上 下
64 / 248

第63話 導かれる者たち

しおりを挟む
ルトが紡いだ鋼糸の網は、飛び交うウニどもを文字通り、一網打尽にした。

絡まり、自由を失いながらもてんでに棘を射出して抵抗するウニどもに。
投網を通じて、電流を流し。

終わり。

ザックは呆れ返って、ルトを見つめている。
ウニを絡め取るチャンスを作るために、再び棘の集中砲火にさらされたザックは、衣類を失ってほぼ全裸。

いや、靴だけが半分残っている、という意味不明ながらみっともないことだけはよくわかる姿だった。

自分の収納から着替えを・・・・さすがに心もとなくなってきたが、パンツとシャツだけはもうひとくみ、予備があった。

「これは・・・・」

思わず呻いた声を、ルトが聞きつけて振り返った。

「フェンリルの毛皮製の収納袋でしたっけ?
壊れないのはいいんですが、なくしたりはしないんですか?」

これは答えにくい質問だった。
ザックが沈黙していると

「いったい、い、つ、か、ら使っています?」

天井から垂れ下がる鍾乳石。

その一番太いものが、内側から輝き始めた。

「ああ、答えにくい。いや答えられないってことですね。
あなたの不死身の呪いの解析につながるような質問は、禁則事項にされている。

姑息な邪神のやりそうなことです。

あ、これはヴァルゴールを褒めてるんですよ。邪神と呼ばれる存在にとって姑息であることは別にマイナスになることではないと思うので。」

鍾乳石の輝きのなかから扉が現れる。
錆の浮いた鉄製の扉だ。

ギリギリと軋む音をたてながらそれが開いていく。

まともにやりあえば、英雄級の冒険者パーティでも苦戦を免れないウニの集団は、階層主の間への入口を守護する存在だったのだろう。

「そう、あなたの不死身は呪い、なんです。
階層主たちが看破したように。

それは超再生や時間の巻き戻しといった体を回復させるものではなくって、あなたをその姿に固定するためのものだ。」

ザックは沈黙をもって応えた。

「しかし、その呪いによってあなたは実質的に不死身になってしまった!

戦士に不死身というとんでもないアドバンテージを与えてでも、あなたを“その姿”にとどめておかねばならない。

そんなとんでもない対価を支払わねければならないほど、あなたの本来の姿とはとんでもないもの、だったんではないか・・・と。」

ルトはにっこりと笑った。

階層主への扉が開かれた。

内側から闇が漏れる。

生きとし生けるものすべてを憎んでやまない闇そのものが。

「フェンリルの毛皮で作られた収納袋、生まれたときから持っていたんですよ、ね。
なくしたりするはずがない。あなたの一部なんだから。

ねえ『彷徨える』フェンリルさん。

まあ、もう少し早く気がつくべきでした。そうすれば、ギムリウスとも、もっと早くに話ができたし、リヨンも痛い思いをせずにすんだかな。

ここまでで、間違っています?
間違ってたら言ってください。

もし間違った状態で、あなたの呪いを解いたら、あなたは魂ごと次元の間にふっとんでしまいますから。」

闇は、人の手の形をしていた。

ルトの首を、肩を、腕を掴み、扉の向こう側へと引き込もうとする。

ルトは抵抗しない。
抵抗できるような力ではなかったし、まさに彼は今、ザックの呪いの解呪へと彼のもつすべての魔力と魂と頭脳を集中させていた。

「あなたのパーティ仲間もあれこれと呪いで、ヴァルゴールに縛られている・・・と。
魔術師のカウラはもともとはあなたに使える巫女ですね。召喚士のルークは、かれが呼んで遊んでいる召喚獣のほうが本体だ。」

腰を掴み、足を掴み。
容赦の一切ないその力が、扉の奥へとルトを引きずり込んだ。

「・・・これで大丈夫・・・解けました。
タイミングはあなたにおまかせします。」

少年の笑みが白く見えた。
扉が閉まる。

「お・・・・」

“・・・・古き狼! 狼よ。聞こえるか?”

