をヒトガタに定着させ、生き残らせた例があるようです。」
“その魔法もほしいな。”
ザックの強欲な“元”主人のクスクスという笑いが聞こえたような気がした。
“急ぎ、地上に戻れ。状況がかわってきた。”
「と、言いますと?」
“当代の勇者と斧神アウデリア、クローディア公爵家の小娘がパーティを組んだ。
名前は『愚者の盾』。”
「ほお。」
と何気なく相槌をうったザックだが、クリュークが自らのパーティ名に古の勇者パーティ「栄光の盾」を名乗ったことを思い出して、絶句した。
「それは・・・それはまあ、なんというか。」
「おまえが思った以上に最悪だ。」
クリュークの渋面は、神たる力を媒介にした念話だけでも十分伝わった。
「当代勇者のクロノだが、本当に勇者の生まれ変わりらしい。アウデリアの言を信じるならば、だが。」
「そのアウデリアですが、あのアウデリアですか?」
“そのアウデリア以外のアウデリアをおまえは知っているのか?”
「ああ・・・・なるほど。
ならば、たしかに最悪ですね。わたしは地上でなにをすればいいんです?
まさか、勇者と斧神とクローディア公爵家令嬢のパーティに立ち向かえ、とかいうわけではないでしょう?」
“その三人は、『彷徨えるフェンリル』ごときが仕掛けようが、びくともせんだろう。
だが、ほかのパーティメンバーならば傷つけ、または倒すことも可能なはずだ。”
「で、のこりのメンバーっていうのは?」
“魔道院支配のボルテック卿、鋼糸使いの“隠者”ヨウィス。”
「最悪だ。」
“我らの増援、『竜殺』『神獣使い』『聖者』もまもなく到着する。倒せなくともやつらを止めろ。少しでも迷宮への攻略を妨害するのだ。”
「やれるだけのことはやってみますよ。」
ザックは、心のなかで舌を出した。
「今回については結果はあまり期待はせんでくださいよ。」
絡まり、自由を失いながらもてんでに棘を射出して抵抗するウニどもに。
投網を通じて、電流を流し。
終わり。
ザックは呆れ返って、ルトを見つめている。
ウニを絡め取るチャンスを作るために、再び棘の集中砲火にさらされたザックは、衣類を失ってほぼ全裸。
いや、靴だけが半分残っている、という意味不明ながらみっともないことだけはよくわかる姿だった。
自分の収納から着替えを・・・・さすがに心もとなくなってきたが、パンツとシャツだけはもうひとくみ、予備があった。
「これは・・・・」
思わず呻いた声を、ルトが聞きつけて振り返った。
「フェンリルの毛皮製の収納袋でしたっけ?
壊れないのはいいんですが、なくしたりはしないんですか?」
これは答えにくい質問だった。
ザックが沈黙していると
「いったい、い、つ、か、ら使っています?」
天井から垂れ下がる鍾乳石。
その一番太いものが、内側から輝き始めた。
「ああ、答えにくい。いや答えられないってことですね。
あなたの不死身の呪いの解析につながるような質問は、禁則事項にされている。
姑息な邪神のやりそうなことです。
あ、これはヴァルゴールを褒めてるんですよ。邪神と呼ばれる存在にとって姑息であることは別にマイナスになることではないと思うので。」
鍾乳石の輝きのなかから扉が現れる。
錆の浮いた鉄製の扉だ。
ギリギリと軋む音をたてながらそれが開いていく。
まともにやりあえば、英雄級の冒険者パーティでも苦戦を免れないウニの集団は、階層主の間への入口を守護する存在だったのだろう。
「そう、あなたの不死身は呪い、なんです。
階層主たちが看破したように。
それは超再生や時間の巻き戻しといった体を回復させるものではなくって、あなたをその姿に固定するためのものだ。」
ザックは沈黙をもって応えた。
「しかし、その呪いによってあなたは実質的に不死身になってしまった!