クリュークの声は、やや遠く聞こえる。
明瞭は明瞭なのだが、壁を一枚はさんだ感じ。

「ああ、クリューク様。」

ザックはのろのろと答えた。

「任務は完了です。
ご指示通りに、ハルトを第六階層主のもとに送り込みました。」

“よ、よくやった・・・しかし、早いな。”

「やつは、とんでもない魔法を開発してやがりました。
迷宮を一気にマッピングできる魔法です。

その魔法で、第三層から六層まで直通の隠し通路を見つけやがったんです。」

とんでもない話だが、もちろんウソである。
ほんとうのルトはさらにぶっとんでいたのであるが。

“その魔法・・・・欲しかったな。”

「残念ながら。」
ザックは見えぬクリュークに頭をさげた。
「万に一つの可能性ですが、魂をヒトガタに定着させ、生き残らせた例があるようです。」

“その魔法もほしいな。”
ザックの強欲な“元”主人のクスクスという笑いが聞こえたような気がした。

“急ぎ、地上に戻れ。状況がかわってきた。”

「と、言いますと?」

“当代の勇者と斧神アウデリア、クローディア公爵家の小娘がパーティを組んだ。
名前は『愚者の盾』。”

「ほお。」
と何気なく相槌をうったザックだが、クリュークが自らのパーティ名に古の勇者パーティ「栄光の盾」を名乗ったことを思い出して、絶句した。

「それは・・・それはまあ、なんというか。」

「おまえが思った以上に最悪だ。」
クリュークの渋面は、神たる力を媒介にした念話だけでも十分伝わった。
「当代勇者のクロノだが、本当に勇者の生まれ変わりらしい。アウデリアの言を信じるならば、だが。」

「そのアウデリアですが、あのアウデリアですか?」

“そのアウデリア以外のアウデリアをおまえは知っているのか?”

「ああ・・・・なるほど。
ならば、たしかに最悪ですね。わたしは地上でなにをすればいいんです?
まさか、勇者と斧神とクローディア公爵家令嬢のパーティに立ち向かえ、とかいうわけではないでしょう?」

“その三人は、『彷徨えるフェンリル』ごときが仕掛けようが、びくともせんだろう。
だが、ほかのパーティメンバーならば傷つけ、または倒すことも可能なはずだ。”

「で、のこりのメンバーっていうのは?」

“魔道院支配のボルテック卿、鋼糸使いの“隠者”ヨウィス。”

「最悪だ。」

“我らの増援、『竜殺』『神獣使い』『聖者』もまもなく到着する。倒せなくともやつらを止めろ。少しでも迷宮への攻略を妨害するのだ。”

「やれるだけのことはやってみますよ。」
ザックは、心のなかで舌を出した。
「今回については結果はあまり期待はせんでくださいよ。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる

竜頭蛇
ファンタジー
伊藤淳は都内の某所にあるダンジョン配信者事務所のマネージャーをしており、かつて人気配信者を目指していた時の憧憬を抱えつつも、忙しない日々を送っていた。 ある時、ワーカーホリックになりかねていた淳を心配した社長から休暇を取らせられることになり、特に休日に何もすることがなく、暇になった淳は半年先にあるS級ダンジョン『破滅の扉』の配信プロジェクトの下見をすることで時間を潰すことにする. モンスターの攻撃を利用していたウォータースライダーを息抜きで満喫していると、日本発のS級ダンジョン配信という箔に目が眩んだ事務所のNO.1配信者最上ヒカリとそのマネージャーの大口大火と鉢合わせする. その配信で姿を晒すことになった淳は、さまざまな実力者から一目を置かれる様になり、世界に名を轟かす配信者となる.

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

異種族キャンプで全力スローライフを執行する……予定!

タジリユウ
ファンタジー
【1〜3巻発売中!】  とある街から歩いて2時間。そこはキャンプ場と呼ばれる不思議な場所で、種族や身分の差を気にせずに、釣りや読書や温泉を楽しみながら、見たこともない美味しい酒や料理を味わえる場所だという。  早期退職をして自分のキャンプ場を作るという夢を叶える直前に、神様の手違いで死んでしまった東村祐介。  お詫びに異世界に転生させてもらい、キャンプ場を作るためのチート能力を授かった。冒険者のダークエルフと出会い、キャンプ場を作ってスローライフを目指す予定なのだが…… 旧題:異世界でキャンプ場を作って全力でスローライフを執行する……予定!  ※カクヨム様でも投稿しております。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...