戦士に不死身というとんでもないアドバンテージを与えてでも、あなたを“その姿”にとどめておかねばならない。
そんなとんでもない対価を支払わねければならないほど、あなたの本来の姿とはとんでもないもの、だったんではないか・・・と。」
ルトはにっこりと笑った。
階層主への扉が開かれた。
内側から闇が漏れる。
生きとし生けるものすべてを憎んでやまない闇そのものが。
「フェンリルの毛皮で作られた収納袋、生まれたときから持っていたんですよ、ね。
なくしたりするはずがない。あなたの一部なんだから。
ねえ『彷徨える』フェンリルさん。
まあ、もう少し早く気がつくべきでした。そうすれば、ギムリウスとも、もっと早くに話ができたし、リヨンも痛い思いをせずにすんだかな。
ここまでで、間違っています?
間違ってたら言ってください。
もし間違った状態で、あなたの呪いを解いたら、あなたは魂ごと次元の間にふっとんでしまいますから。」
闇は、人の手の形をしていた。
ルトの首を、肩を、腕を掴み、扉の向こう側へと引き込もうとする。
ルトは抵抗しない。
抵抗できるような力ではなかったし、まさに彼は今、ザックの呪いの解呪へと彼のもつすべての魔力と魂と頭脳を集中させていた。
「あなたのパーティ仲間もあれこれと呪いで、ヴァルゴールに縛られている・・・と。
魔術師のカウラはもともとはあなたに使える巫女ですね。召喚士のルークは、かれが呼んで遊んでいる召喚獣のほうが本体だ。」
腰を掴み、足を掴み。
容赦の一切ないその力が、扉の奥へとルトを引きずり込んだ。
「・・・これで大丈夫・・・解けました。
タイミングはあなたにおまかせします。」
少年の笑みが白く見えた。
扉が閉まる。
「お・・・・」
“・・・・古き狼! 狼よ。聞こえるか?”
クリュークの声は、やや遠く聞こえる。
明瞭は明瞭なのだが、壁を一枚はさんだ感じ。
「ああ、クリューク様。」
ザックはのろのろと答えた。
「任務は完了です。
ご指示通りに、ハルトを第六階層主のもとに送り込みました。」
“よ、よくやった・・・しかし、早いな。”
「やつは、とんでもない魔法を開発してやがりました。
迷宮を一気にマッピングできる魔法です。
その魔法で、第三層から六層まで直通の隠し通路を見つけやがったんです。」
とんでもない話だが、もちろんウソである。
ほんとうのルトはさらにぶっとんでいたのであるが。
“その魔法・・・・欲しかったな。”
「残念ながら。」
ザックは見えぬクリュークに頭をさげた。
「万に一つの可能性ですが、魂をヒトガタに定着させ、生き残らせた例があるようです。」
“その魔法もほしいな。”
ザックの強欲な“元”主人のクスクスという笑いが聞こえたような気がした。
“急ぎ、地上に戻れ。状況がかわってきた。”
「と、言いますと?」
“当代の勇者と斧神アウデリア、クローディア公爵家の小娘がパーティを組んだ。
名前は『愚者の盾』。”
「ほお。」
と何気なく相槌をうったザックだが、クリュークが自らのパーティ名に古の勇者パーティ「栄光の盾」を名乗ったことを思い出して、絶句した。
「それは・・・それはまあ、なんというか。」
「おまえが思った以上に最悪だ。」
クリュークの渋面は、神たる力を媒介にした念話だけでも十分伝わった。
「当代勇者のクロノだが、本当に勇者の生まれ変わりらしい。アウデリアの言を信じるならば、だが。」
「そのアウデリアですが、あのアウデリアですか?」
“そのアウデリア以外のアウデリアをおまえは知っているのか?”
「ああ・・・・なるほど。
ならば、たしかに最悪ですね。わたしは地上でなにをすればいいんです?
まさか、勇者と斧神とクローディア公爵家令嬢のパーティに立ち向かえ、とかいうわけではないでしょう?」
“その三人は、『彷徨えるフェンリル』ごときが仕掛けようが、びくともせんだろう。
だが、ほかのパーティメンバーならば傷つけ、または倒すことも可能なはずだ。”
「で、のこりのメンバーっていうのは?」
“魔道院支配のボルテック卿、鋼糸使いの“隠者”ヨウィス。”
「最悪だ。」
“我らの増援、『竜殺』『神獣使い』『聖者』もまもなく到着する。倒せなくともやつらを止めろ。少しでも迷宮への攻略を妨害するのだ。”
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